表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/14

閻魔

「スゥ」と酒呑童子様が深呼吸したのが聞こえた。そしてザッと勢いよく振り返った。

「これはこれは、閻魔様。お久しぶりです」

俺も恐る恐る振り返る。

閻魔様。死後、地獄か冥界に振り分ける裁判官。黒髪ショートヘア。疑い深そうな目。赤い道服。身長は160センチぐらい。そして意外と痩せている。

「酒呑童子。地底が何やら騒がしいから来たのだ。訳を聞こうか」

どうやら話は聞いてくれるらしい。すぐには地獄に落とされないようだ。

俺と酒呑童子様は閻魔様の前で跪いた。

「はい。閻魔様、実はこの人狼の娘が地上から落ちてきたのです。それで、どうしても地上に帰してあげたいという気持ちで娘を逃がしました」

「なるほどな」

「閻魔様。どうか、娘だけは見逃してください。俺のことはどうなっても構いません。なので、どうか、どうか娘だけは」

「事情はわかった。だが、1つだけ聞きたい」

「はい、なんでしょうか」

「酒呑童子、お前ではない。人狼のほうだ」

俺は思わず顔を上げた。

「その娘とやらは、娘の意思で帰ったのか?」

「──────ッ」

何も言えなかった。俺は、ただ咲那の寝言を聞いて判断したからだ。憶測で、あいつは地上に帰りたいんじゃないかって思って帰した。

「人狼、お前は憶測で帰したんだろう。娘の意思じゃない。現にこれを見ろ」

閻魔様は手鏡を取り出して、俺に見せた。そこに映っていたのは咲那で、地底と地上を結ぶ道に戻ろうと裸足で必死に走っている姿だった。

「咲那、なんで・・・」

「お前が父親だってことに気づいた。すぐに戻ってくるんだし今回のことは黙っておく。2度目はないぞ」

それだけ言って閻魔様は帰ろうと歩きだしたが、俺は「待ってください!」とどうしても聞きたいことがあって引き止めた。

「酒呑童子、席を外せ」

「はい」

酒呑童子様が去り、俺と閻魔様の1体1になった。

「1つどうしても聞きたいことがあります」

「・・・お前の兄のことか」

「はい」

閻魔様は少し迷って「知る覚悟があるか?」と聞いてきた。俺はもちろん即答した。

「ジンは、お前が地上に出たあとに酒呑童子以外の四天王と闘った。我と酒呑童子が駆けつけたときはもう、お前の兄は瀕死状態だった。掟を破ったお前の代わりとして今も尚罰を受けている。解放される時はわからない」

「では、ジン兄さんはまだ生きているんですか?!」

「生きているとも死んでいるとも言える。会いたいならまずこの箱を預けておく。だが、もしもジンと共にこの世界で暮らすというなら我直々に出向かうからな。精々行動には気をつけろ」

「ありがとうございます」

俺は小さな箱を受け取り、一礼した。顔を上げるともうそこに閻魔様の姿は無くなっていた。

俺は急いで門まで走っていった。




「全く、あの兄弟は。似た者同士だな」

地獄に戻り、自分の部屋に入り、死者の審判をする為に準備をしていた。


我は15年前のことを思い出した。


地底に辿り着いて見てみれば、右目は潰れ、左腕は折れて曲がっていて、口も切れていて、傷だらけ、血が頭から流れている人狼が捕らえられていた。

酒呑童子は間に合わなかった悔しさから歯をギチギチと鳴らしていた。

「・・ま・・・・うと・・・」

痛々しい身体から声が発せられる。

傍まで近寄って耳を傾ける。

「えん、ま、さま・・・」

「なんだ?言ってみろ」

「おとうと、だけは・・・」

自分のことよりも弟を優先だった。

「だめだ、やつが帰ってくる保証はないだろう」

「ぼくが、ぜんぶ・・・おとうとのぶんまで・・・つみを・・・せおいます」

「死んで償うのか?」

「いきてても、しんでても、どんなかたちでも・・・おとうとのぶんまでつぐない・・・ます」

誰しも死んで償うと言う。死ねば償えると勘違いしているのが多い。死ねば楽になる。死んで償うのは苦痛ではない。生きて償う方が苦痛だというのに。だが、この人狼は覚悟を決めているのだろう。半殺しになれば殺してと願う者が多い。楽になりたいから。なのに、痛々しい姿になっても本気で弟の為に償おうとしている。

「どんなに辛い思いをしても、償ってもらうぞ」

「はい」

その返事を聞いた我は人狼の頭に手を掲げて、魂を抜いた。途端に身体はバタッと倒れた。

「茨木童子、この身体を運んでついてこい」

「はい、わかりました」

「ああ、そうだ。四天王よ、このことは何があっても言ってはならぬぞ。もし外部に漏らせば地獄行きだ」

「はい」という言葉を聞き、安心した。鬼は嘘をつけない。もし何者かが質問しても答えられないとしか言えない。

我は魂を持ち、茨木童子と地底の奥底へと向かった。

「閻魔様、この者に罰を与えると仰いましたが、死にもせず生きもせずにどうやって罰を与えるのですか?」

「ああ、魂に直接ダメージを入れるんだ」

「生き地獄みたいなものですね」

「ああ、永遠のな」

地上の世界に干渉しては、妖怪と人間が争いを起こしてしまう可能性がある。地上に住む妖怪は力が弱く、主食は人間ではないし、人間が退治しやすい。だが、地底の妖怪は人を襲ったり人肉好きが多い。地上の人間を危険を晒してはいけない。そして1番やってはならないのが人狼が干渉してしまうこと。地上と地底を繋ぐ門番である人狼族が地上世界に干渉すれば、掟を破ったとして争いが起きる。多くの死者が出てしまう。それだけはなんとか防ぎたい。もし地上で人狼族の1人が掟を破ったという情報が出回った場合、この人狼にほぼ永遠の罰を与えていると説明すればいい。閻魔である私が言えば納得してくれるだろう。

「そこに身体を置いてくれ」

「わかりました」

置かれた身体を修復し、多少は元に戻った身体を今度は凍らせて保存する。

そして魂が逃げないように結界を張っておく。

幽体離脱みたいな状態にして、痛みをじっくり味わってもらう罰を与えよう。

「じゃ、またいつか会う日まで罰されてろよ」

地形を操って通路だった場所を封鎖し、結界を張る。そして、この結界を破ることができるように魔力を込めたヘマタイトを生み出して小さな箱に入れた。ヘマタイトは魔を祓うことができる石。だから結界の魔力を祓える。

「我はそろそろ仕事だ。帰る」

「はい、閻魔様。わざわざ来て下さりありがとうございます」



あの人狼は今も苦痛を味わっていることだろう。

15年しか罰を与えていないと思われるだろうが、あの空間にはもう1つ仕込んでいることがある。時間の流れだ。この世界では15年しか経っていないが、あの空間では100年経っている。

「さぁて、仕事だ。死者を通せ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ