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第88話 みんなの夢

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挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

「というわけで――――」


 僕の声はお菓子の家と、引いては納涼祭の会場に響き渡る。


 お菓子の家の中にある構造上重要となる梁や柱を指差した。


 そこには例のカカオバチが作った丸い巣が使われている。


 茶色や白っぽい茶色、あるいは飴色。様々な色がマーブル状に混じっていて、一見おいしそうなお菓子にしか見えない。


 重要な建材だけど、これも食べられるお菓子の1つだ。


「大きくした後で、魔法で一旦凍らせ、その後にカカオバチの巣を建材にして補強しました。カカオバチの巣は薄いですが、とても頑丈です。それは六角形にあります」


「ああ……。ハニカム構造という奴か」


 ポンと手を打ったのは、カリム兄様だった。


 式典用の礼服をビシッと決めた兄様は、僕の話を聞いて頷く。


 貴族の中にも、兄様の話を聞いて「なるほど」と感心する人もいた。


「その通りです。この六角形になってる構造はとても頑丈な性質を持ちます。さらに空洞があるので、とても軽い」


 僕は魔法袋から手頃なサイズを1本取りだし、持ち上げてみせる。


 これは僕が力持ちだからというわけではない。


 建材となった巣自体が、とても軽いのだ。


 軽くて丈夫。これがハニカム構造の大きな利点だった。


「すごい。まさか魔獣が作る巣を建材に利用するとは……」

「しかも、理に叶っている」

「お菓子の家と侮っていたが、そこまで考えられているとは……」


 他の来賓方の目の色が変わってきた。


 魔獣が材料になっていることよりも、魔獣で作った建材やお菓子の家が思いの外本格的に作られていることに感心が向き始めている気がした。


「ルーシェル、1つ気になったのですが、この梁や柱に使われているカカオバチの巣は、わたくしが確認した時よりも小さくなっている気がするのですが」


「そう。小さくしたんだよ」


「あ。そうか。魔法を使ったんですね」


 その通り。カカオバチの自分たちの幼虫が入る大きさにしかハニカム構造が作れない。


 それだと建材が大きくなりすぎて、お菓子の家には使えないから、今度は魔法【縮小】を使って、ちょうど良いサイズにしたのだ。


 すべて僕の計画通り。


 でも、うまくいって良かった。


 後は、このお菓子の家の評判(ジャッジ)だけだ。


「如何でしょうか、皆様? よろしければ、覗いていかれませんか?」


 僕は遠巻きに見る来賓を手招きする。


 すると、他の子どもたちも外に出てきて、兎みたいに跳ねながら手を振った。


「お父さん、こっち来て」

「中すっごいよ~!」

「お母さん、僕が案内してあげる!」


 ついには逡巡しがちな大人たちの手を引いて、子どもたちがエスコートをし始めた。


 大人の皆様の反応は戸惑っていたが、やはりお菓子の家の前に来ると童心に帰るようだ。


 次第に表情が輝き、中に入ると目を輝かせる。


 子どもならば、1度や2度ぐらい夢に見るお菓子の家。


 しかし、大人になれば、それが簡単でないと諦めてしまい、どこか夢物語のように思えて頭の片隅においやってしまう。


 その気持ちはなんとなくわかる。


 僕も300年間生きてきて、自分を産んだ家族がまだどこかに生きていて、また一緒に暮らせるのではないか。


 そんな――お菓子よりも甘い願望がある。


 諦めたようで、諦め切れない願いが、大人になっても1つはあるものだ。


 今、それを叶えられたことに、大人たちは興奮を隠しきれない様子だった。


 お菓子の家にかけた夢に、大人も子どもも関係ないのだ。


 皆が童心に帰って、お菓子の家に触れる。


 チョコレートの屋根。


 粗目(ざらめ)がついたクッキーの壁。


 ミルフィーユの生地のドアに、氷砂糖の硝子。


 バタークッキーの床に、ドーナツでできた人形。


 プリンのベッドに、チョコレートの階段。


 実は外の井戸のレバーを引くと、生クリームまで出てくる。


 気が付けば、多くの人が吸い寄せられるように、お菓子の家に集まっていた。


 お菓子の出来に感心する人。


 子どもの頃からの夢が叶って、子どもと一緒に大泣きするものまでいる。


 大人と子どもが1つの夢を共有している姿に、僕は心底ホッとした。


 家族ぐるみでお菓子の家を堪能するのを見て、僕はどうしても思い出してしまう。


 ここにヤールム父様がいたら、と――――。


「よくやった、ルーシェル」


 僕の両肩に手を置いたのは、クラヴィス父上だった。


 少し濡れそぼった瞳を、服の袖で拭く。


「見事だ。まさか魔獣料理で作ったお菓子の家とはな」


「ありがとうございます」


「何故、これを作ろうと思った……?」


「……初め僕は魔獣料理らしい、僕らしい料理を目指しました。けれど、どれもピンとこなくて」


 魔獣料理ならいくらでも作ることができる。


 それはそれで僕らしいものができただろう。


 もしかしたら、もっと拍手を受けて、みんなが魔獣料理が受け入れてくれたかもしれない。


「けど、それは果たして納涼祭で出していいものなのかと問われれば、そうではないように思いました。納涼祭だからこその料理が求められている。そう感じたのです」


「ほう……」


「納涼祭は、貴族の祭りの中では子どもの参加が例外なく(ヽヽヽヽ)認められている唯一のお祭りです。普段、社交界で行われているダンスや挨拶はなく、服装も自由。それはおそらくこの祭りが、外に向けたものではなく、貴族の家族に向けた家族サービスの一環だと考えました」


「うむ。間違いない」


「だったら、親子共通に楽しめるものを作りたい。そう思って、お菓子の家を作りました。お菓子の家は、多分心のどこかでみんなが持っている夢だと思ったからです」


「見事だ、ルーシェル。……と私が褒めるまでもないな。今、ここに広がる風景こそが何よりの勲章であろうからな」


「いえ。父上」


「ん?」


 僕はハニカミながら振り返った。


「今日は納涼祭です。家族の日でもあるので、うんと僕を褒めて下さい」


「…………」


「ダメで――――」


 尋ねる前に、クラヴィス父上は僕の頭を撫でていた。


 無茶苦茶に頭の毛が立つほどに。そして僕は抱きしめられる。


 父の硬く、雄弁な身体にだ。


「お前は我が誇りだ」


「ありがとうございます、父上」


 本当なら、僕はきっとヤールム父様にやって欲しかったのだろう。


 だけど、クラヴィス父上に抱きしめられ、その願望は小さくなっていった。


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[良い点] 主人公の憧憬描写がいいね。 父親は剣聖の肩書きに縛られてるから一先ず置いておいて、母親その方には、今の元気で強くなったルーシェルと逢わせてあげたかったねぇ(沁々) [気になる点] 化学の知…
[一言]  願望が小さくなる……家族としての絆を育んでいるからこその表現ですね、グッとくる結びだなぁ。
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