表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/285

第73話 あいさつ

☆☆ 告知 ☆☆

拙作『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』のコミックスと書籍がいよいよダブル出版されます!

好調のコミックスの続刊に加えて、全編書き下ろしの原作小説のダブル刊行。

是非お買い上げいただきますよう、よろしくお願いします。

「レティヴィア公爵家、クラヴィスの息子ルーシェル・グラン・レティヴィアと申します。不束者ですが、父クラヴィスのように強く、逞しく、そして皆様に愛される人間になりたいと思っています。どうぞ皆様よろしくお願いします」


 レティヴィア家の中庭――納涼祭の中心となる壇上で、僕は頭を下げた。


 目の前には、レティヴィア家の新たな家族を一目見ようと貴族たちが集まっている。


 皆、納涼祭らしい、涼しそうな恰好で椅子に座り、目を丸くしていた。


 ちょっと子どもっぽくなかったかな。少し硬かったかもしれない。屋敷長のヴェンソンさんとも相談した文章だったのだけど。


 パチパチ……。


 誰かが手を叩いた。それが誰かはわからなかったけど、皆が遅れて拍手を送る。さらに僕に声援を送られた。


 僕に代わって、今度父上が前に出る。


 軽く一礼した後、皆に語りかけた。


「本人は不束者と言っておりますが、このとおり私なんかより、よっぽど頭の切れる息子でして、非常に驚いております」


 ドッと笑いが起こった。硬かったみんなの表情がほぐれる。


 勿論、父上を馬鹿にしてるわけじゃない。全員がその深い知識を理解して、笑っている様子だった。


「息子には1つ――いや親の私に言わせると、100、うーん……1000かな」


 父上は顎に手を当てて考え始める。


「ち、父上……。今、そんなことを考えなくても」


「あ。いや、そうだったな。ごほん、失礼」


 と言うと、また温かな笑いが起こる。


 みんな、わざとと思っているだろうけど、あれで実は本当に今の父上は真剣なんだ。


 だから、余計おかしい。


 でも、息子としてはちょっと恥ずかしいけど……。


「実は、ルーシェルは料理が得意でしてな」


 そう言うと、ちょっと会場の雰囲気が変わる。


 ほう、と感心する人もいれば、扇子で口元を隠し、ほくそ笑んでる人もいた。


「この後、息子が作った料理を皆様に食べていただく予定になっております。用意ができましたら、再び中庭にお集まり下さい」


 それでは、しばしご歓談――。


 そう言って、僕と父上は舞台からはけていった。





「いいご挨拶でしたよ、ルーシェル」


 舞台袖で待っていたリーリスが、少し興奮気味に評してくれた。


「ありがとう」


「あんなに大人がいっぱいなのに、堂々としていて素敵でした。緊張はしなかったのですか?」


「勿論、緊張したよ。でも、側に父上がいたから大丈夫だった」


 僕は父上にお礼を言う。


 すると、父上は僕の頭を撫でてくれた。


「よくやった、ルーシェル。見事な挨拶だった。まあ、少々子どもらしくないスピーチだったから、みな驚いていたようだが」


「ヴェンソンさんと相談もしたのですが」


「ほう……。ヴェンソン、君のことだ。何か意図があるのかな?」


 クラヴィスは同じく舞台袖で待機していたヴェンソンさんに振り返った。


 背の高い初老の屋敷長は、腰を直角に曲げた後、目をギラリと光らせる。


「恐れながら、ルーシェル様はご当主様のご養子にあらせられる。公爵家が身元不詳の養子を預かったというからには何か理由がある――と要らぬ詮索される方がいらっしゃるでしょう。ならば多少誇張しておく方が、他の貴族の方には好印象を持たれると愚考いたしました」


「ルーシェルはただの子どもではないと印象づけるためか」


「はっ! しかし、今は少しやりすぎたと反省しております」


 ヴェンソンは再び頭を下げる。


「ヴェンソンさんは悪くありません、父上」


「わかっているよ、ルーシェル。ヴェンソンはヴェンソンなりの考えがあったというだけだ。まあ、私としてはもっと子どもらしくと思ったが、ルーシェルのこれまで歩んできた人生を考えると、子どもらしいというのは酷かもしれんな」


 クラヴィス父上は咳払い、仕切り直すと、僕の頭に手を置いた。


「良いスピーチだった。それはスピーチの内容だけではなく、ルーシェルの態度についてもだ。リーリスが褒めたように、子どもが大人を前にして喋るのは並大抵のことではないからね」


「本当に……。まるでお父上のように堂々としていましたわ」


 父上が僕の頭を撫でる横で、リーリスはまた僕を褒める。


 確かに緊張したけど、精神を制御する術は山で暮らすうちに自然と身につけてしまった。


 手練れの騎士よりも、魔獣や野生の獣は気配に敏感だ。心臓の鼓動が少し大きくなるだけで、逃げていく動物だっている。


 山に来た時は、驚きの連続だったけど、それが日常化していくと、いつの間にか心を制御する方法を生み出していた。


「さて、しばらく自由時間だ。リーリスと一緒に庭を回ってくるといい。出店もたくさん出ているから楽しいぞ」


「え? でも、料理の準備が……」


「それは俺がやっとくよ」


 そう言ったのは、とんがり耳に伝統的なピアスを付けたエルフだった。


「ヤンソンさん!」


「親方が手伝ってやれってよ。一応、レシピはもらってるし、すでに食材はルーシェルが用意してくれてる。問題ねぇよ」


「でも――――」


「わからねぇのか? ガキはガキらしくしろってことだよ。ほら、いったいった」


 僕の肩を押す。思わずつんのめった先には、ユランが立っていた。


「ん? どうした、ルーシェル?」


「ぱ、ぱ、ぱ……」


「は? 何を言ってるのだ、お主?」


 ふわーーーーーー! やばい。さっきの着替え室のことが頭に……。


 落ち着け! 精神を制御しないと……。


「ほら、お嬢ちゃんたちをちゃんとエスコートするんだぞ」


「わ、わかりました。なるべく早く戻ってきますからね」


 そう言い残して、リーリスたちとともに出店が出てる方へと向かっていった。





「ご当主様、あれでいいんですよね?」


 ヤンソンはクラヴィスに話しかける。


 そのクラヴィスは満足そうに頷いた。


「今回の納涼祭は、ルーシェルにとっては自分の料理を出す大舞台だと思っているけど、私の考えは違う」


「というと……」


「私はね。ルーシェル・グラン・レティヴィアに紹介したいんだよ」



 今の世界の納涼祭をね……。





 大丈夫かなあ……。


 レシピは渡してるけど、手順として難しいところもあるし……。


 ヤンソンさんたちの技術を信じないってわけじゃないんだけど、やっぱり自分でやった方がいいんじゃないだろうか。


 眉間に皺を寄せた僕は、ふと顔を上げた。


 そこには三度リーリスの顔があった。


「ルーシェル!」


「あ、ごめん!」


「わたくし、まだ何も言ってませんよ。それより納涼祭を楽しみましょう」


 そう言って、リーリスは僕の手を引っ張る。


 その先では、すでにユランが出店の前で手を振っていた。


「おい! 早く来いよ」


 赤い魔法灯が灯る出店に、僕たちは吸い寄せられるように近づく。


 出店がある場所に来ると、また活気が違う。僕ぐらいの子どもが多く、その周りに親たちが集まっているからだ。


 飴を舐めたり、何かゲームをしたりしている。


「あれは?」


 僕が気になったのは、水槽のある屋台だった。


 300年前にも、すでに出店が並ぶ文化はあったけど、これは初めてだ。


 水槽の中には無数の小さな魚が浮かんでいる。


 種類によって赤、黒、青など色鮮やかだけど、どの尾ひれも金粉を振ったように黄金色になっていた。


「これ、みんなゴールドフィッシュ?」


「そうですよ」


 リーリスは微笑んだ。


 ゴールドフィッシュは、貴族――特に子どもが最初に飼う小魚の一種だ。


 大層な名前がついているけど、養殖は簡単で、安いものなら下町の人間でも買える程度のもある。


 一方、貴族が飼うゴールドフィッシュは餌や血筋からこだわっていて、血統書付きのものでは、とんでもない金額になる種類もある。


 水槽の中のものは、どちらかというと大量生産されたものだ。


「なんだ、この魚たちは? 食べるのか?」


 ユランはじっと魚を見つめる。


 手を伸ばそうとしたところで、リーリスがユランの手を叩いた。


「違うのよ、ユラン。はい、これ。ルーシェルも」


「ありがとう――――って、これ何?」


 店主からリーリス。リーリスから僕とユランに渡されたのは、輪っかの中に薄い紙が貼られた何かの道具だった。


 名前は【ほい】と言うらしい。


「【ほい】を使って、この碗の中にゴールドフィッシュを移す遊びです」


「へぇ~」


 そんな遊びが……。300年前にはなかった遊びだ。


「こいつを使って、この碗に移せばいいんだな。ならば、簡単ではないか」


 ニヤリと牙を剥きだし、ユランは笑う。


 【ほい】を水の中に入れて、早速ゴールドフィッシュを捕まえようとした。


 だけど……。


「あれ? なんじゃ、こりゃ?」


 あっさりと【ほい】に穴が空いてしまった。


 そりゃそうだよね。紙なんだから。


「もう1回! もう1回だ、親父!」


 店主を親父呼ばわりして、もう1本【ほい】をもらう。


 店主は嬉しそうだ。ユランの反応を見て、楽しんでいた。


「今度は紙を破れる前に――――」


 ユランなりの対策を考えたんだろう。


 おそらく紙が水に濡れて破れる前に、ゴールドフィッシュを椀に移すつもりだ。


 凄まじい速度で水の中に入れる。


 バシャッと水が大きく跳ねて、ユランの銀髪にかかるけど、お構いなしだ。


「今度こそ!」


 ユランは腕を引き抜く。


 しかし――――。


「あ、あれ~~~~」


 【ほい】はまたも破れていた。


 それを恨めしそうに見つめるユランを見て、僕は思わずプッと噴き出す。


 すると、吊られてリーリスまで笑い出した。


 軽やかな笑声が、出店の集まる一角に響く。


 僕とリーリスが笑っていると、ユランはくしゃみをする。また恨めしそうに、今度は僕の方を向いた。


「そこまで笑うなら、ルーシェル。そなたがやってみるがよい!」


 破れた【ほい】を僕に向かって掲げる。


 僕はゴールドフィッシュが泳ぐ水槽を見た。


「よーし……」


 腕をまくり、【ほい】と木椀を握る。


「ルーシェル、頑張って!」


 リーリスの声援を受けながら、僕はゴールドフィッシュ掬いに興じる。


 いつの間にか料理のことを忘れ、僕は納涼祭を楽しんでいた。


『公爵家の小さな料理番様』の兄弟分に当たる、

『ゼロスキルの料理番』のコミカライズが昨日ヤングエースUP様にて更新されました。

こちらも是非応援よろしくお願いします。

(LINE漫画、ピッコマなどでも読む一部無料で読むことができますよ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シリーズ大重版中! 第7巻が10月20日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本7巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本4巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シーモア限定で6月30日配信開始です!
↓※タイトルをクリックすると、シーモア公式に飛びます↓
『宮廷鍵師、【時間停止】と【分子分解】の能力を隠していたら追放される~封印していた魔王が暴れ出したみたいだけど、S級冒険者とダンジョン制覇するのでもう遅いです~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


コミカライズ10巻5月9日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる10』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス9巻 5月15日発売!
70万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新小説! グラストNOVELS様より第1巻が4月25日発売!
↓※表紙をクリックすると、公式に飛びます↓
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』書籍1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




3月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本3巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
追放王子、ハズレギフト【料理】を極める~最強のもふもふ国家で料理番を始めます。故郷の国が大変らしいのですが、僕は「役立たず」だったので関係ないよね~



『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


<『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[気になる点] 【ポイ】の語源は破れたらポイっと捨てるからだそうですが【ほい】の語源は何だったんでしょうね?
[一言] 異世界(西洋ベース?)に日本文化……違和感が無い様に西洋っぽさも織り込んで良い所取りを意図したのでしょうか。 楽しそうな雰囲気が伝わって良い空気感だと思いました。 個人的には貴族の行事と…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ