第66話 試験結果
☆☆総合評価12万pt突破☆☆
ちょっとお礼が遅れましたが、総合評価が12万突破しました。
ブクマ・評価して下さった方ありがとうございます。
あと1万行くと、累計が見えてくるけど、なんとかそこまで頑張りたいなあ……。
親子丼とはいったものの、僕が作った賄い料理はなかなか色鮮やかだ。
白菜の外側の葉を使った緑に、同じく人参の皮を使った赤。そこにトロットロの溶き卵を載せ、さらには銀色に輝く銀米とくれば、食欲をそそることは間違いない。
だけど、僕が作った親子丼はそれだけではない。
しっかりと味にもこだわっていた。
「うまい!」
ビディックさんが唸りを上げた。
「見た目や匂いだけじゃない。味もしっかりしている」
「これは鶏ガラか。いや、きちんと野菜を入れておるな、これは」
ソンホーさんは首を捻る。
「はい。野菜を茹でた時のゆで汁を使って煮込んでいます」
「あ! そう言えば、お前一昨日から集めてたな」
ヤンソンさんはポンと手を叩く。
「野菜のゆで汁は栄養価も高く、野菜の旨みも混ざっているからね。出汁として使うのはちょうどいいんだ。私は好きだよ」
「ありがとうございます」
ビディックさんの笑顔を見て、僕は反射的に頭を下げた。
「なるほど。前日から一生懸命仕込みをしていたのは、出汁を取るためだったか。ん? 白菜の外側以外も何か使ってるな?」
「人参の茎を使ってます。葉の部分はおひたしにしたので、合わせて食べて下さい」
僕は丼の横の小皿を薦める。
「茎と皮の食感が気持ちいいのう」
「ええ……。そこにトロトロの溶き卵に、鶏ガラと野菜で取った出汁をベースにした割り下もたまりません」
「おひたしもうまい。ザクッとした食感は気持ちいい! 味は少しクセがあるけど、このかかってるのはなんだ?」
ヤンソンさんはおひたしにかかっていたオレンジ色の粒を見つける。
「魚醤に残っていたオレンジの皮を絞ってます。果肉に見えるのは、オレンジの皮をくだいたものですね」
「ほう。なかなか良いアイディアだ。人参葉のクセのある味をさっぱりと食べさせることによって抑えている」
ソンホーさんは咀嚼しながら、膝を打つ。
とうとう料理長にまで褒められてしまった。
僕は呆然としながらも、慌てて頭を下げる。
「銀米もふっくらとしておいしい。とても炊き直ししたとは思えないよ」
ビディックさんは目を細める。血色の悪かった頬が銀米のように艶々になっていく。
その横でヤンソンさんがスプーンを置いた。
まだどんぶりには半分親子丼が残っている。
すると、僕の方を向いて睨んだ。
「だが、この丼には1つ疑いがある」
ヤンソンさんが言うと、ソンホーさんもビディックさんも頷いた。
僕は急に不安になってきて、机に置いていたコック帽を掴む。
「それは何でしょうか?」
「ルーシェルも気付いているんだろ? 鶏肉だ」
「ああ。鶏肉だったら……」
「わかっているよ。昨日うちの養鶏が1匹死んだ。その肉を使ったって言いたいんだろ」
すごい。僕が言いたいことを先に言われてしまった。
食べただけでわかるなんて。
「死んだ養鶏を使ったことはルール違反には当たらない。養鶏の――しかも年老いた鶏の肉は固いから、ご当主様には出せない。本来は使用人のご飯になるのを、譲ってもらった。そんなところだろう」
「はい。ここの炊事場で使われない食材は、捨てられたも同じ、とあらかじめヤンソンさんにも確認しました」
「ああ。養鶏を譲ってもらうことは、俺も経験がある。……だからわかるんだ、ルーシェル」
「何が、わかるんですか?」
「さっきもいったが死んだ養鶏の肉はとても固い。なのに、この親子丼の上に乗っている鶏肉は柔らかい。とても死んだ養鶏の肉とは思えないぐらいにな。酒や砂糖水を使ったってここまで柔らかくはならないぞ」
「それは――――」
「本当は炊事場にあった鶏肉を使ったんじゃないのか?」
ずばり、とばかりにヤンソンさんは僕を指差す。
確かに指摘の通りだ。
養鶏の肉は総じて固く、年老いた鶏の肉なら尚更だ。
だが、断じて違う。
僕は食用の鶏肉を使っていない。
「どうなんだ、坊主?」
「正直に話しなさい」
ソンホーさんとビディックさんも僕を見つめる。
やがて僕は口を開いた。
「では、正直にお話します。僕は食用の肉を使ってません。それに魔法も魔獣食材も使ってません」
「じゃあ、この鶏肉の柔らかさはどう説明するんだ?」
「これを使いました」
僕が取り出したのは、茸の切れ端が入った袋だった。
「それは――――」
「舞茸か!」
ソンホーさんとビディックさんは思わずテーブルから身を乗り出す。
「舞茸?」
首を傾げたのは、ヤンソンさん1人だけだった。
「舞茸は肉と一緒に漬け置くと、肉を柔らかくする効果があるんだよ、ヤンソン」
「え? そうなんですか?」
ヤンソンさんは衝撃を受ける。
「よく知っておったな」
ソンホーさんも感心する。
「魔獣の肉は固いことが多いので、色んな方法を試しました。その中で1番適していたのが舞茸なんです」
「なるほど。確かに養鶏肉よりも、魔獣の肉の方が硬そうだ」
ビディックさんは再びスプーンを持ち上げ、溶き卵と割り下がかかった鶏肉を持ち上げる。
口の中に入れると、再び幸せそうな顔を浮かべた。
「うーん。うまい。とても養鶏肉とは思えないよ」
「舞茸は昨日リゾットに入れたヤツの切れ端か。うまく使ったのぅ」
ヤンソンさんも舌鼓を打った。
「最後にこちらを飲んで下さい」
僕が最後に出したのはお茶だった。
一見、普通の紅茶にも見えるが、飲んでみて、みなさんビックリする。
「苦っ!」
「ぬうぅ!」
「これ……もしかして!」
それぞれ顔を顰める。
「はい。玉葱の1番外の皮で沸かした玉葱茶です」
「た、玉葱のお茶!」
「外側の皮って」
ビディックさんとヤンソンさんは顔を顰めたが、ソンホーさんは興味深そうに見つめていた。
「ルーシェル、これは苦すぎるぜ」
「玉葱には血流を改善する効果と、炎症を抑制する作用、むくみや冷え性の改善にも役立つ効果があるんですよ」
「なんで、お前にわかるんだ?」
「自分の【竜眼】で見たので」
僕は片目を光らせる。
それを見て、ヤンソンさんは腕をだらりと垂らして、首を振った。
「お前がそういうヤツだということを忘れていたよ」
最後は苦笑いを浮かべた。
こうして料理人の朝食は終わった。
いよいよ僕の賄い料理がジャッジされる時がやってきた。
「ヤンソン、お前が決めろ」
ソンホーさんはぶっきらぼうに指名する。
いきなりご指名されたヤンソンさんは慌てた。
「お、俺ですか?」
「お前はルーシェルの教育係だろ?」
「俺は賄い料理の基本を教えただけで、教育係って訳じゃ……」
「ヤンソンさん、お願いします」
僕としてもヤンソンさんにジャッジしてほしい。多分、この中でヤンソンさんが1番僕を料理人として見てくれているような気がするから。
何より僕の直近の兄弟子だからね。
「塩……」
「え?」
「塩みが強い。調味料の制限はないが、ジャンジャン使っていいわけじゃない。そもそも塩がきつすぎて、野菜の味を殺してる。折角の野菜の煮汁を使ってるのに、味付けが濃くて、これじゃあ台無しだ」
確かに……。
出汁を取る時間が少ないから旨みが、イメージ通りとれなくて、少し調味を多くしたことは事実だ。
食べただけでそれがわかるなんて。
やっぱりヤンソンさんは凄い人だ。
「細かいところを上げたらキリがないが、そこだな。もっと食材の味を信じろってところか」
「えっと……。じゃあ、僕の賄い料理は…………不合格?」
「はあ? 何言ってるんだ、合格に決まってるだろ。お前も見てたろ、俺たちがおいしそうに見てたのを……」
「え? でも――――」
「今のままでも十分おいしいが、改善点はあるってことだ。そもそも料理に『ここまででいい』なんてものはねぇ。お前も料理を囓ったことあるなら、それぐらいわかってるだろ?」
ヤンソンさんの言う通りだ。
料理に天井なんてない。
あるのは、もっとおいしく、さらにおいしく……。
味を追究することなんだ。
「おいしかったぜ、お前の賄い料理」
ヤンソンさんは僕の肩を叩く。
おいしかった……。
それは料理人にとって、最高の勲章だった。
拙作「ゼロスキルの料理番」のコミカライズが更新されました。
ヤングエースUP様で更新されたので、是非チェックして下さい。
ページ最後にある「応援ボタン」も押して、応援いただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。








