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貴族のお嬢さんとの結婚(ラウル)

リリアの結婚相手の視点です。入れ替わった日からの話です。

俺、ラウル・フィルバードは急ぐ馬車の中で揺られていた。


今日は俺の婚姻の契約がなされる日なのだが、夕方も過ぎた今でも、まだに家に戻れずにいた。そのため、帰路を急がされているのだ。まさかあの道が事故で通れなくなり、こんなに迂回することになるとは思ってもいなかった。


契約自体は家長たる親父がいるので問題なく行われただろう。


しかし気が重い。あの貴族のお嬢さんが俺の妻となるとは。


見た目は俺にはもったいないぐらいの美人だ。貴族って感じの充分に手入れをされた金のかかった美人だが。


しかし一度しか会わなかったが、視線で平民と蔑まれているのを感じたし、それを隠そうともしていなかった。


例の鉱石に関わる政略結婚なのだが、この先の人生、ずっとあの女が横にいるようになるのかと思うと、つい重いため息をついてしまった。


商会のためだ、いい加減腹をくくれと己に言い聞かせながら、家までの道を急いだ。


家に着いたのは結局夜も遅くなった頃だった。出迎えた執事に帰宅を告げると、両親と例のお嬢さんが出てきた。


「アリアです。これからお世話になります」


そう頭を下げる彼女が今まで抱いていたイメージと違いすぎて、とっさに返事ができなかった。


さすがに家を出され、自身も貴族でなくなれば考えが変わったのか、それとも猫を被っているだけなのか、感心よりは不気味さが先に立った。

どちらにしても面倒くさい。曖昧に笑いながら返答をし、俺は逃げるように旅の埃を落とすと風呂へと向かった。


風呂と飯を済ませると、今回の商談の報告ついでに親父の部屋に顔を出した。当然、話は彼女のことにもなった。


「最初はどうかと思ったが、中々良さそうなお嬢さんだよ」


この数時間で何があったのか、親父はそんなことを言い出した。だが所詮いい年した親父の若い娘への評価だ。にこりと微笑まれでもしたらそれだけで変わるようなものだ。当てにはならない。


彼女のことの他に、商談から派生した話など、気付けば遅くまで親父と話し込んでしまった。色々予定外のことに疲れきった体で、自分の寝室のドアを開けた。


すると部屋には薄く明かりが点いていた。誰かがわざわざ点けてくれたのかと思いながら目を向けると、ベッドサイドのイスに俺の妻となった女性が座っていた。


彼女は俺に気付くと申し訳なさそうにこう切り出した。


「お疲れのところに申し訳ありません。今日はお帰りも遅かったのは知っているのですが、今夜はこの部屋においていただきたく、勝手に入らせてもらっていました」


さっきまで彼女の話をしていたのに、今夜が初夜であることをすっかり忘れていた。何も言わない俺に彼女はさらに言葉を重ねた。


「ご気分を害されるかもしれませんが、私が今夜別の部屋で過ごしたとなると今後の立場が微妙になります。私の都合で申し訳ないのですが、ここに留まることだけ許してもらえませんか?」


結婚したとしても彼女は俺には近寄らないだろうと思っていたため、寝室も特に何もしていない。俺が一人で眠っているベッドがそのままあるだけだ。


「しかし済まないが見ての通りまだ普通のベッドしか置いていないんだ」


「私はソファをお借りできれば大丈夫です」


にっこりと、でも貴族らしく有無を言わせないような笑顔で言われてしまった。ベッドを準備しなかったのはこちらだし、何より初夜に放置をしかけたという落ち度もある。そちらの立場など知らないから出ていけとも言いづらく、言い訳を考えているうちに「それもダメでしょうか?」と悲しそうに問われれば、許可を出すしかなかった。


「せめて君がベッドに……」


「いえ、ラウル様の方がお疲れなのですからベッドをお使いください。貴方ではソファだと足が出てしまいますよ。


それに行儀が悪いとさせてもらえなかったのですが、一度ソファでゴロゴロ寝転んでみたかったんです」


少し照れたように白状するその表情に、俺は毒気が抜かれるような気持ちになった。なるほど、悪い子ではないかもしれない。さっきは所詮おっさんの評価だとか思ってごめん親父。男はみんな単純だったわ。


結局そのまま押しきられ、俺はベッドで、彼女はソファで寝ることになった。


近くから聞こえる規則正しい寝息を聞きながら、俺は浅い睡眠を繰り返した。

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