第86話 お菓子の家のお菓子
☆☆ 本日はダブルコミカライズ更新があります ☆☆
○『劣等職の最強賢者』の2話後編が始まります。
果たしてガキ大将ボルンガに対して、ラセルはどう対抗するのか?
初めて「ざまぁ」ポイントなのでお楽しみ!
○『『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』の
コミカライズも更新されました。
コミックノヴァとニコニコ漫画でも見られるので、どうぞよろしくお願いします。
ついに三つ首ワイバーン討伐です!!
「失礼します」
厳かな声を出して、カンナさんが現れた。
レティヴィア家の婦長さんを先頭に、女給の人たちがお菓子の家に入ってくる。
その中には、リチルさんとミルディさんの姿もあった。
皆、いつものメイド服姿ではない。
カラフルな上着とズボンに、頭には三角帽を被っている。
おそらく英雄譚に出てくるような小人族を模しているのだろう。
そして、その手には銀蓋をされた料理が載っていた。
お菓子の家で思い思いに過ごし方をしていた子どもたちは、小人に扮した大人の登場に気付いて集まってくる。
次々と並んでいく蓋をされた料理に、子どもたちは期待と興奮を抑えられず、常に身体を動かしていた。
ロラン王子とリーリスも席に着く。
子どもたちが気になったのか、大人たちはお菓子の家の周りに集まり始めていた。
窓やドア越しから、目を輝かせた我が子を見守る。
「どうぞ召し上がれ」
銀蓋を一斉に取りされる。
白い冷気ともに現れたのは――――。
「これは――――」
「まあ!!」
お菓子の家???
ロラン王子とリーリスの声が揃う。
子どもたちも驚いていた。お菓子の家のテーブルに現れたのが、またお菓子の家なのだ。
でも、お菓子の家にまたお菓子を食べても仕方がない。
飽きっぽい子どもには「また?」と思われるかもしれない。
だから、僕はちょっと細工をさせてもらった。
「ロラン王子、どうぞスプーンを使って、食べてみて下さい」
「スプーン? ……うむ。よし。わかった」
ロラン王子は早速スプーンを持つ。
その先を小さなお菓子の屋根に突き刺していく。
チョコレートだと思ったそれは、単純にお菓子ではなかった。
「これ――――もしかして、かき氷か!?」
その通り。
屋根にチョコレートパウダーを振りかけ、壁面はソーラーウッドの飴色の樹液をかけている。
さらに屋根にはチョコレートの煙突を差し、煙を表現した真っ白な生クリームが添えられている。
最後にビスケットのドアを付けて……。
「お菓子の家のかき氷の完成だ」
おお!!
子どもたちは大喜びだ。
さっきまではしゃぎ回っていたからだろう。
夜とはいえ、今日は随分と蒸し暑い。暴れ回ったなら尚更だ。
お菓子を存分に食べて、水気がちょうど欲しかったはずである。
次々とスプーンを握ると、シャクシャクと音を立てて食べ始めた。
「「「「「おいしいぃぃいぃいいぃいいぃいい!!」」」」」
大評判だ。
子どもたちは夢中で頬張り始めた。
「お前たち、あんまり急いで食べると、頭が痛くなるぞ」
慌てて食べる子どもたちを、ロラン王子は諫める。
「大丈夫だよ、ロラン王子。この氷はあまり頭が痛くならないから。一気に口の中に流し込んでも大丈夫だよ」
僕は自信満々に答える。
すると、ロラン王子は半目で僕のことを睨んだ。
「お前がそういう顔をする時は、何かある時だな。差し詰め、この氷も魔獣か」
「あはははは……。バレちゃった。そうです。これは氷牙魔人の牙から削り出した氷だよ」
「ひょ、氷牙魔人だと!!」
名前の通り、氷から生まれるゴーレムの魔獣だ。
特に大きな牙は特徴的で、透明度が高く、硝子以上だと評する人もいる。よく目を凝らさないといけないことから、『見えない牙』と言われるほどだ。
「そのかき氷は氷牙魔人の自慢の牙から削り出したんだ。雑味がなくて、舌ざわりが滑らかでおいしいでしょ。それに、この氷を食べて頭が痛くなることもないんだよ」
ソンホーさん曰く、氷ができる時間によるものだという。
魔法を使った氷だと頭が痛くなるのだけど、ソンホーさんが昔食べたという天然氷は頭が痛くなることがなかった。
氷牙魔人の氷も、時間をかけて作られたものだ。
そのため頭が痛くならないのだと、ソンホーさんは教えてくれた。
僕も何度か食べているけど、頭は痛くならないし、お腹を壊すこともない。
身体の中がゆっくり冷えていく様は、味以上に気持ち良くて、特に火照った身体には最高の一品なのだ。
「ソーラーウッドの樹液との相性もいいですね」
リーリスもご満悦だ。
ついついその言葉を聞いて、ユランと一緒に舐めていたのを思い出す。
「そう言えば、ユランはどこへ行ったんだろ?」
「我がどうかしたのか?」
突然、ユランが登場した。
その口には、大きなお菓子を頬張っている。
おそらく玄関脇に置いていた岩をそのまま食べたのだろう。
さすがホワイトドラゴンだ。その状態でもバキバキと音を鳴らして噛み砕き、飲み込んでしまった。
「ユラン、もしかしてずっと外のお菓子を食べてたの?」
「うむ。美味だったぞ。腹八分目という奴だ。だから、今から中を食べる」
腹八分目なら、もう止めておけばいいのに。
「中は色々食べれそうだな。早速、いただくとするか」
ユランはワキワキと指を動かしながら食べようとする。
「待って待って。ユラン、あんまり食べるとお菓子の家が崩れるよ。それは解体する時にして」
「むぅ……。これはお菓子の家なのだろう。良いではないか!」
500年以上、生きてるのに、子どもみたいに地団駄を踏み始める。
相変わらず我が侭なんだから、やれやれ。
「それならかき氷を用意したから食べていって」
「おお! かき氷か!!」
ユランの目が早速光る。
テーブルに着くなり、シャキシャキと音を立てて夢中になって頬張り始めた。
「ルーシェルよ。しかし、気になったのだが、どうやってここまで精巧なお菓子の家を作ったのだ?」
「わたくしも気になってました。確かにお菓子で何かを模倣して作る事はありますが、ここまで大きいのは……」
「いくらレティヴィア家に財力があるといっても、あんな大きなクッキーの壁なんか作れないだろう」
ロラン王子は質問する。
さすがの慧眼。5歳児とは思えない観察眼だな。
いつか国を背負って立つ人って、こんなにも頭がいいのだろうか。
「そんなに難しいことはしてないんですよ」
僕は余っていたかき氷を持って、外へ出る。
集まっていた大人たちも、ロラン王子の話を聞いて興味津々らしく付いてきた。
皆の視線を一身に浴びながら、僕は手に持ったかき氷に魔法をかけた。
魔法【拡大】
かき氷の家が、人が入れそうな家に変身する。
尻餅を付いたのは、ロラン王子だった。
大きなかき氷の家を見て、目を丸くする。
「ま、魔法で大きくしたのか!?」
周りの大人たちも驚いていた。
そう。オーニという魔獣の角を煎じて飲んだ時に得た魔法で、【拡大】【縮小】を思いのまま操ることができる。
「ただこの魔法には欠点があって、構成する素材の耐久力が上がる訳じゃないんです」
つまり、例えば僕が【拡大】で大きくなっても、骨や筋肉がその自重に対応できずにバラバラになってしまうのだ。
1度使ったことがあって、節々がとても痛く、立ってるのも難しかったので、僕はすぐに魔法を解いてしまった。
以来、自分に使ったことはない。
「では、このかき氷の家もいつか……」
「自重で潰れるかもしれませんね」
「え? それってルーシェル。お菓子の家も一緒ではありませんか?」
「お菓子の家の方は大丈夫だよ、リーリス。あれにはちょっとした補強を施しておいたからね」
僕はちょっと前、材料を取りに森に行った時のことを話し始めた。
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前書きのコミカライズ同様、よろしくお願いしますm(_ _)m








