第76話 指導剣術(前編)
投稿が遅れてすみません。
年末進行中でして……。既存作品の原稿を書く時間がなくて。
なるべく間空けないように頑張ります!
「ルーシェル!」
リーリスの声を聞いて、振り返った。
ふと視線を動かすと、今にも泣きそうなリーリスと目が合う。
そこで僕は完全に我に返った。
軽く頭を振る。
いけない。熱くなるな……。
そう自分に言い聞かせた。
改めてロラン王子を見つめる。
目の前にいるのは、この国の王子。棒きれでも怒りにまかせて振るえば、僕なら確実に怪我をさせてしまう。
そうなって困るのは、クラヴィス――父上だ。
まして相手は……リーリスの許嫁だ。
リーリスにとって大事な人を傷付けるわけにはいかない。
僕は1つ呼吸を置く。
もやもやしていた頭が少しずつクリアになっていく。
怒りでいっぱいになっていた僕の頭に思考能力が戻った。
そうすると、色々な考えが浮かぶ。たとえば先ほどのロラン王子の言動だ……。
明らかに試合をしている時に話す内容じゃない。
だとすると、狙いは1つ。
僕を怒らせて反撃か、僕が本気じゃないと感じて、それを引き出すための演技か……。
いずれにしても安い挑発であることは間違いない。
300年も生きてるのに、子どもの挑発に乗りかけていた僕が、1番の大馬鹿だけど。
問題はここからどうするか、ということだ。
ロラン王子は明らかに僕の実力を知りたがっている。裏を返せば、僕が実力を隠していることがわかるぐらいには、手練れだということだ。
ならば……。
「どうした、ルーシェル? 打ってこないのか?」
ロラン王子は顎を出して挑発するけど、僕は動じない。
その代わり、棒きれを下ろし、下段に構えた。
この場合、頭の防御ががら空きになる。
「打ってこい、ということか。それでは遠慮無く――――」
ロラン王子が走る。やはり同年代とは思えない脚力だ。相当修練を積んでいるのだろう。
だけど――――。
「僕ほどじゃない!」
カンッ!
また乾いた音が鳴る。
気が付けばロラン王子の手から棒きれが消えていた。代わりに空気を切りながら、少し離れたところの地面に刺さる。
ロラン王子の目がみるみる開く。
それは周囲も一緒だ。
絡んできた3人は口も瞼も大きく開いて、おかしな彫像のように固まっていた。
「え?」
だが、ロラン王子は戸惑った。
僕が追撃することなく、構え直したからだ。
今度は上段に構える。
ロラン王子がそれをどう判断したのか、僕にはわからない。しばらく思案した後、背後に刺さった棒きれを握り直す。
今度は慎重に僕との距離を詰めた。
自分の間合いに入った瞬間、地を蹴る。構えは右下段。
(袈裟返し…………と見せかけて)
ロラン王子が急に方向転換する。
僕の側面に周り込むと、がら空きになった脇腹を狙った。
(バレバレだよ)
その横薙ぎが来る前に足を引いて、腰を回すと、ロラン王子の顔の前に棒きれを振り下ろした。
王子の動きがピタリと止まる。
慌てて、僕から距離を取った。
「すごい……」
リーリスは呟く。
3人も瞠目していた。
その横でユランだけが首を傾げる。ちょっと眠たくなってきたのか。ふわっと欠伸をしていた。
「そうか? 我と打ち合ってる時のルーシェルはもっと凄いぞ」
その言葉を聞いて、リーリスはおろか例の3人組も驚いていた。
僕はまた構えを変える。
今度は棒きれを立てて、少し右に寄せて構えた。
それを見て、ロラン王子は少し笑う。
「なるほど。そういうことか」
一方、ロラン王子もまた右構えになる。
じりっと先に詰め寄ってきたのは、ロラン王子だ。
僕の周りを歩き、打ち込む隙を探し始める。
対する僕は動じず、ロラン王子の動きを目の端で追った。
やがて足音がピタリと止まる。地面の土を掻きむしるようにロラン王子は、地を蹴る。
一気に僕に距離を詰めていった。
狙いは上段。悪くない踏み込みだ。
(だけど……)
あっさり上段を見抜くと、そこに手首を回してまずロラン王子の剣を払った。
「あっ!」
王子が動揺した時には、僕の棒きれは薄い金髪の頭に振り下ろしていた。
「いかがでしょうか、王子。僕の剣術の腕は……」
ロラン王子の頭の良さは、打ち合ってみてわかった。僕との戦力差を早々に見抜き、それでもなんとか工夫して、愚直に僕から1本を奪おうとしていた。
どのアイディアも悪くなかったけど、僕はそのすべてに対して、上をいく。
ロラン王子は何も言わなかった。
リーリスも、3人組も沈黙している。
ちょっとやり過ぎたかな。
王子様相手に、同年代の僕がフレッティさんのような指導をしたのだ。
多少傷付いたはず。
とはいえ、ロラン王子を傷付けずに、僕の実力を見てもらうには、これぐらいしか思い付かなかった。
いつの間にかロラン王子の肩が震えている。
さっきから何も言わなかった。
まずい。これは泣かして……。
「すごい! ルーシェル、お前すごいな!」
「「へっ??」」
僕とリーリスの声が重なった
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