第93話 ウィングホーンを狩る
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ブックマーク、評価を付けてくれた方ありがとうございます。
獲物はウィングホーンに変更された。
僕たちはウィングホーンの足跡を辿っていく。
「絶対に獲物の足跡の上を歩かないで下さい」
ロラン王子以下、他の人たちにも注意する。
「足跡の上を歩くとどうなるのだ、ルーシェル?」
「ウィングホーンは魔獣の中でも臆病な魔物です。だから、木の上で過ごすことが多いんですけど、地上で動く場合、なるべく天敵の足跡を避けるルートを獲ります。翻ると、自分の足跡がついたルートは安全と考えるんですよ」
「ほう。そうなると、あやつらは同じルートを通るということか。その近くで身を伏せておけば、獲物を狩れるということか」
「ロラン王子、その通りです」
「逆に自分のルートの上に、人間や天敵の足跡があれば警戒して通らなくなるということだな。うーむ。獣とは、意外と合理的に動いているのだな」
前にもレクチャーしたが、鹿や猪は遠い場所の様子について臭いや音を頼りにするが、近い場所だと自分の目に頼る。これはそのままウィングホーンにも当てはめることができる。
「では、今何をやっている? 足跡を辿っているだけに見えるが?」
「足跡の先に巣穴があればいいなと思っていたのですが、そこまでは都合良くいきませんね」
足跡は木の前で止まっていた。
どうやら木に登ったらしい。角と鉤爪の後がしっかり残っていた。
「一旦引き返して、隠れるのに最適な場所を探します。あと、すみませんが、護衛の方で金属系の防具を着けている人は脱いで、音が鳴らないように仕舞って下さい。野生動物も、魔獣も金属の音――というより、自然にあまりない音に敏感なので」
昔、僕が仕留めたアイアンアントなんか特に金属音に敏感だ。魔力の他に、金属を好む彼らにとって、冒険者が付けている防具や武器は好餌でしかないのだ。
ウィングホーンの足跡を中心に、僕たちは岩場や茂みに隠れて待つ。
僕もロラン王子と一緒に、茂みの中で息を潜めた。
足跡までの距離は30歩分。それはつまり、練習した時の的の距離と一緒だ。
「なあ、ルーシェル。こうやって待っていていいのか? 余はもっと野山を駆けまわって、獲物を仕留めるものだと思っていたのだが……」
「そういう狩りもありますけど、その場合山の地形を緻密に把握しておく必要があります。それに山を駆け回るのは、とても体力がいります。僕はともかくリーリスやロラン王子の体力では難しいでしょう」
「そこまで考えていたか。さすがは優秀なる教師だな。頼りにしてるぞ」
「大丈夫ですよ。優秀な教師には、優秀な生徒がいますからね」
「言うではないか。繊細さも、笑いのセンスもないが、ジョークとして悪くない」
それって、もはやジョークって言えるのかな。
すると、僕たちよりも麓側で待っていた騎士の1人が合図を送ってくる。
思ったよりも早く獲物がやってきたらしい。
僕は【気配探知】を使う。間違いない、ウィングホーンだ。
今は前肢を地面に付けて、身体をやや前傾させながらこっちに近づいてきている。
警戒しているな。
多分、以前歩いた時とは違う気配に気付いたんだろう。
それが僕たちの臭いか、あるいは異質な音を聞いたのかわからない。
ただ足跡のルートから外れないのは、確証が持てていないことの顕れと見ていい。
僕はロラン王子の耳元で囁く。
「ロラン王子、繰り返しになりますが……」
「わかっておる。あやつが逃げる瞬間を狙うのだろう」
ロラン王子は矢筒からおもむろに矢を取り出し、弓弦に番う。
いつでも引き絞れる体勢を取った。
自分が狙われているとは知らず、ウィングホーンは自分の足跡の上を歩く。
相変わらず前傾姿勢のまま何かを警戒している様子だ。
「タイミングは僕が……」
「頼む!」
いよいよ僕たちの前に止まった。
距離感も申し分ない。
あとは、動く的を動かない的にするだけだ。
(よし! 今だ!!)
僕は軽い力でウィングホーンに向かって、石を投げる。
碧色の体毛が瞬間、逆立つ。
『キィエェエェエェエェエェエェエエエエエエ!!!』
奇妙な声を上げて、ウィングホーンは立ち上がった。
その場から急いで逃げるために、翼になっている前肢を立たせる。二本足で動いた時のウィングホーンはとても早い。鹿と同じ時速で森を駆け抜けていく。
だが、走り出す前にウィングホーンには決定的な弱点があった。
「ロラン王子!!」
僕が合図をすると、ロラン王子は茂みから出てくる。
すでに矢を構えていた。翼をばたつかせながら、立ち上がった大きな的に向かって弓を引き絞った。
そう。ウィングホーンの弱点が逃げる前の動作だ。
走り出す前に、翼をはためかせて、姿勢を整える必要がある。
その時、どうしても止まってしまうのだ。
シュンッ!!
ついに矢は放たれた。
真っ直ぐウィングホーンへと向かって行く。
すると、矢は見事ウィングホーンの首下付近に刺さった。
「やった!!」
ロラン王子は嬉々として拳を握る。
いや、まだだ。
『キィエェエェエェエェエェエェエエエエエエ!!』
再びウィングホーンは叫ぶ。
やはり浅い。さすがに、子どもが引いた矢ぐらいでは致命傷にはならない。
これが猪や鹿なら致命になってたかもだけど。
トドメは僕が――――。
動いた時、すでに二の矢は放たれていた。
またウィングホーンに刺さる。後ろ肢の根本付近に当たると、2本足で立っていた魔獣は崩れ落ちる。
「み、見事……」
僕は呆然としながら称賛を送った。
他の人間も同様だ。
しかし、1人ふっと息を吐いた子どもがいた。
ロラン王子である。
一の矢では仕留められないことはわかっていたのだろう。
それにしても、連射技術なんてどこで覚えたんだろうか。
弓の連射は難しい。
一射ごと撃つ作法とは、弓や矢の持ち方が変わったりする。
(やっぱりロラン王子って……)
「ルーシェル、世辞の前に指示をくれ。この後、どうしたらいい」
いけない。また考え事をしていた。
今は狩りに集中しないと。ロラン王子の護衛も兼ねているんだから。
すでにロラン王子は魔獣に近づきつつあった。
2本の矢が刺さり、横倒しになったウィングホーンは未晶化されることなく、未だ地面の上でジタバタともがいている。
「王子、まだ近づかないで。後は僕に任せて下さい」
「う、うむ。わかった」
ロラン王子が立ち止まった瞬間だった。
大きな影が王子を包む。
急に獣臭がきつくなった瞬間、僕の危機に関する感覚は一気に最高まで振り切れた。
ドンッ!
何か爆発でも起こしたかのように、それはロラン王子の正面に現れる。
曲剣のような牙を持ち、山全体にこだますような音量で吠えたのは、巨大な虎だった。
「ゼブライガー!!」
僕は突然現れた魔獣の存在に目を剥くのだった。
更新が遅れ気味ですみませんぬ。
どうもワクチンを打ってから、体調ががががが。
こっちも更新頑張るので、よろしくお願いします。








