子爵令嬢の末路
誤字報告ありがとうございますm(_ _)m
私の前世の記憶が甦ったのは高熱を出した15の時だった。その時はまだ貧民街にいて、1年後に母が死んで父だと言う子爵に引き取られ、母が子爵の愛人で私を身籠ったから捨てられたんだと知った。子爵家では子爵夫人に苛められながら貴族令嬢のマナーを学び、王立学園に通って高位貴族と縁を持てと言われた。その為に引き取ったのだと。
子爵は欲の塊で、命令を聞かなきゃまた平民に戻されるから、学園の最終学年に編入してから、必死に男の子達と仲良くなった。そうしているうちにここが前世でやってた乙女ゲームの世界だと気付いて、ゲームのように行動して攻略対象者達と仲良くなり、婚約者達と女生徒から色々言われたけど気にしなかった。だって王妃になるんだもん。でも攻略対象者の婚約者達は小言を言うだけで苛めはしてこないから自分で苛められてるようにして、攻略対象者達に泣きついた。そしたらゲーム通りに婚約者達は断罪され、王太子の婚約者になれた。これからは私を見下した奴等にやり返せると笑いが止まらなかった。
今の私は王城の地下牢にいる。皆を集めて公爵が冤罪を訴えたからだ。映像で自作自演の苛めもバレた。誰も助けに来てくれず、馬鹿な私にも全て失ったとわかった。
何日そこにいたのかわからなくなってきた頃、悪役令嬢が会いに来た。
「あら、大人しいのね。自分の今の状況がわかっているのね。」
暴れてわめき散らしていると思ってたんだろうか?
「何の用ですか。」
自分の今の立場位わかってる。
「ふふっ。貴女にお礼を言いにきたの。」
「お礼?」
「ええ、貴女のお蔭で王太子と間抜けな義兄を排除できたんだもの。」
嬉しそうに笑う彼女を見て、学園での人形の様な姿は擬態だったと悟った。
「ねえ、何故あの映像が撮れたと思う?」
「·····」
「貴女と同じ記憶がある人がいたの。」
吃驚した。だけどイチャラブイベントをあんなに都合良く映像に映すなんてそれしか考えられない。
「あなたが·····」
「あら、わたくしではないわ。宰相の所の婚約者よ。何でもエンドにならないと、自由に動けないとか言ってたわ。」
だから、今まで何もしなかったのか。そして逆ハーエンドが終了したから、反撃にでた。
私は自分がこの世界を動かしている気になってたけど、実際は悪役令嬢達の掌で踊らされてたんだ。もう笑いしか出ない。そんな私を悪役令嬢がじっと見ていた。
「貴女は思ったより頭がいいのね。あれから3日しかたってないのに、もう自分の置かれた立場がわかってる。あの間抜けな義兄は、まだ何が起きたか状況を理解していないのに。」
そりゃそうだ。幸せな夢からは誰も覚めたくない。
「そんな貴女が何故こんな真似を?ゲームの様になると本気で思ったの?」
やっぱりお嬢様だ。わかるわけない。
「ゲームは関係ない。私みたいに親を無くした貧民の子なんて、娼婦か犯罪組織に入るしかないのよ。子爵は俗物で高位貴族と関係を持ちたがってた。言う通りにしないと捨てられるのよ。母さんが死んでから私に本当の自由なんかなかった。」
だから、上を目指した。ゲームなんてそのナビみたいなものだった。
「·····そう。もしかしたら貴女が一番現実を見ていたのかもね。」
悪役令嬢は痛ましげに私を見て、出ていった。
それから何日かして、牢番に外に出された。こんな真夜中に処刑をするのかと疑問に思った。暫く寂れた道を歩いているとボロい馬車と、その横に悪役令嬢の従者がたっていた。彼は私に近づいて
「お嬢様から言伝です。『貴族の事は貴族で片をつける。平民を巻き込むを良しとしない』との事です。」
不満そうに言う。
「私からしたら貴女だって貴族で一番の元凶だと思ってますがね。貴女の処罰は子爵にすると言ってましたよ。」
そして私にずっしりとした革袋を押し付けボロ馬車に乗せた。
馬車が出発して中を見ると金貨とストレリチアを刺繍したハンカチが入っていた。輝かしい未来を意味する花が刺繍されたハンカチを握りしめ、涙が止まらなかった。
母さんが死んでからずっと怖かった。子爵家を出ていきたかったけど、行く所なんかなかった。王太子達は私を愛してた訳じゃない。自分達の現状に不満があって、総て肯定してくれる人なら誰でも良かっただけだ。私もただ死なない為に必死で媚を売ってたから同じ穴の狢。
あの従者が言うように私が一番罪が重い。なのに生きる為のお金を用意して未来をくれた。
ずっと感じてた恐怖が少しずつ消えていく。罪が消えたわけじゃないけど、それを抱えて進もう。
私が作っていく未来へ―――