第6話 60年後……(前編)
ハイファンタジー14位でした!
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60年後……。
『ギャアアアアアアアアアア!!』
甲高い嘶きが山々を埋め尽くす。
空を覆っていたのは、大きな翼と真っ黒な腹。鱗は分厚く、一見して岩山が浮かんでいるようにさえ見える。
大きな宝石を思わせる一対の瞳が、ずっとわしを睨んでおった。
ドラゴングランドは、大きく首を振る。鼻の中にある火袋を動かし、長い食道の終端部分に存在するという、火付け石を弾く。
瞬間、マグマのような火塊がわしに向かって吐き出された。
山野を一瞬にして灰燼に変えるほどの威力を持つ竜火。
猛然と迫る炎に、逃げ場などない。
「むぅ……」
少し眉を顰める。
細い毛がチリチリと焼かれた。
しかし、そこまでだ。
今纏っている鎧はサラマンダーの皮膚を使っている。熱耐性はもちろん、衝撃性能に強く、ドラゴングランドの突撃にも先ほど耐えてみせた。
加えて60年の間、火空鶏を定期的に食べることによって得た熱耐性のおかげで、どんな炎もわしを燃やすことは叶わぬ。
周辺を焼き尽くしていたドラゴングランドの炎がついに油切れを起こした。
これでドラゴングランドの脅威は半分なくなる。
「ようやく、わしの手番か」
思わず口端が緩む。
次の瞬間、わしは風のように走り出した。
すでに76歳。しかし、未だに身体は衰えることを知らない。むしろ、竜を倒すと決めた時よりも遥かに極まっていた。
唯一衰えを感じるのは、最近胃もたれすることと、妙に早起きになったぐらいであろう。
「おおおおおおおおおおおお!!」
鞘から撃ち出したのは、対ドラゴン戦用にこしらえた大太刀だ。
年甲斐もなく名付けてみた銘は『ドラゴンキラー』。
自重と刃の鋭さだけで、今着ているサラマンダーの皮膚を切り裂くことができる大業物である。
この時のため――この一瞬のため、60年間を捧げて、わしはこの大太刀を作り上げた。
60年といえば途方もないかもしれないが、わしにとっては刹那に等しい。
楽しいことはあっても、苦しいと思ったことはないし、嬉しいことはあっても、空しさを覚えたことはない。
すべて――60年前に掲げた目標を達するためだ。
父上の言う通りだ。
わしは欠陥品だったらしい。
竜種1匹倒すために、60年もかかってしまったのだからな。
いや、油断するな。
まだわしは何も成していない。
しかし、今から成し遂げるのだ。
わしは飛び上がる。空を飛ぶ鷹をも補食するトビウオラビットを食べたおかげで、跳躍力は常人のそれを超えている。
さらに――――。
【浮遊】
クラウドアイという雲に擬態した悪魔系の魔獣を捕食したおかげで、飛行能力も得るに至った。
いつもドラゴングランドに見下げられていたわしが、ついに同じ目線で対等に語り合う瞬間がやってきたのだ。
「どうじゃ、ドラゴングランド! いつも見下げていたありんこと同じ目線で睨み合うのはどういう気持ちだ!?」
『ギャアアアアアアアアアア!!』
竜の矜恃に触れたのか。
ドラゴングランドは大口を開けて、わしを威嚇する。
おお……。おお……。怒っとる。怒っとる。
いいぞ。それぐらい怒ってもらわねば困る。
「わしも倒しがいがないというものだ」
わしは空を蹴った。
ドラゴングランドも翼を広げる。その口内はすでに赤く光っていた。
瞬間、それは炎ではなく熱線のように吐き出される。
ジュンッ!!
空気を、空を……焼く。
それでも構わず、わしは突っ込んだ。
熱線の中にわしは消えていく。
消滅したと思われた刹那、わしは再びドラゴングランドの前に踊り出た。
「ほう。こんな隠し球があったとはな。よい勉強になった」
サラマンダーの鎧がボロボロになり、大半が溶けきっていた。
しかし、60年魔獣を食べ続けたこの身体は、ドラゴングランドの隠し球に耐えてみせる。
「わしの勝ちじゃ!!」
さらばドラゴングランド!!
わしは――俺は――僕は――その瞬間ドラゴングランドを斬った。
一瞬、時が止まったような静寂が満ちる。
ただドラゴンキラーを納刀する鞘音だけが響いた。
ドラゴングランドの首が傾く。
末期の悲鳴はなく、ただ巨体がゆっくりと空中で傾斜すると、遥かかなたの地面へと落ちていった。
わずかに動いた翼は、わしに「見事」と拍手を送っているようだ。
直後、大地に橦木を打ち付けたような轟音が鳴り響く。
わしは地上付近まで降りてくると、ヤツは焼け野原で大の字になり仮死状態になっていた。
「よし。成功じゃ」
わしは早速、解体に取りかかる。
ドラゴンの解体は大変だ。軽く2時間はかかるだろう。
加えて、その労力に見合うほど、おいしいわけではない。
それでも中の上ぐらいではある。
だが、1つ絶品な部分が存在する。
尻尾だ。特に付け根の部分がうまい。
経験上、動かす部分の肉が一番いいのだが、あまり動かし過ぎる部分は筋肉が発達しすぎてうまくない。
ドラゴンでいうなら、羽根の付け根の当たりの肉だろう。
その点、ドラゴンは尻尾の運動が緩やかで、わしの好みと合致する。
早速、切ってみた。
さすがはドラゴングランド。普通の包丁では全く通らない。
そういう時、先ほどのドラゴンキラーが役に立つ。
こいつならば、ドラゴンの硬い鱗を難なく切ることができる。そのために生まれたと言ってもいいかもしれぬ。
早速使ってみると、狙い通りサックリと切れてしまった。
我ながら惚れ惚れするほどの切れ味だ。
鱗皮と身の間にドラゴンキラーを入れて、2つを剥がしていく。
「おお。なかなか美しい」
身の色は鶏に似ている。白っぽい赤だ。
白いさしがうつくしく、雲間から差し込む光を受けて輝いておる。
肉質は柔らかく、昔食べたトロルの舌を思わせた。
豪快にドラゴンステーキもいいのだが、先に言ったように、76ともなると、ちと身体に厳しい。
だから、そんなわしでも食べられるような料理にすることにしよう。
後編も今日中に更新しますので、しばしお待ちを。
ランキング、ここから上がっていくのが難しいので、
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