第89話 王子、暗殺?
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ロラン・ダラード・ミルデガードは、ミルデガード王家の王子である。
といっても、王家の王子だけでも12人、同じ王位継承権を持つ者だけでも、21人もいる。
王家の王子、そしてミルデガード王国と言えば、列強に名を連ねる大国。
その次の王位継承者は国内外問わず、注目の的となる。
特にミルデガード王家は歴史上において、王位継承権順ではなく実力主義を謳ってきた。
時にきな臭い王位継承権争いを嫌い、穏便に次代の王を示した君主もいるが、大概において功績や、王家が行う儀式に於ける貢献度によって図ってきた。
現ミルデガード国王陛下は実力主義の最たるものと言ってもいい。
王宮は今、議会制を取ってはいるが、王の鶴の一声でひっくり返る政治が行われている。しかし、王や王家におもねるような制度を嫌う国王であるため、結果議会は緊張感のあるやりとりが常に行われていた。
余談が入ったが、王族に生まれたからには王位継承権争いは切っても切れない。
それは5歳のロラン王子とて、例外ではない。
生まれた時から命を狙われるような緊迫した毎日を送り続けている。
同時に、次代の王になるための努力も欠かさず、文武両道を貫いていた。
結果的にロラン王子の王宮での評価は決して低くない。
時折、他の王子王女が流す醜聞を除けば、ロラン王子は品行方正にて、次の賢君になり得るというのが専らの噂であった。
だが、彼はまだ5歳。評価はまだ早いという意見が大勢を占めていたが、彼が現在レティヴィア公爵家を後ろ盾としている頃から、王位継承権争いのトップグループに入ったと言われていた。
常に兄弟の歯牙が周りにある中、ロラン王子は王宮の一室で寛いでいた。
テーブルには封を切ったばかりの封筒が置かれ、現在本人が中身を確認中だ。
落ち着いたベージュ色の壁紙に、天井からはオーダーメイドの小さなシャンデリアが下がっていて、魔法光の灯りを反射して星のように光っていた。
本棚には大量の本があり、その本棚は南の壁一面を埋めている。
玩具といった類いはなく、バザーで買った拙い手芸の置物が並んでいるだけで、あまり子どもっぽい部屋とは言えなかった。
「汚ったない字だな……」
ロラン王子は手紙を見ながらニヤリと笑う。
王宮の廊下を歩く時は、いつも目尻を上げて歩いているロラン王子の顔は、年相応の少年の顔をしていた。
手紙の主と何か会話でもしているかのようにニヤニヤしていると、ノックが聞こえる。誰かと尋ねると、レティヴィア公爵家の納涼祭についていた側付きの声が返ってきた。
「どうぞ」
招き入れると、年配の側付きが荷車を押してやってくる。
荷車の上には、ティーセットが並び、すでに紅茶の芳醇な香りを王子の鼻腔を衝いていた。
「殿下、紅茶をお持ちしました」
「いつもありがとう」
ロラン王子は例え側付きだろうと礼は欠かさない。
鼻を衝く紅茶の香りを存分に堪能したところで、カップに口を付けた。
ちょうど良い温度に調整された紅茶を舌の上で転がす。
上品な渋味に、ロラン王子は思わず唸った。
「うまい」
「ありがとうございます」
側付きは笑顔で返す。
ロラン王子はティーカップを片手に外を見る。
銀杏が緑から黄色に変わり、やや木枯らしにも似た寒風が渦を巻いて枯れ葉を巻き上げていた。
窓に差し込む陽光は穏やかで、かつ温かい。
空に見事な青空が広がっていた。
「秋だな」
カップを持ったまま、ロラン王子は呟く。
あの納涼祭から2ヶ月半が過ぎようとしていた。
「ロラン王子、お手紙はどなたからだったんですか?」
「ああ。これはな」
説明を試みようと思った瞬間、ロラン王子の表情が急変する。
みるみる顔が竜胆のように青くなると、喉を押さえた。
「く…………。がは………………」
「王子! ロラン王子!!」
ソファに座っていた王子はテーブルに俯せになるように倒れる。
側付きを悲鳴のような声を上げて、王子の名前を呼ぶと、急変に気付いた衛兵たちがなだれ込んできた。
「誰か! 典医を! 早く――――ッ!」
それはもう怒声に近い。
王宮はその1日騒然とし、噂が飛び交った。
ロラン王子が、毒を盛られた、と――――。
◆◇◆◇◆
レティヴィア領内は、すっかり秋の気配だ。
窓の外を見ると、赤や黄色に染まった森の姿が見える。まだ青葉を残している種類もあって、この時期森も山も賑やかだ。
賑やかなのは木の葉の色だけではない。
動物にとっては実りの時期。冬眠をする動物にとっては、大事なかき入れ時になる。
山に住んでいた時、僕も必死になって野山を駆け巡って、脂の乗った猪や熊をターゲットにしてよく狩りに出たものだ。
昔はそれが当たり前だった。けど、そんな生活が今は懐かしく思う。
レティヴィア家に来て、もう4ヶ月。
300年も山で生活していたのに、それが遠い昔のように感じる。
確かに山の中でも色々なことがあったけど、この4ヶ月も年数に負けない程、色んなイベントや出会いがあったからだろう。
家族やユランとの再会を除けば、ロラン王子と出会えたのは、僥倖だった。
納涼祭でお菓子の家を披露してから、交友関係が広がった僕だけど、特にロラン王子とは非常に仲良くしてもらっている。
ロラン王子の後ろ盾がレティヴィア家で、さらに同性、年恰好も同じとなれば、お互い付き合い易いというのもあるのだろう(僕は300歳以上だけど)。
納涼祭が終わり、ロラン王子がミルデガード王国王宮にお帰りになってからも、ずっと王子と手紙のやり取りを続けていた。
「王子からですか、ルーシェル」
リーリスは手紙を覗き込みながら、ソファに座っていた僕の横に座った。
「うん。……元気だって。今度『狩初めの儀』があって、兄弟揃って参加するみたい」
「ああ。『狩初めの儀』ですか……」
「リーリスは何か知ってるの?」
「王家が管理する山が4年に1度国民にも解放されるのですが、その豊作を祈って行われる行事です。国王陛下も参加されるんですよ」
「へぇ……。だから、ロラン王子。最近、弓の訓練をしてるんだね」
手紙に毎日弓弦を引いていたら、指先の皮が剥けたと書かれていた。
ちょっと頑張り過ぎだよ、王子は。
「でも、また会いたいなあ」
ロラン王子って不思議と馬が合うというか。安心できるというか。
横にいても、不安にならないというか。
ともかく、何かどんな人間も受け入れる度量を感じるんだ。
仮に王子が次の王様になれば、きっと良い君主になると思う。
そんなことをぼんやりと考えながら、外を眺めていると、蹄の音が聞こえた。馬車だ。
「お客さん?」
「おかしいですわね。予定は聞いていませんが」
今、クラヴィス父上は、ソフィーニ母さんとカリム兄さんと一緒に領地を回っている。
かなり込み入ったことのようで、3日ほど留守にするそうだ。
だから、今のところ屋敷を預かるのは…………え? リーリスってこと?
「大丈夫。多分ヴェンソンか、カンナが応対するはずです」
リーリスがそう言うと、しばらくしてカンナさんが居間にやって来た。
その顔は真っ赤になっている。
「はぅ~。金髪で、半ズボンも悪くないわねぇ」
「…………カンナさん?」
「はっ! 失礼しました! あまりに眼福な光景だったので、建前と本音が逆に!」
うん。なんとなくそういう気がしたけど、それお客さんの前でやらないでね。
「誰が来たのですか、カンナ」
「こほん。失礼しました。ルーシェル様、リーリス様、お二人にお客様です」
ロラン王子が参られました。
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