第70話 カカオバチとバトル
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WEB版未収録のユランのお話など、美味しい料理が満載です。
「公爵家の料理番様」第2巻をよろしくお願いします。
2月6日発売の単行本2巻もよろしくお願いします。
「は~。うまかった!!」
ユランは満足そうに膨らんだお腹を叩く。
口の周りは樹液まみれになっていた。舌を出して、それをペロリと舐める。
リーリスも夢中になって舐めてたけど、結局ユランがほとんど舐めとってしまった。
元がホワイトドラゴンだから、1度食欲に火が点くと止まらないんだよね。
「もう! ユランの食いしん坊! 屋敷のみんなにも食べてもらおうと思ってたのに。全部舐めちゃって」
「別にいいだろ。他にもいっぱいあるし」
そう言って、ユランは近くのソーラーウッドの樹皮を削り取る。すると、コルクの栓を抜いたように樹液が勢いよく垂れてきた。
ユランの凄まじい膂力を見て、リーリスが目を丸くしている。
ドラゴンの姿ならともかく、女の子の姿であまり非常識なことをしないでほしいなあ。人のことを言えないけど。
僕は樹液を採取する。これも納涼祭の時に使うつもりだ。
「ルーシェル。あんまりのんびりしていると、カカオバチを見失うぞ」
「わかってるよ」
僕は神経を研ぎ澄ます。マーキングしたカカオバチの気配を追った。
良かった。まだあまり遠くには行ってない。おそらくいろんな所を回って、少しずつ樹液を集めているんだろう。
「マーキングは出来ているから心配ないよ。それと、2人にはこれを……」
道具袋から七色に光る獣の皮を取り出す。
「これは?」
「ジュエルカメレオンの皮だよ」
「ジュエルカメレオン……! 初めて見ました。綺麗……」
リーリスはうっとりとジュエルカメレオンの皮を見つめる。
ジュエルカメレオンを見つけるのは難しく、その真の姿を見た人は少ない。
魔獣図鑑には七色に光っていると記載はあるけど、実際の姿は描かれていなかった。だから、リーリスも初めて見たのだ。
「これを被ると、自動的に【気配遮断】と【迷彩】のスキルの効果が発動するから。とっても便利だよ。……あ、ちゃんとなめしてあるから。匂いは気にならないと思う」
「ありがとう、ルーシェル」
「ドラゴンの我がカメレオンの皮を被るとはな。まあ、綺麗だから許そう」
ユランも気に入ったらしい。早速頭から皮を被った。
ドラゴンは綺麗なものに目がないのだ。
僕はジュエルカメレオンの皮を身につける。
装備を調えたところで、早速カカオバチを追いかけた。
一応距離を置く。ジュエルカメレオンの皮を被っているけど、カカオバチは臭いに敏感だ。
特に巣の近くには、カカオバチの衛兵タイプが存在する。
常に巣の周りを回って、巣を守護する役目を担っているカカオバチだ。彼らは特に嗅覚が鋭い。
巣には100から、最大で500匹近いカカオバチがいるけど、その中から1番優れた嗅覚を持つ個体が衛兵に選ばれるからだ。
僕1人なら問題ないけど、今回はリーリスもいる。あまり無理はできない。
「止まって……」
僕が足を止めると、他の2人も足を止めた。
「どうしました、ルーシェル?」
リーリスが緊張した面もちで僕に尋ねる。護身用として持ってきたスタッフを握りしめた。
「カカオバチが全く動かなくなった。もしかしたら、1度巣に戻ったのかも知れない」
樹液を集める働き蜂タイプのカカオバチは、巣に戻ると乳母タイプのカカオバチに自分が集めてきた蜜袋を吸わせる。
乳母タイプのカカオバチは幼虫に口移しで与えるのだけど、その蜜袋をすべて飲み干すには時間がかかる。
――とここまで僕はリーリスに説明した。
「蜂と似ているんですね」
「習性やコミュニティの作り方は、ほとんど蜂と変わらないよ。ただ凶暴さは、蜂の比じゃないけどね」
「ここからどうするんだ、ルーシェル? 巣はまだ先だぞ」
ユランは鼻先をくんくんと動かす。
どうやらホワイトドラゴンのユランの鼻には、甘い匂いが届いているようだ。
「大丈夫。対策は――――」
説明しようとした時だった。
羽音が近づいてきている。僕はすかさず【竜眼】を使って、状況を把握した。
2匹のカカオバチが真っ直ぐ僕たちの方に向かって近づいてきている。明らかに僕たちを狙っている様子だった。
おかしい。カカオバチが探知できる範囲からかなり距離を取っているはずなのに……。
「どうする、ルーシェル?」
「迎撃するしかないよ。ユラン、手伝って」
「おおよ! ホワイトドラゴンの我にとっては造作もないことだが、これを試す時がやってきた」
そう言って、ユランはどこからか剣を取り出す。ユランを覆う表皮はすべて鱗になっていて、どうやら裏側に隠していたらしい。
「他のカカオバチを刺激しないように、一瞬でね」
「任せよ。あのような脆弱な獣……。我の一刀で十分じゃ!」
ユランは剣を掲げながら、ニヤリと笑う。
まあ、ユランは心配しなくて大丈夫だろ。
「ルーシェル……」
そう言ったリーリスの声は震えていた。
スライムとは違う。凶暴な魔獣との初遭遇なのだ。怖くて当然だろう。
「大丈夫だよ、リーリス。僕の後ろに隠れてて。絶対守るから」
「……はい!」
リーリスは僕の後ろに隠れる。
同時にカカオバチが襲来した。僕たちを見つけるなり、お尻を突き出す。一気に針を射出した。
僕はリーリスを抱え、距離を取る。
一方ユランは針を躱しながら、カカオバチに迫った。
「せやっ!!」
1体のカカオバチを切り裂く。
見事! 剣の振りも教えた通り、綺麗な剣筋になっていた。
魔晶石ごと切り裂かれたカカオバチが、一瞬にして消滅する。
「ルーシェル! 何をボサッとしている! 後ろに回り込んだぞ」
ユランは叫んだ。
「わかってるよ」
振り返ると、カカオバチが頭の触覚を動かし、リズムを取るように羽音を鳴らしていた。
仲間を呼ぶつもりだ。
「させないよ」
僕は手を掲げる。
【水連弾】!
圧縮された水の飛礫が、カカオバチを捉える。
まさに蜂の巣にされたカカオバチは地面に落下する。
ひとまず戦闘終了だ。
「リーリス、大丈夫?」
「はい」
「ごめんね。怖がらせてしまって」
「いえ。こういう危険もあることを覚悟していたので」
やっぱりリーリスは強いな。
目の端に常にリーリスを置きながら状況を把握していたけど、1度も目をつぶらなかった。
リーリスなりに戦おうとしていたんだ。
「頑張ったね」
「ルーシェル……?」
僕は無意識にリーリスの頭を撫でていた。リーリスはちょっと気恥ずかしそうに頬を染めている。
一方、僕が仕留めたカカオバチは生きていた。
羽は吹き飛んだけど、まだかろうじて生き残っている。
僕が未晶化したのだ。
「これは働き蜂タイプだね」
仮に襲ってくるとしたら、衛兵タイプのはずだけど、なんで僕たちのことがわかったんだろう。
そもそも働き蜂は蜜や樹液にしか……。
「もしかして――――」
「はっはっはっ! 見たか、ルーシェル。我の剣捌きは! 今度、お前と戦う時が楽しみだわい」
ユランは大層ご満悦だ。
しかし、僕は少し恨みがましそうにユランを睨む。
僕の態度に気付いたユランは、1歩後ずさった。
「な、なんじゃ、ルーシェル。怖い顔をしおって」
「ユラン。今回はユランが悪いからね」
「な、なんでじゃ!?」
「いっぱい樹液を舐めたでしょ。それにカカオバチが反応したんだよ」
「まあ……!」
リーリスは驚いて、自分の口元を隠す。
「そ、そんなことがあるのか?」
「多分カカオバチには君が大きなソーラーウッドに見えたんだろうね」
「なんじゃと!! わ、我は気高いホワイトドラゴンだぞ」
「気高い?? 食いしん坊な――じゃないのかい?」
「むぅ!!」
ユランは頬を膨らませる。
その顔は真っ赤になっていた。
【緩募】
①あなたが使って、感動した調理器具・グッズなどを教えて下さい。出来れば理由も!
②何気なくあるけど、この調理器具ってすごいんじゃねって思うものを教えて下さい(例えばサランラップとか)
もし良かったら、上記2点あるいは1点でもいいので、何かあれば感想欄に書き込んで下さい。
ちなみに今日までですが、
拙作『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』のコミカライズ最新話にて、あなたの性癖もとい好きなものをコメントしていただいてますw
その中から、来月更新予定のモブ魔族の台詞として採用いたします。
気になる方は、ニコニコ漫画で更新されている最新話の最終ページをご覧下さい。
すでにカオスになってますw 見るだけで楽しいですよw
 








