第85話 夢はまだ続く
体調不良でちょっとへばっておりました。
頑張って更新続けるので、よろしくお願いします。
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『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』
ヤングエースUPで更新。3月10日コミックス4巻が発売予定です。
『ゼロスキルの料理番』
「「「「すご~~~~い!!」」」」
子どもたちは大はしゃぎだ。
お菓子の家を食べるのではなく、存分に走り回る。
パウンドケーキの椅子に座るだけではしゃぎ、一面パイ生地の机の匂いを嗅ぐ。
白い壁紙は、生クリーム。台所の蛇口を捻ると、炭酸の砂糖水が溢れてくる。
程よく甘いクリームに、子どもたちはこぞって指を入れて舐め、スカッとした炭酸砂糖水で喉を潤す。
「すごい!! お人形までありますよ」
リーリスが床に置かれていた熊のぬいぐるみに反応する。
抱き上げると、すぐに「おや?」と首を傾げた。
「何かいい香りがするのですが……。ルーシェル、これもお菓子なのですか?」
「そうだよ」
「この感触……。そこはかとなく香ばしい匂い。もしかして、ドーナツ?」
「その通り。よくわかったね、リーリス。ちなみに、ドーナツの生地には蜂蜜が入っているよ」
すると、リーリスはくすりと笑った。
「熊さんのぬいぐるみの中に、蜂蜜ですか。さぞかしこの熊さんは、いっぱい蜂蜜をなめたんでしょうね」
最後にギュッと抱きしめる。
リーリスも気に入ってくれたようだ。
「お姉ちゃんばかりずるい!」
「わたしもほしい!」
女の子が集まってくる。
リーリスが困っていると、僕はポンと頭を撫でた。
「大丈夫。ぬいぐるみはまだまだたくさんあるからね」
猫と兎のぬいぐるみを渡す。
さっきまで口を尖らせていた女の子たちの機嫌は、たちまち治ってしまった。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「ありがとう!!」
褒められる。
一方男たちはドーナツ生地の積み木を見つけたようだ。
あっちは生地を固くするために、小麦粉の分量を多めにして、油で揚げている。
ぬいぐるみの方は逆で、少なめにし窯の中で焼いていた。
固いといっても、食べられないわけじゃない。
でも、食べられる玩具を見て、子どもたちはテンションを上げて遊んでいた。
「ん? おい。階段があるじゃないか? この家、2階もあるのか?」
ロラン王子が階段を発見して、テンションが上がっていた。
「屋根裏部屋ですけどね。どうぞ上ってください」
「「「「わーい」」」」
子どもたち我先にと、真っ白な階段を上っていく。
「おい。余が先に見つけたんだぞ。全く、これだから子どもは……」
やれやれと、ロラン王子は首を振った。
僕たちも十分子どもだけと、ロラン王子はそのことを忘れてないかな。
ちなみに階段は先ほどのサタンナッツを粉状にして焼いた焼き菓子だ。
この辺りではダックワーズと言ったりするそうで、外側はパリッとして、中はしっとりしている。
ちなみに、ビディックさんに教えてもらった。
ダックワーズだけじゃない。
他のお菓子の作り方も、1から教えてくれたのはビディックさんやヤンソンさんたちだ。
このお菓子の家は、僕だけが作ったんじゃない。
レティヴィア家が誇る最高の料理人たちが、技術の粋を込めて作ったお菓子の家なんだ。
「ルーシェル、2階を案内してくれよ」
声をかけられ、僕は我に返る。
「わかりました。行きましょう! びっくりしますよ」
僕はニヤリと笑う。
ロラン王子と一緒に2階に行くと――――。
「むがっ!」
突然、飛んできたのは枕だった。
勿論普通の枕じゃない。
「なんだ、これ? もしかしてマシュマロか?」
マシュマロ枕を顔面に受けながら、ロラン王子は驚く。
「はい。その通りです」
「どおりで枕の中から甘い匂いがするわけだ。でも、枕がマシュマロとは。定番だが、これはこれで夢があっていい」
「そ、そうですね」
「だが――――」
マシュマロ枕を取ったロラン王子の額には、青筋が浮かんでいた。
「余に枕を投げるとは、いい度胸だな、ガキ共!」
ロラン王子と子どもたちの枕の投げ合いになる。
もはや戯れというより、喧嘩――いや、戦場だ。
それでもバタークッキーの床は抜けない。強度が大丈夫だと思うけど、このまま暴れていると本当に床が抜けるかもしれない。
「ロラン王子、落ち着いて! 子どもがやったことですから。大目に見ましょう」
「ぬぬぬ……。ルーシェルがそこまで言うなら」
王子は怒りを鎮める。
一方、子どもたちは無邪気だ。
一国の王子様が、自分たちの遊び相手になってくれている、としか思ってないのだろう。
おそらくお菓子の国を前にして、テンションが抑えられないのだ。
それはきっとロラン王子も、僕も一緒だろう。
「うわー。やわらか~い」
「このベッド、やわらかいよ~」
子どもの1人がベッドに寝そべり、もう一人が上でジャンプしている。
跳躍するたびに、飴色のベッドがぷるりと震える。
その様子は滑らかで、ただ柔らかいだけではない。
試しにロラン王子は手を置いて、体重をかけた。
手が沈み込んでいく。
「な、なんだ、これは……。この柔らかさ……。パンケーキ? いや、違うな。この水風船のような弾力、そして色――もしかしてこれは……」
はい。プリンです。
僕は笑顔で答えた。
「え? え? うそ! これプリンなの?」
「でも、プリンのあま~いにおいがする」
子どもたちも驚く。
ロラン王子は匂いを嗅いだ後、大胆にも指先で掬い、口の中に入れた。
「うま~い」
さっきまで怒っていたロラン王子の表情が、プリンみたいにトロトロになる。
「舌に載せた時の滑らかさが芸術品だ。口溶けがよく、すぐ消えるのではなく、ゆっくりと渦を巻くように消えていく。濃厚なコクが、これでもかと長く味わえるプリンを余は初めて食べたぞ」
「ありがとうございます」
「これも魔獣料理だな」
「はい。スターブルという星の紋様が入った牛の魔獣の乳と、ガルーダの卵を使ってます。どっちも濃厚な味がする食材なんですよ」
「スターブルの乳と、ガルーダの卵だと! ど、どっちもAランク相当の魔獣ではないか……。あ、いや、そなたの強さなら造作もないか」
「えへへへ……」
「照れるな。子どもの戯れに、よくもそこまでリスクを冒せるな、ルーシェル」
「それだけ真剣だったって伝えたかったんです。これは父上が与えてくれたチャンスですから」
僕は拳に力を込める。
すると、ロラン王子はその拳を取った。
「別に肩肘を張る必要はない。クラヴィスの意図は知らぬが、余はあの男が魔獣食を見せつけたいわけではなく、お前のありのままを見せたくて、魔獣食を選んだのだと思うぞ」
「僕のありのまま?」
「ふふ……。滅法強いクセに、思考能力はまだまだ子どもだな、ルーシェルは」
「うっ。ごめんなさい」
「謝らなくて良い。むしろ逆だ。お前がどんな奴か。もっと知りたくなったぞ」
ロラン王子は僕の背中を叩き、手荒く激励した。
「ほれ。お前のことだ。まだ何か隠しているのだろう? 次の仕掛けを余にみせよ」
「さすが、ロラン王子ですね」
じゃあ、そろそろ頃合いだ。
みんなに早速食べてもらおう、このお菓子の家でデザートをね。