表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/273

第5話 タンステーキ(後編)

手が滑って、一気に「後編」まで投稿してしまったけど後悔はない!

 タンをよく洗ってから、皮を剥ぐ。


 宣言通りタン元のところを大胆に厚くカットした。


 そのままの状態だとグロテスクで食べ物にすら見えないのだけど、真っ黒な皮を剥ぎ、縦にナイフを入れてみると、ほのかに桃色をした身の部分が現れる。


 ここまで来ると、牛の(たん)とあまり変わらない。その美しさにトロルであることを忘れるぐらい見惚れてしまう。


 ずっと見ているわけにはいかないので、調理を続けた。


 少々塩をまぶして馴染ませた後、自分で作った鉄のフライパンでじっくりと焼き始める。


「いい匂いだ……」


 肉の焼ける香ばしい匂いが、直接お腹をノックする。


 久々のご馳走なので、自然と涎が溢れてきた。


 忍耐、と心に念じつつ、時間をかけて肉の表面を焼いていく。


 魔獣の肉で失敗しないのは、結局のところよく火を通すことだ。


 焦ると、1週間水しか飲めないようになってしまう。あの時は困ったものだ。


 お手製のフライパンに余熱を入れて、あくまでじっくりと火を通していく。


 皿に載せたら完成と宣言したいところだけど、まだ我慢。


 熱々もおいしいけど、ちょっと待ってからの方が通好みである。


 頃合いが来たら、ナイフで食べやすい大きさに切っていく。


 元がトロルとは思えないぐらい綺麗にナイフが通る。


 そして現れたのは、淡い桃色の身だ。


 言うまでもなくおいしそうだった。


「いただきます」


 まず何も付けないで食べてみる。


 早速、手製のフォークを刺して、口の中に入れた。


「うま~~~~~~い!!」


 肉、柔らか!


 噛んだ瞬間、ホロッと消えてしまうような肉を食べたのは、トリスタン家にいた時以来だ。


 タンなのに、極上のサーロインステーキを想起させる。


 我ながら、うまく焼けたな。


 熱の通り具合が完璧だ。


 外側が香ばしく、ちょっとカリッとなっている所がいい。


 口に噛んだ瞬間、肉の旨みが溶け出し広がっていく。感動的なおいしさだ。


 今度は岩塩を付けてみる。


 こっちもうまい。


 岩塩のストレートなしょっぱさが、ピリッと舌を刺激する。


 肉の旨みともあっていた。


 俺は嗜まないけど、果実酒がちょっと欲しくなる。


 今度、作ってみようかな。




 誰に? 誰と食べる?? 君は1人でずっとこれからも食べて行くの?




「??」


 えっと……。


 今のはなんだろうか。


 独り言? でも、僕は何も喋っていない。


 無意識に何か口にするぐらい、このお肉に夢中になっていた。そういうことだろうか?


 結局は僕はいつも通り全部お腹に収めてしまった。


 さすがは食べ盛りだけあって、腹八分目といったところだ。


 満足そうにごろりと転がる。


 いつの間にかトロルが魔石化していた。仮死状態が長く続くと、魔力供給が緩やかになり、最後は止まってしまうようだ。


 それよりも問題は集まってきた魔獣や野生の獣たちだろう。


 おいしそうな匂いに釣られてきたのか、みんな殺気立っていた。


「ご飯を食べたばかりなんだけどなあ」


 やれやれ、と俺は頭を掻く。その手を下ろして、鋼の剣を握った。


 食後の運動にしては激しすぎるきらいもあるけど、仕方ない。やるか。


 その時だった。



 【軍進凱歌(ウォークライ)



 この感覚は魔法を覚えた時と同じだ。


 どうやらトロルを食べたことによって、新しい【スキル】を得ることに成功したらしい。


 頭の中に浮かんだ文字を唱えると、【スキル】が発動する仕組みだ。


 【軍進凱歌(ウォークライ)】か。ちょっとやってみようかな。


 俺は大きく息を吸い込んだ。



軍進凱歌(ウォークライ)】!



 叫んだ瞬間、その声は遠吠えのように山に響き渡る。ビリビリと空気が揺れ、衝撃で木々が揺れた。


 集まってきた魔獣や野生動物が逃げていく。残った魔獣もいたけど、その場から動こうとはしなかった。


 それよりも俺の方にも変化が起きていた。


「身体が熱い……。力が漲る……」


 身体の中から湧き水のように力が溢れ出てくる。ふっと力を入れて飛び上がるだけで、雲の高さまで飛べそうな感覚に襲われた。


 急速に熱を消耗し、皮膚から微かに白い湯気のようなものが見える。それが徐々に冷めていく。熱々のタンのようだ。


「これが【軍進凱歌(ウォークライ)】の力……」


 おそらく一時的に力を飛躍させる魔法なのだろう。


 トロルのランクは“C”。


 まだまだ俺の力は、ランクCの魔獣を倒すのにやっとということだ。


 父上なら目を瞑ってでも倒せる相手に、俺は10年もかかってしまった。


 やはり父上のいうとおり、俺は欠陥品なのかもしれない。


 元々『剣聖』にふさわしくなかったのだ。


 だけど、俺には俺の道がある。


 たとえ『剣聖』という高みに到達しなくても、それに近いぐらいの人間になってみせる。


 【軍進凱歌(ウォークライ)】はそのための力だ。


 ふと顔を上げると、空に大きな翼を広げて飛行する魔獣の姿があった。


 竜だ。


 大きい。ドラゴングランド? 竜の中で最強種に近いサイズがある。


 それが西から東へと、悠然と翼を広げて飛んでいた。


 竜にとって、トロルを倒した俺程度など、蟻ぐらいにしか見えていないのだろう。


「決めた」


 剣を掲げ、俺は宣誓した。


「俺はドラゴンを倒す」


 そして、食べてみせる。


ランキングで駆け上がるには、スタートダッシュが重要です。

気に入っていただければ、ブックマークと下欄にある☆☆☆☆☆をタップして評価をお願いします。

ランキング上位に入れば、モチベーションがアップします。

是非お願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シーモア限定で6月30日配信開始です!
↓※タイトルをクリックすると、シーモア公式に飛びます↓
『宮廷鍵師、【時間停止】と【分子分解】の能力を隠していたら追放される~封印していた魔王が暴れ出したみたいだけど、S級冒険者とダンジョン制覇するのでもう遅いです~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


コミカライズ10巻5月9日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる10』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス9巻 5月15日発売!
70万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新小説! グラストNOVELS様より第1巻が4月25日発売!
↓※表紙をクリックすると、公式に飛びます↓
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』書籍1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シリーズ大重版中! 第6巻が3月18日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本6巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




3月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本3巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
追放王子、ハズレギフト【料理】を極める~最強のもふもふ国家で料理番を始めます。故郷の国が大変らしいのですが、僕は「役立たず」だったので関係ないよね~



『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


<『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[良い点] 盛りあがって来ました。 どんどん強くなっていく主人公! これでCランク。 [一言] ジャンプっぽくなってきました。 毎回ワクワクしてます。
[一言] 魔物Aは仲間になりたそうにこっちを見ている。 魔物Bは相伴に預かりたそうにこっちを見ている。 魔物Cは新しいボスに媚びへつらおうとこっちを見て… <<ウォークライ!>> まもののむれは にげ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ