最高の日(アリア)
アリア視点です
その紋章入りの指輪をはめた瞬間、全てが満たされたような気持ちになった。
ずっとお姉様が付けているのを見るだけだった。でも相応しいのは私だと思っていた。
指に馴染む指輪をそっと撫で、私は『リリア』として、急に気分が悪くなってしまった『妹』を心配する振りをしながら、城を去る家族を見送った。
この後の予定はさっき既にお姉様から聞き出している。後は半日かけて明日の婚姻式に向けての準備だけだと言っていたので、侍女に従っておけば間違いないだろう。王弟妃となる私にどんな手入れをしてくれるのだろうか。上がりそうになる口角を必死に抑えながら、表面上はにこやかに『リリア』を呼ぶ侍女の方に向かった。
お城でのお手入れは最高だった。何人もの侍女が私の顔を、髪を、体を存分に磨き上げた。高級な化粧品が惜しげもなく使われ、生まれ変わったような気分だった。いや、相応しい場所に戻ったと言う方が正しいのかもしれない。全ての準備を終えたその日の夜、ふんわりとした香りに包まれた私は大満足で、ふかふかのベッドで横になった。
準備で慌ただしくしていたせいか夕食も部屋で一人で取り、殿下に一目も会えなかったのだけが残念だった。でも、明日からはいくらでも会えるし、あの素晴らしい方が私の旦那様になるのだ。
明日からの生活に胸を高鳴らせながら、私は眠りについた。
式の当日、繊細なレースがふんだんに使われた最高級のドレスに身を包み、レイナルド様の瞳の色であるサファイアをあしらったアクセサリーを付けた私は、両陛下や多くの貴族が見守る中で、レイナルド殿下と結婚の宣誓書にサインをした。
私はついに王弟妃となったのだ。
幸せな私の姿を見て、両親も涙ぐんでいた。両親に愛され、レイナルド殿下との愛も手に入れ、私は幸せの最高潮にいる気分だった。
その気持ちはパレードの最中もちっとも冷めることなどなく、私は最高の一日を過ごそうとしていた。
そんな幸せにちょっとしたケチが付いたのはその夜のことだった。
レイナルド殿下が陛下に呼ばれ、寝室に現れなかったのだ。初夜になんてデリカシーがないと憤慨したが相手が相手だ。文句を言うわけにもいかず、せっかくの最高の日の夜、私は一人眠りについた。