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蛇足2 両親

追加のざまぁと思いながら、あんまりそうはなりませんでした。ラウル視点です。

俺は10歳になる息子と共に、朝から王都の中心部へと向かう馬車に揺られていた。


今日は半年に一度の息子を連れて仕事に行く日だ。


まぁ仕事といいながら半分ぐらいは王都にいる友人や親戚のところに息子を連れて顔を出すのが目的だ。そのついでに自分の仕事を少し息子に見せていると言った方が正しい。


今日も馬車にはたくさんの手土産が積まれていた。



王都の中心部に着いてからまず、友人のところに顔を出した。そこで雑談ついでに王都の流行りの話を聞き、次に母方の親戚の家で昼食を食べた。

そこの家はもう子どもが成人しているので、息子はそこで盛大に子供扱いされ、複雑な表情をしていた。


子供扱いされたくないながらも、好意からくるそれを無下にもできないのだろう。そんな対応ができる程成長したのだなと、家では見られない一面を見た気持ちになった。


そこからもう一軒友人と、いつも一緒に仕入れをする輸入業者を訪ねた後、今日の最後の目的地に向かった。




そこは伯爵家ではあったが、爵位に似合わぬ豪華な屋敷を持っていた。


華やかにローズが咲き誇る庭を抜けた先、玄関で出迎えてくれた使用人に来訪を告げた。



「やぁフィルバード君、よく来てくれたね」


「ご無沙汰しております、アーバイン伯爵。本日はお招きいただき誠にありがとうございます」


「君と私の仲ではないか。固い挨拶はここまでにして、さ、座ってくれ」


「恐れ入ります」


俺たちの仲とは一体どういうものを言いたいのか、まさか今さら義理の親子ではないかとでも言い出す気なのだろうか?鼻で笑ってやりたかったがそれは心の中だけに止めておいた。


「ジェームズ君も大きくなったわね。今おいくつになったのかしら?」


「ありがとうございますアーバイン伯爵夫人。今年で10歳になります」


俺が心の中で鼻白んでいたとき、夫人が待ちきれんとばかりに息子に話しかけていた。しかし昔のような無邪気な反応を期待していたのだろう。息子の完全に客人に向けた態度に明らかにショックを受けたような顔をしていた。


夫婦揃って、全く身勝手なものだ。




俺がこうして商会の人間としてアリアの生家を訪れているのは、約八年前、ジェームズが二歳になる前に急にこの夫婦が我々に連絡を取ってきたからだった。


それは夫婦が期待し、愛情を一心に注いできたアリアの姉が亡くなった直後だった。


思い出したかのように、前触れもなくアリアを訪ねてきて、息子がいると知るなり孫に会わせろと騒ぎ出した。


縁を切ったのはそちらだとうちの両親がとりあえずその日は追い返したが、店の奥でこのことを見守っていたアリアは顔が真っ青になっていた。


ただでさえアリアは姉の訃報にかなりショックを受けていた。貴族でもない彼女は当然葬儀にも出られるはずもなく、落ち着いたら墓地のできるだけ近くまで行き、花を手向けようと話をしていたところだった。


アリアが家族から縁を切られた経緯は知らない。が、結婚の日に彼女を捨て置くように両親は帰っていったと聞いている。


よい理由でないということだけは確信を持っていた。



そこからのアリアは見ていられなかった。両親に会いたくない気持ちはあるが、自分の気持ちだけで孫に会う機会を奪うことを決断できない、そんな心の葛藤に悩まされ、ときには嗚咽を噛み殺しながら泣いていることもあった。


アリアのために全て突っぱねてやりたかったが、向こうは王家とも縁のある貴族だ。無理はできない。

それに完全に息子と会わせないとなると、それはそれで彼女は自分を責めるように思った。


そこで俺はアーバイン伯爵夫妻にある提案をした。


それがこの息子を伴ったアーバイン邸への訪問である。



商会の人間として、アーバイン邸を半年に一度子供を連れて訪問する。

あくまでも商会とお客様としてだ。

子供に同行は無理強いはしない。

そしてそこにアリアは同行しない。


これが俺が出した案だった。


当然夫妻は祖父母と名乗れないことに反対した。けれどもアリアの縁は切られている。書類上、血縁を証明するものはない。


何をもって祖父母と名乗るのですか?と語気を強めて聞いてやると、自分達の立場を理解したのか渋々だったが引き下がった。




こういう経緯で行われた訪問だったが、その時間は昔のように賑やかな子供の声が響くこともなく終わろうとしていた。


「ケーキはお好きかしら?うちのフルーツのパウンドケーキはおいしいのよ。それともクッキーにする?」


「最近子供たちがよく読むという冒険譚の本をもらったのだが、ジェームズ君はこういうのは読むかな?」


伯爵夫妻は色々と話しかけているが、息子もそろそろこの貴族夫妻の対応の違和感に気付いているのだろう。


昔は無邪気に受け取っていたが、今回はどれもやんわりと断りを入れていた。




全ての予定を終えて家へと帰る馬車の中、息子はため息をつきながらこうこぼした。


「リディアがあの家に行くのを嫌がって、今回から一緒に来なかった気持ちが分かってきたよ。あの人たち何か変だよね?」


今回からもう私は行かないわ、とツンと言い放った妹を出発前は訝しげにしていたのに、今日の訪問でこの子も思うところがあったようだ。


「伯爵夫妻は近くに孫がいないからな。お前を構い倒したいんだろう」


「えー、俺たちを自分の孫扱いしてたの?」


「お客様には色んな人がいるぞ。あんなのはまだ序の口だな」


わははと笑ってやれば、ジェームズはうえーと年相応の子供らしい顔をした。




「王都へ行く時期になると、お母さまはちょっと悲しそうにするの。だから私はもう行かない。うちでお母さまといるわ」


やはり女の子の方がそういった機微に聡いのか、妹のリディアは今回の話が出たとき俺にそう言ってきた。


今日は色々大人ぶった顔も見せてくれたが、そういう面ではやはりジェームズはまだまだ子供っぽい。そんなことを思っていると、ジェームズが俺の顔を覗き込んできて、こう言った。


「母さんのことも気になるけど、あっちはリディアがいてくれるもんね。大変なお客様のところに父さん一人で行くのは心配だから、次からも俺はついてきてあげるよ」



正直、驚いた。


二人ともまだ子供だと思っていたが、大人のことをしっかりと見ているようだった。


どちらも優しい子に育ってくれている。今回のことで改めてそのことを感じることができた。



両親のことは未だにアリアの心に小さなトゲとして刺さり続けているのだろう。


過去は変えられない。なら、これから俺たち家族でそんなことを忘れてしまうぐらい幸せなことを積み重ねていけばいいのだ。

君を愛する家族が側にいるってことを、俺たちが伝えていけばいいのだ。


とりあえずは今晩、この子供達の喜ばしい成長のことをアリアに話したいと思った。


涙もろい彼女のことだ。きっとこんな話を聞いたら喜びながらも涙を流すだろう。


あの日目を奪われた、あの美しい泣き笑いの表情がまた見れるかもしれない。


そんなことを思いながら、愛する家族の待つ家へと俺たちは帰ったのだった。

評価、ブックマークありがとうございます。たくさん読んでいただけて本当に嬉しいです。


これにて蛇足も完了です。

相変わらずざまぁらしいざまぁにはなりませんでしたが、相手に存在を知ってもらうこともできないというのもじわっとしたざまぁかなと思いました。


しばらく感想を受付しております。

よろしければご感想を聞かせていただければと思います。

小心者ですので、また閉じるかもしれませんがよろしくお願いします。


あと誤字報告もありがとうございました。

不馴れなものでやっとご連絡に気付きました。

追々直していきたいと思います。


漢字表記にするかや、話し言葉の部分など一部はご指摘いただいてもそのまま残す場合があります。

ご了承いただきますようお願いいたします。

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