殿下との日々(アリア)
引き続きアリア視点です。彼女が幸せなのはここまで。
朝目が覚めると、寝室に設えられたソファにレイナルド殿下が座っていた。寝起き姿であることを恥じらっている振りをすると、少し笑った後着替えのための侍女を呼んでくれた。
そこから二人で朝食を取った。
「昨夜は大丈夫だったかな?」と途中殿下はこそりと声をかけてきた。初夜に一人だったのだ、大丈夫ではない。かなりあり得ないと思っていたが、ここは控え目に「問題ありません」と答えておいた。
そこから午前中は外交官達の会議に同席し、仕事を少し割り当てられた。分かるものは処理したが、知らない言語の書類はさっぱりだった。
お昼前に書類を取りに来た役人は白紙の書類を見て少し顔をしかめたが、「頑張ったのだけど、お役に立てなくてごめんなさい」と涙目で言うと、慌てて謝ってきた。
ほらガリ勉なんて必要ないのよ。
午後からはゆっくりお茶をしたり自由な時間を過ごした。そして殿下と夕食をとり、今日こそは!と意気込んで寝室へと向かったが、慣れない生活への疲れか、殿下が来る前に眠ってしまった。
そんな日々を数日過ごしたある日の午前の会議で、隣国へ向かう使節団にレイナルド殿下が急に同行することが決まった。隣といえど別の国。仕事も含め行って帰ってくるには1ヶ月ほどかかるはずだ。使節団には何人か令嬢もいるため私も同行したいと訴えたが、それは断られた。
「旅に慣れていない君を連れていくのは不安だ。どうか私の帰りをここで待っていてくれないだろうか?私の帰ってくる場所を君に守っていてほしい」
あの甘い顔に正面からそんなことを囁かれたら、首を縦に振ることしかできなかった。
「その代わり、次の出国には同行できるよう手配しよう。なに、長旅にも耐えられる健康な体であることを医師に確認してもらえたらいいんだ。早速明日にでも医師を呼ぼう。私も離れるのはつらい。医師の言うことをよく聞いて、次は一緒に行けるようになってほしい」
レイナルド殿下からの愛情にとろけそうになりながら、私は何度も何度も頷いた。
言われたとおり、翌日すぐに医師がやってきた。私の体を一通り診た後、体力を補うためにといくつか薬を処方していった。
その薬のせいか、ときおり急にひどく眠くなることがあった。お陰で何度か庭のベンチで眠りそうになってしまった。
また医師の指示でいつもは基本ストレートで飲む紅茶にレモンを追加するようにした。ビタミン何とかがどうのと説明していたが、とりあえずレモンをなるべく食べればいいのだ。お茶の度に侍女に用意させた。
そんな生活も殿下からの手紙があったので何とか乗り越えられた。君と旅ができるのを楽しみにしている、なんて書かれていたので、吐きそうなぐらいまずい薬も全部飲むなど、どんな医師の指示にもがんばって従った。
そんな日々を過ごすこと2ヶ月、予定より長引いたが殿下はやっと帰って来た。
そして今晩、ついに私とレイナルド殿下は寝室で向き合っていた。待ち望んだ状況に喜びを抑えきれない私に、殿下は一枚の契約書を見せてきて、とんでもない話をしてきたのだった。