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9/17

私達の初めての昼食(リリア)

リリア視点です

朝目覚めると、明るい朝日の中、誰も寝ていないベッドが見えた。


一瞬ここはどこだっけと考えて、昨日の自分の行動を思い出した。『アリア』の夫となったラウル様のお部屋に半ば強引にお邪魔したのだった。

どうやらラウル様はもう起きた後のようだ。


昨夜ははしたないことをしてしまったけど、これは『リリア』として戻されないための保険でもあったのだ。他人のお手付きの可能性があれば、尚のこと城へ戻される危険が減るだろうと考えたのだ。


しかし理由はあっても、誰にもこんなこと言えないし、恥ずかしいことをしたことには変わりはない。

羞恥心に負けそうになるが、このままここで考え込んでいてもどうにもならない。私は意を決して、起きることにした。


ラウル様の部屋から用意された自室に戻ると、既にメイドが待ってくれていた。メイドが着替えを手伝ってくれ、その後朝食のためダイニングまで案内をしてくれた。


「おはようございます。お義父様、お義母様、ラウル様。ラウル様、昨日は我が儘を聞いてくださりありがとうございました」


「いや、こちらこそ気が回らず申し訳なかった」


昨夜のことについて話す我々を、お義父様とお義母様はなぜか微笑ましい目で見ていた。すいません、そんな目で見ていただくような話ではないんです。


今朝の恥ずかしさに加え、申し訳なさまで抱えつつ、朝食をいただいた。温かな朝食は、昨日の夕食と同じく、とてもおいしかった。


「昨日はラウルの時間が取れなくて申し訳なかったね。まだ二人とも落ち着いて話もしていないだろう。どうだね、この後二人でゆっくり時間をとっては?」


お義父様が気をつかって声をかけてくださった。チラリとラウル様を見ると、彼は少し考えた後にこう答えた。


「落ち着いてお茶してお話ってのは柄じゃないんだ。よければうちの仕事や商品を紹介しながら話をするのはどうだろう?」


「勉強させてもらえるのでしたら嬉しいです。ぜひそれでお願いします」


勉強なんて大それたもんじゃないけどと苦笑いしながらも、ラウル様は私を連れて一階のお店の中を紹介してくれた。


ラウル様達のフィルバード商会は輸入品を多く取り扱っている商会だった。お城で各国との関係や特産品などは叩き込まれている。これまでは知識としてしか知らなかった香辛料や色とりどりの織物など外国の特産品が目の前にあり、私はとてもワクワクしていた。


ラウル様の説明の間にいくつか質問をしたが、彼は一つ一つ丁寧に答えてくれた。


説明を終える頃には、ちょうどお昼の時間になっていた。せっかくだしこのままご飯でも食べてらっしゃいとお義母様に送り出され、私達は近くのお店に昼食を食べに行くことになった。



近くのレストランで、オーダーを終えた後、ラウル様が午前を思い出しながらこうおっしゃった。


「しかし驚いたよ。君は外国のことに詳しいんだな。あの外国語のラベルが読めるとは思っていなかったよ」


「外国語は少々家庭教師に教わっていましたの」


王弟妃教育で五ヶ国語は叩き込まれました、とは間違っても言えず、私は話を濁そうとした。


「俺も簡単な用語ぐらいは覚えているが、あんなにスラスラ読めるなんて凄いことだよ。よく勉強したんだろうね。君は凄いな」




「ん?どうかしたか?」



急に俯いた私を見て、ラウル様が慌ててそう聞いてきた。


変に思われていると思うが、顔を上げられそうにはなかった。



ラウル様の言葉に私は泣きそうになっていた。


王城では厳しい教育は出来て当たり前、出来ないことは指摘されるばかりの日々だった。レイナルド殿下は私の勉強の進捗なんかをいちいち確認されるようなお立場の方ではなかったし、家族には勉強のことなど話すこともできなかった。


そしてその学んだことも、誰にも期待されるものではなかった。


だから、こうやって自分を認めてもらえることがこんなにも嬉しいとは思わなかった。心が温かくなり、笑おうとしたのに涙がポロポロと流れた。


涙でぐずぐずになりながらもこれは嬉し泣きであると説明する私に、ラウル様は更にこう言った。


「思ってたのとなんか違うな。でも、政略結婚って諦めてたけど、来てくれたのがあんたでよかったよ」


せっかく止まりかけてた涙がまた溢れ出した。そんな私を見て、おいおい店ん中でそろそろ勘弁してくれよとラウル様が弱ったように言ったが、泣かせたのはラウル様だ。


泣きながら、笑いながら、私達は昼食を一緒に取った。



私もこの人でよかったと思い始めていた。





そうやって私達は少しずつお互いを知り、距離を縮めていった。


同じ時間を過ごし、沢山の話をした。やがて私は彼をラウルと呼び、彼も私をアリアと呼ぶようになった。


もちろん本当の名前で呼んでもらえないことに寂しさは感じた。けど、ラウルは私のことを見て、私のことを考え、私のことを呼んでくれる。


誰にも顧みられず、ただ『リリア』と呼ばれていたことよりも、ずっとずっと幸せだった。


『リリア』はもう妹のものだ。私はここで、ラウルに、お義父様にお義母様に、お店の人たちに愛されるアリアになっていた。


嫁いできてから2ヶ月、二人用の大きなベッドが新しく用意された寝室で、私がラウルを受け入れた頃、市中にあるニュースが流れてきた。


王弟妃のご懐妊のニュースであった。



ついにこの日が来てしまったのか、と私はもう会うことも出来ない妹のことを思っていた。

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