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婚約者としての立場(リリア)

リリア視点です。リリアが婚約者であったころの話

私はレイナルド殿下の『名目上の』婚約者だ。


もちろん時期が来れば結婚するのは私だろう。そうすれば、『名目上の』妻になる。


だってレイナルド殿下には本当に愛する方がいらっしゃるから。


その方は侯爵家のご令嬢で、凛とした誰もが振り向くような美人だ。元々外交官を務める家系であるため教養も充分ある人だ。


ただ、彼女は現王妃の兄の娘、つまり姪なのだった。

王と王弟の妻を同じ家からは娶れない。貴族間のパワーバランスの問題だ。


それゆえ、殿下の婚約者候補からは彼女は最初から外されていた。


そのことは二人も理解していて、だからこそ本当に極一部の使用人以外には二人が相思相愛であることを完全に隠していた。


私が二人の関係に気づいたのは偶然だった。


ある日、厳しい外国語教育から自室へ戻る途中、かなり遅くなってしまったために庭の生け垣の切れ目を横切ってしまおうとこっそり庭を通っていたそのとき、窓から見つめ合う二人を見てしまったのだ。


その瞬間、今まで感じていた違和感に全て理由がついた気持ちになった。


殿下が公式の場以外でも公人のように私に接し続けること、執事長や侍女長が時折私に向ける複雑な視線。

なるほど、私は本命に不躾に押し入った横槍だったのだ。


落胆よりも納得が勝るような気持ちだった。


そんな気持ちを顔には出していなかったはずだが、ついご令嬢を目で追ってしまっていたのか、ある日殿下に呼び出され彼女とのことを説明された。


「結婚後、話をするつもりだったが、どうやら勘づいてしまったようだね。


そう、私が愛しているのは彼女だ。


本当はずっと婚約者を決めず、兄上の息子が立太子し、跡継ぎを作ったら彼女と結ばれるつもりだったんだ。そこまで待てば私も彼女もそれなりの年齢になる。王族の籍を抜け臣下になり、私が世継ぎをつくる気がないとなれば、彼女との結婚もできると思っていたんだ。


でもあの鉱石のせいで君との婚約をせざるを得なくなってしまった。他に合う年齢の王族は私以外いなかったからね。


当然この婚約にもかなり抵抗したよ。でも陛下が私にある条件を提示してきたから、この婚約を受けたんだ」


「条件ですか?」


恐る恐る聞き返した私に、殿下は冷ややかにこう言った。


「そう。君と結婚すれば、君が母親だということにして彼女との子供を設けていいと言われているんだ」


言われたことのあまりの衝撃に一瞬意味が理解できなかった。


心から愛されないことぐらいは理解していた。所詮、政略結婚なのだから。でもまさか、二人の愛の結晶のための犠牲になるとは思っていなかった。


「申し訳ないが君に拒否権はないんだ。家のことを思うならお父上にも相談などしないことだ。


勿論、今後も公の場でも、ここでの生活でも君を蔑ろにしたりはしない。君はただ『妻』としていてくれればいいんだ。協力してくれる限り、君の生活は保証するよ」


今までも思われなくとも、せめて何かの役に立てたらと勉強もずっとがんばってきた。でもそんなことも期待されてはいなかったのだ。


心にぽっかり穴が空いたような気持ちだったが、私にできるのはただ、「はい」と答えることだけだった。


そんなことがあっても私の殿下の婚約者としての日々は次の日からも普通に続いた。


「この言語がきちんと習得できませんと、公式の場で殿下の横に立てませんよ。しっかりお勉強ください」


「いいわよね、お姉様はあんな素敵な方が婚約者で。お姉様ばっかりずるいわ」


「殿下がお優しくしてくださるからといって調子に乗るのもいい加減になさい。実の妹にあんなひどいことを言うなんて。アリアに謝りなさい」


「お前が婚約者に選ばれたとき反対しておけばよかった。こんなひどい性格だったとはな。お優しい殿下に申し訳が立たない」


家族からの愛も失われる中、それでも私は恵まれた婚約者を持つ幸せな女として振る舞い続けなければならなかった。

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