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第71話 カカオバチの巣

先日募集しました調理器具について、多くの方から回答いただきありがとうございます。

めちゃくちゃ参考になりました!

今後の作品に出てくるかもしれないので、今後ともよろしくお願いします。

「あった……」


 再びジュエルカメレオンの皮を被り、僕たちが森の奥へと向かうと、カカオバチの大きな巣があった。


「大きい……」


 リーリスは大きな目を丸くしていた。


 形としては、大蒜を横に切ったような、蜜蜂の巣に見られる一般的に想起しやすい形だ。


 だが、大きさは蜜蜂の比じゃない。


 結ばれた太い枝が大きくしなだれるぐらい巨大な巣をしている。六角形の穴は、すっぽり大人が入られそうなほど広かった。


 巣には卵や幼獣をお世話する乳母役。さらに蜜を運んできた運び役。その周りを衛兵役が周回している。


「良かった。さっきので警戒されたかなって思ったけど、問題なさそうだ」


「問題はあるように見えますけど……」


 リーリスはカカオバチの大群を見て、苦笑いを浮かべる。


「大丈夫だ、リーリス。我の剣技であいつらを蜂の巣にしてやろう」


 ユランは剣を抜いて、勇ましい口上を上げる。


 僕は今にもカカオバチの巣に向かっていきそうなユランの腕を取った。


「落ち着いて、ユラン。いくら君がホワイトドラゴンでも多勢に無勢だよ。結果的には君が勝つとは思うけど、蜂の巣にされるのはユランの方だよ」


「何故だ? ルーシェルの目的はあのカカオバチが集めた蜜であろう? あいつらを倒さなければ、蜜は手に入らないではないか?」


「ユランの言う通りです。あれ程のカカオバチの大群を相手するのは、ルーシェルでも難しいのではないですか?」


 リーリスも会話に交じってくる。


「ん~~……」


 まあ、僕1人なら無傷で勝てないわけじゃない。


 けれど、その場合リーリスとユランが無事じゃすまなくなる。


「だから、もっと効率のいい方法で、カカオバチの動きを止める必要があるんだ」


「どうやって? 眠りの魔法を使うのか? カカオバチは人間の眠りの魔法には強い耐性があると聞くぞ」


「それよりももっと確実な方法があるよ」


 僕は手を掲げた。



 【凍結結界】



 魔法を唱える。


 これはサタンブリザードという魔獣の角を煎じて得た魔法だ。


 サタンブリザードは別名氷の魔人といわれる魔獣で、冬季だけに表れる厄介な魔獣として知られている。


 僕の手から魔法が放たれると、周囲の温度がドンドン下がっていく。木皮に白い霜が浮かび、草葉が垂れ下がった。


 森の土にできた薄い水たまりも忽ち凍ってしまう。


 その白く濁った空気が地面から徐々にせり上がってくると、ついにはカカオバチの巣にまで及び、さらにカカオバチの本体にまで影響し始めた。


 耳障りな羽音を立てて飛び回っていたカカオバチの衛兵の動きが鈍くなってくると、ついには羽を止めて、地面に落下していく。


 最終的には細い足を痙攣させた後、ピクリとも動かなくなってしまった。


 それは衛兵たちだけではない。


 カカオバチの乳母役も、運び役も、ハニカム構造の中にいる幼獣たちの動きも鈍くなってしまう。


 巣に群がっていたカカオバチも、次々と落下していくと、地面に激突した。


「すごい……。これって環境魔法ですか?」


 リーリスは白い息を吐きながら、僕に尋ねた。


「環境魔法??」


 ユランは首を傾げた。魔法は邪道だとして学習しようとしないユランらしい反応だ。


「周辺の環境を変える魔法のことだよ。発動が遅いけど、その代わり1度発動すると、術者が切るか、他の環境魔法で上塗りするかしか破れないんだ」


「高等な魔法だと聞いてます。それを使いこなすなんて、さすがルーシェルですね」


「ありがとう。しばらく溶けないと思うけど、寒いのは我慢してね」


「それにしても凄まじい威力ですね。カカオバチを全滅させてしまうなんて」


 リーリスが触ろうとすると、カカオバチは微かに動いた。


 驚いたリーリスは「キャッ!」と声を上げて、飛び退る。木の根に引っかかって、倒れそうになるところを、僕が支えた。


「気を付けて」


「あ、ありがとうございます。まさか生きてるとは思わなくて」


 リーリスは顔を青くする。


「カカオバチはある一定の気温下になると、冬眠してしまう性質があるんだ」


「あの……こういうのも残酷ですけど、殺さないんですか? 魔獣を放置するのは危険なのでは?」


「そうだね。でも、この辺りは彼らの縄張りだし、それに土足で踏み込んだのは僕たちだから。むしろ悪いのは僕たちの方なんだよ」


 昔の僕なら、リーリスの言うとおり容赦なくカカオバチを全滅させていただろう。


 けれど、100年ぐらいから僕の考えは変わっていった。


 カカオバチも――いや、カカオバチだけじゃなくて、魔獣も含めて、生きとし生けるものすべて、この山に生きる同居人だ。


 そしてこの山を生かす(ヽヽヽ)何らかの使命を帯びている。


 その使命まで奪うようなことをしてはいけない。僕はこの300年学んだ。


 僕はそうリーリスに諭す。


 ただ幼いリーリスにはちょっとわかりにくかったかもしれない。僕も5歳なら頭に「?」を浮かべたことだろう。


「難しかった?」


「少し……。でも、ルーシェルが優しいということはわかりました」


 リーリスは笑顔を浮かべる。


 その花弁が開いたような笑顔を見て、僕はドキドキしてしまった。


「ルーシェル! 早く蜜を奪おうぜ!」


 声が聞こえた方を見ると、早速ユランが巣に貼り付いて、蜜を探していた。


 待ちきれないのか、ちょっと唇の端から涎を垂らしている。それを手の甲で拭うと、ハニカム構造の穴の中を覗き込んだ。


「ユラン、落ち着いて! 僕の狙いは最初から蜜じゃないんだ。教えただろ?」


「は? 蜜じゃなかったら、一体何が狙いなんだよ」


「僕が欲しいのは、カカオバチが集めた蜜じゃない。……いや、その蜜もほしいけど、メインに据えるわけじゃない」


「じゃあ……」


「僕が欲しいのは、その巣そのものさ」


「巣?」


「どういうことですか、ルーシェル?」


 ちなみに周辺を凍らせたのは、他にも理由がある。何せカカオバチの動きを止めるだけなら、他にも使えるスキルや魔法があるからね。他にも煙に弱かったりするし。


「ユラン、試しに食べてみるといいよ」


「食べる? この巣をか?」


 珍しくユランは目を剥いた。


 そして僕の言うとおり、六角形状になっている巣の一部を砕く。


 まるでそれは板チョコのようだった。


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挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
[一言] 巣が美味いのか! 食いがいあるなー
[良い点] 板チョコ…!? 美味そう…!?
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