表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/17

姉妹(リリア)

リリア視点です。

早いものでラウルと結婚して、半年以上が過ぎていた。


最近は店の商品のこともかなり覚えたので、少しずつではあるけど、店頭での手伝いもさせてもらえるようになった。


その日も私は店で仕事をしていた。外国の茶葉の特徴を調べていると、ラウルから声がかかった。


「アリア、悪いけどお客様の対応頼めないか?」


「いいわよ。応接室?」


「そうだ。お忍びのご老人が孫娘のためのプレゼントを探しているらしいんだ。店の子が今対応してるけど、あの子には貴族の相手はちょっと荷が重くてね」


「分かったわ。すぐ行くわ」


ラウルと共に応接室に入ると、護衛のような男性を伴ったご高齢の男性が座っているのが見えた。


「副店長のラウル・フィルバードと申します。商品のご説明ですが、より詳しいものと代わらせていただいてもよろしいでしょうか?」


ラウルがそう声をかけると、男性は「では、お願いするよ」と返事をし、こちらを振り返った。


その顔を見た瞬間、私は思わず固まってしまった。

しかし何も言わない訳にもいかず、私はぎこちないながらも何とか声を出した。


「アリア・フィルバードでございます」


私の挨拶を受けた男性は微笑みながら頷いた。


その人はレイナルド殿下の専属執事だった。




婚約者であったとき、殿下の側にいるこの人に何度も会ったことがあった。

殿下からも厚く信頼されている人だ。そんな人が何故今ごろ私のもとにやってきたのか、嫌な可能性ばかりが頭に浮かんできた。


そんな私の様子など気にする素振りも見せず、その男性、ガランド様は私にゆっくりと話しかけてきた。


「病気で臥せっている孫娘に何か贈り物をしたいんだ。だが年寄りでは若い娘の喜ぶものが分からなくてね。孫の歳に近い貴女のアドバイスをお聞きしたいんだ」


「分かりました。何かお好きなもの、お好きでないものなどは分かりますか?」


「ああ、あまり読書はしないので本は外してほしい。あと茶葉のような使ってしまうものより、ずっと置いて使ってもらえるものをお願いしたい」


「分かりました」


心臓はまだバクバクと、落ち着いていない。でも今はこの話に合わせるしかない。

ガランド様をなるべく視界に入れないようにしながら、さっきまで対応をしてくれていた店員の子にいくつかの商品を持ってくるようお願いした。




商品を待つ間も、届いてから説明を始めてからも、ガランド様は『私』のことには何も触れてこなかった。

ただ、様子を見に来ただけかもしれないと思い始めたとき、控え目に応接室のドアがノックされた。


顔を出した店員はラウルに、別のお客様が副店長を呼んでいると伝えに来た。いつもご贔屓にしてくれている貴族のお客様がお呼びとのことだった。


「ガランド様、誠に申し訳ございませんが、少し席を外させていただいてもよろしいでしょうか」


「私は構いませんよ。こちらは約束もせず来ているのですから」


承諾を得て、出ていこうとするラウルの上着の裾をとっさに掴みそうになった。

行かないでほしい。でも理由を説明できない。


結局、そんなことは出来ず、ドアから出ていく姿を見送るしかできなかった。




ラウルが出ていくと、護衛の男性がドアの方に動いた。

ぎゅっと拳を握った私に、ガランド様は苦笑のような顔でこう告げた。


「そう構えないでほしい。今日はただの使いとして来ただけですよ」


そういうとガランド様は荷物を机の上に置いた。


目線に促され包みを開けると、そこには金貨の入った袋と、ティーカップのセットが入っていた。


そのティーカップは婚約者になってお城で生活をするようになったときに、レイナルド殿下がくださったものだった。


「それは私の主人からのものです。貴女には厳しいことを課しており、また課そうとしておりましたが、それに懸命に応じてくださったことへの感謝のお気持ちとのことです」


懐かしい淡いブルーに金の縁取りが美しいティーカップをそっと手に取ってみた。これには三年間の色々な思い出が詰まっていた。


懐かしむように縁を撫でてから、私はティーカップを箱に戻した。


そして金貨とカップの入った箱を、そっとガランド様の方に押し返した。


「これは受け取れません。その方は私に一方的にそれを課すと決められたのです。私が持った感情ごと責任を取られるべきだと思います」


ガランド様は『主人』としか言っていない。殿下の名前を出さず、ここを非公式の場としている。だから不敬には当たらないはずだ。

そう自分に言い聞かせ、更に言葉を続けた。


「それに実際にそれを課されている人がいます。確かにその人は悪いことをしました。罪にも問われることでしょう。私もその人に色んなものを奪われました。


けど、姉妹なんです。一緒に育った姉妹なんです。


だからこれは受け取れません」


最後は声が震えてしまったが、何とか言い切った。


見せかけの妻、母になることは、私やアリアが何かをする前に決められていたことだった。


殿下の罪悪感のためだけに、これを受け取ることはできないと思った。




しばらく沈黙が落ちた後、ガランド様は小さく頷かれた。


「失礼致しました。若奥様のおっしゃる通りですな。決めたことの責任は自分で負わねばなりません」


そう言ってガランド様は包みを下げてくれた。


そこからは商品の説明の続きを求められたため、説明を再開した。




ラウルが戻った後、ガランド様は東国のつるりとした陶器が美しいオルゴールと、北国の織物のストールを買ってくださった。


どちらも説明した商品の中でも高価なものだった。



商品を包む間に、ガランド様はカードも頼みたいとおっしゃった。


ローズ色の鮮やかなカードを選ぶと、それをそっと私に渡した。


「孫娘のためにメッセージを書いてもらえないだろうか?あの子のいる地方には、元気な人からお見舞いのカードをもらうと病気が早く治るというジンクスがあってね。ぜひお願いしたい」


ガランド様の意図が読めず、困惑しながらも私はカードを受け取った。


「私の孫娘も『アリア』と言うんだ。もう五ヶ月ほど臥せっていてね。これも何かの縁だと思ってお願いしたい」


ガランド様は私の目を見ながら、優しくそうおっしゃった。



私は震えそうになる手で、メッセージを書いた。


もう声も届かないと思っていた。意図はしていなかったが、私の代わりにしてしまった。


こんなことが彼女の慰めになるかは分からない。でも、ただただ彼女のことを思って、メッセージを綴った。




「なんか変わった方だったな」


ガランド様を見送ってから、ラウルは私にそう言った。


「ええ、でもきっととてもお優しい方よ」


私はカードの行く先を思いながら、そう答えた。





それから一年。私の腕の中には小さな男の子がいる。ラウルと私の子供だ。


赤ん坊が眠る揺りかごの側には、小さなオルゴールを置いている。


優しいメロディを奏でながら、陶器でできた二羽の小鳥が寄り添うようにして、回っている。


午後の柔らかな日差しの中、同じメロディを耳にしているであろう誰かのことをそっと心の中で思っていた。

これにて完結です。


書くことって難しいですが、楽しかったです。

よければ評価よろしくお願いします。


またネタが浮かんだら書きたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ