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第75話 王子様の告白

拙作『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』のコミックスおよび原作小説2巻が発売されました。

おかげさまで、各店舗のランキングで上位におります。

日曜日、書店にお立ち寄りの際には、是非お買い上げいただきますようよろしくお願いします。

 大変なことになってしまった……。


 僕の目の前にいるのは、間違いなくこの国の王子らしい。


 ロラン王子は折れた棒きれを拾い上げて、軽く素振りしている。やる気満々だ。


 本当に僕と剣術の試合をするつもりらしい。


「ロラン王子、お止め下さい」


 呼びかけたのはリーリスだ。


 胸の前で組んだ手が微かに震えていた。ゴールデンフィッシュ掬いで、隠れた才能を発揮していたリーリスの面影はない。


 心配げに僕とロラン王子を交互に見つめていた。


「大丈夫だ、リーリス。心配するな」


「でも――――」


「万が一、余が負け、ルーシェルが王族に悪印象を持たれたら――か?」


「そ、そういうことでは……」


 リーリスは顔を背ける。


「ふははは……。大丈夫だよ、リーリス。そのためにこうして人払いをした。まあ、見届け人はいるがな」


 僕たちがいるのは、中庭から少し離れた森の中だ。屋敷の敷地内だけど、人気はなく、鬱蒼と木々が茂っているだけ。


 先ほど梟が目を光らせているのが見えたけど、すでに飛び立った後だった。


 その梟の代わりというわけじゃないけど、僕たちの試合を見届ける人たちがいる。


 1人を除いて、ちょっと頼りないけどね。


「ロラン王子、頑張って下さい」

「料理屋の息子なんて簡単にのしてやって下さいよ」

「降参するなら今のうちだぞ、料理屋の息子」


 まだ『料理屋の息子』って呼んでるよ。


 もしかして一生言われるのかな、これって?


 僕が辟易する一方、ユランは呑気だ。


「ルーシェル、早くしろよ。我はもっと出店を回りたいのだ」


 トマトと林檎飴の二刀持ちで、すでに十分出店を堪能しているはずのユランが、僕にエール(?)を送る。


 簡単に言ってくれるなあ。


 確かに僕の腕なら造作もない相手だ。


 けど、王子様を怪我させるわけにもいかない。


 適当に打たせて、それっぽく引き分けるか。


「そろそろ始めよう、ルーシェルよ」


 ロラン王子は棒きれの先端を僕に向ける。


 どうやら、どうあっても試合をするようだ。


「ルーシェル……」


 リーリスが心配そうに僕を見つめる。


「大丈夫だよ、リーリス。任せておいて」


「……はい」


 声をかけたものの、リーリスの表情は曇ったままだ。


 リーリスがここまで心を痛めるなんてよっぽどだな。


 公爵家は貴族の中でも、もっとも王族に近い貴族だ。リーリスが王子と面識があってもおかしくない。


 だけど、それ以上の理由があるのだろうか。


「それでは――」


「はい」


 ロラン王子が差し出した棒きれに向かって、僕も自分が持った棒きれを差し出す。


 僕たちはゆっくりとにじり寄ると、棒きれの先端が触れた。


 それが試合の合図となった。


 先制したのはロラン王子だ。


 パッと僕の棒きれを払う。受けることはできたけど、僕は逆に力を抜いて払わせた。


 その瞬間、王子は容赦なく飛び込んでくる。


 まさに返す刀で僕の肩に向かって棒を振り払った。


 僕はバックステップで躱すと、1度姿勢を整えるように構えを直す。


 そうはさせじと、王子が突っ込んできた。


 先ほどの気品ある雰囲気からはかけ離れている。


 まるで獲物を狙う獅子のように踏み込んできた。


 僕は足を止める。逃げても追いかけてくるだけと感じた。


 カンッ!


 気持ちのいい乾いた木の音が鳴る。


 王子の上段の打ち下ろし、僕は受けた。


 そのまま押し合いになる。


 力が強い。どこにそんな力があるのかと思う程にだ。


「ほう。やるなあ。同い年で余の攻撃を捌いたのは、そなたが初めてだ」


「あ、ありがとうございます」


「まだまだ余裕がありそうだな。これならどうだ!!」


 ロラン王子は連続で撃ち放ってくる。


 速い。振りの速度もだけど、型の中に無駄な動きがないから、余計に速く見える。


 よっぽど修練しているのだろう。


 だけど、僕が捌き切れないほどのスピードじゃない。


 カッ!


 弾き返す。


 すると、ロラン王子の体勢が崩れた。


 おっとっと、という感じでようやく後ろに後退する。


「ふむ。やるな」


「王子様こそ」


 ロラン王子は肩で息を始める。


 あれほどの連撃を加えたのだ。仕方ないだろう。


 それに筋力と違って、体力は一朝一夕で身につくわけではない。


 それでも、ロラン王子の剣術は軽く5歳児のレベルを超えていた。


 リーリスも息を呑む。


 3人の貴族の子息たちは、口を開けて固まっていた。


 皆が沈黙する中で、ユランだけは違う。


「ルーシェル、いつまで戦っているのだ? とっとと本気になって倒してしまえ!」


 あわわわわわ! ユラン、そういうこと言わないの!


 手加減してることがバレるでしょ?


「ほう。まだそなたは本気ではないのか?」


「いや、ちが――――」


 ロラン王子は踏み込んでくる。


 さっきよりも鋭い――。


 でも、僕は難なく王子の剣を受け止めていた。


 再び棒きれを合わせてせめぎ合う中、王子様は僕に話しかけてくる。


「ルーシェルよ。そなた、気にならぬか? 何故、余とリーリスが親しげなのか?」


「え?」


 思わず眉を吊り上げ、反応する。


 しまった、と思った時には、ロラン王子は笑っていた。


「はははは……。剣術の才能はあるようだが、まだまだ心の制御がまだのようだな。ふふふ……、気になるか?」


 気になるかと問われれば、やはり気になる。


 でも、真実を聞くのも怖いと思っていた。


 自分なりに考えた答えがあって、それが当たるのが怖いからだ。


 しかし、ロラン王子は躊躇わずこう告げた。


「実は、余とリーリスは契りを交わした仲でな」


「契り?」


「端的に言うと、許嫁だな」


 い、い、許嫁ぇえぇえぇえぇえええ!


 思わず視線がリーリスを向きそうになる。


 だが、ロラン王子はまるで僕の動揺を狙ったかのように、僕の棒きれを捌くと、背後に回った。


 危なく打ち下ろしを食うところだったけど、僕は咄嗟に前に避けて、振り返る。


 真剣な眼差しで、ロラン王子に尋ねた。


「本当なんですか?」


「嘘で言えるようなことではないだろう。楽しみだな。彼女と結婚する日を……。どうしてあげようか、なあルーシェル?」


「え?」


 ロラン王子の表情が急に変わる。


 出会った時は王族然として、気品に溢れていた。


 試合になっても、陸の王者の如く振るってきた。


 でも、今は違う。


 口端を歪め、目を愉悦に曲げた悪魔が立っていた。


「国1番の織匠(しょくしょう)に織らせたようなシルクの肌に、澄み切った空のような瞳。星空の中で織り上げたような金髪もまた美しい……。楽しみだ、あれが余のもの(ヽヽ)になるのを」


「もの?」


「そうだ。余に嫁ぐのだ。あれはもはや王族のものだ」


 瞬間、軽く力を入れた。


 ロラン王子はふわりと吹き飛ばされる。「おっと」と言いながら、着地する。


 そして、ニヤリと笑ったように見えた。


「ルーシェル?」


 リーリスを一瞥すると、彼女は首を傾げた。


 僕は改めてロラン王子に棒きれを向ける。


 何ができるかわからない。


 たとえ、ここで勝ったとしても、結果は変わらないだろう。


 でも、せめて今この機会に、僕の妹を「もの」扱いする王子様に、お灸を据える必要がある。


 僕はそう判断した。


「構えて下さい、王子」



 少し強めにいきますよ……。


さらに1月には『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』のコミックスと書籍続刊、さらに『アラフォー冒険者、伝説となる』のコミックス続刊が発売されます。

年始から色々とバタバタとしますが、是非こちらもよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 同い年じゃないんですけどね。
[一言] ルーシェルが全力だしたら国軍・騎士団連れて来ても勝てんやろ ドラゴンに勝てる戦力でやっと勝負になるレベルなぐらい スキルの種類や戦闘経験豊富やし 剣術に限定すればベテラン騎士でも・・・ちょい…
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