第55話 講義
大変お待たせしました!
後書きには重大発表がございますので、よろしくお願いします。
旧題「【第一部完結】300年山で暮らしてた引きこもり、魔獣を食べてたら魔獣の力を使えるようになり、怪我も病気もしなくなりました。僕が世界最強? ははっ! またまたご冗談を!」
「この辺りで良かろう」
クラヴィスさんが声を響かせたのは、沼地だった。
比較的浅い沼なのだろう。白や黄色の花を付けた多年草が見える。
おっと、でも油断禁物。
キメラノオが毒々しい花を咲かせていた。
沼地に棲息し、蜜を吸いに来た蝶や蜂を殺して、養分にする魔草だ。
蜜は人体にはほとんど無害だけど、スズメぐらいの鳥でも痺れて動けなくするぐらいの効力はある。
ちなみに名前の由来は、キメラの尾の蛇のように邪悪だからという。
「あそこにキメラノオが生えてます。あそこには行かない方が良さそうですね」
キメラノオは比較的深い沼地で棲息することが多い。
そこだけ深くなっている可能性が高いのだ。
「へぇ~……。初めて知った」
「ミルディはもうちょっと植物や魔草のことを学びましょうね」
ミルディさんが感心の声を上げていると、横でリチルさんがこめかみに青筋を浮かべて、静かに怒っていた。
「初めて聞いたよね、リーリスお嬢様」
ミルディさんは悪びれた様子はなく、隣に立っていたリーリスに話を振る。
リーリスは苦笑いを浮かべた。
「いえ。わたくしも知ってました」
「え? もしかして、あたしだけ??」
「馬鹿ね。リーリスお嬢様の薬草知識は半端じゃないってことは、あなたも知ってるでしょ」
リチルさんがたしなめる。
「あははは……。そうでした」
ミルディさんは苦笑いを浮かべた。
しかし、リーリスはあくまで謙虚だ。
「それほどでもないですよ。あくまで病気に効くという魔草や薬草だけです。ルーシェルの前では形無しですわ」
「さすがルーシェル君。リーリスお嬢様のお墨付きだね」
「5歳でそれほどの知識を保っているリーリスお嬢様の方が凄いですよ」
僕の方に「やったね」とウィンクするミルディさんに向かって、僕は笑みで返す。
「こらこら。お前たち。緊張感が足りないぞ。特にミルディ。お前はお嬢様の護衛役なんだからな。しっかりしろ」
フレッティさんが馬上から叱り付ける。
軽く雷を落とされたミルディさんは、兜を深く被った。
「す、すみません。気を引き締めます、団長」
「わかればいい」
と言うけど、まだ気が収まらないようだ。フレッティさんはふんと鼻息を飛ばした。
そこに軽やかな笑い声が交じる。カリムさんだ。
「フレッティ、君こそ肩に力が入りすぎだよ。それとも【紅焔の騎士】の初陣だから、緊張しているのかい?」
最後にカリムさんが目を細める。
フレッティさんが一瞬硬直した。
「そ、そんなことはありません!」
「あ~~。団長の顔が真っ赤だ。どうやら図星だったみたいですよ、カリム様」
お返しとばかりに、ミルディさんはニヤリと笑う。
実際のところ、フレッティさんの顔は真っ赤だった。
「これこれ。ハイキング気分も悪くないが、目的を忘れてもらっては困るぞ、お前たち」
クラヴィスさん自らたしなめる。
さすがに主君から注意を受けるのは効いたのか、フレッティさん、ミルディさん、さらに同行した騎士たちはしゃんと直立した。
さすがはクラヴィスさんだね。
今日沼地にやってきた目的は、魔獣の調査だ。ただこれは名目で、騎士団の訓練も兼ねている。
そして、その訓練内容というのが……。
「では、これよりスライムの未晶化訓練を行う。各自、真剣に取り組むように」
『はっ!』
総勢100人ほどの騎士たちが一斉に声を上げる。
「では、今日の訓練の指導教官を務めていただく方を紹介する。ルーシェル君だ」
フレッティさんが大げさに僕を紹介するから、なんだか緊張してきた。
それに割と僕の存在って騎士団の人には周知されていると思うのだけど。
そう――。今日沼地にやって来たのは、騎士団の人にスライムの未晶化方法を教えるためだ。
未晶化の方法は魔獣によって違うけど、その中でスライムは割と簡単な部類だ。
しかも、苦労の割にはリターンが大きい。
種類によって効果は違うけど、体力回復や、魔力回復、果ては洗剤にまで使うことができるのだ。
クラヴィスさんたちからすれば、まさに宝の山だろう。
そもそもレティヴィア家は魔獣を研究することを生業としている。クラヴィスさん自身も魔獣に対して非常に強い関心を持っているようだ。
そうでなければ、公爵家の当主がこんな沼地にまで遠征してくる理由などないだろう。
騎士団の人たちは訓練。そこにはカリムさんも加わる。
1人――いや、1匹というべきかな。僕が知る人で同行していないのはユランぐらいだろう。
あの気まぐれなホワイトドラゴンは「興味ない」と言って、どこかへ飛んでいってしまった。
最近ずっと人の姿をしていたから、たまには竜の姿になって思いっきり羽を伸ばしたい――みたいなことを言っていた。
今頃山のどこかで、気持ち良くひなたぼっこをしているに違いない。
「ルーシェル君、挨拶……」
あ、挨拶……。
え、ええ~。そんな……。
こんなに多くの前で喋ることなんて、300年前もなかったのに。
「ぬふふ……。これも経験だな」
意地悪く笑ったのは、クラヴィスさんだ。
もしかして、クラヴィスさんの発案か。そもそも騎士団にスライムの未晶化を覚えさせようと提案したのも、クラヴィスさんだし。
今回は色々としてやられたな。
僕は短い間で何を喋るか考えた後、こほんと咳払いをした。
「ルーシェル・ハ…………じゃなかった、ルーシェル・グラン・レティヴィアです。未晶化は簡単ではありませんが、根気よく取り組めば誰でも会得することはできます。相手はスライムですし、さほど難しい相手ではないので、みなさんで楽しく取り組めればなあ、なんて考えています。僕としては交流を通して、騎士の皆さんの顔と名前を覚えることが目標です。それではよろしくお願いします」
僕はペコリと頭を下げる。
ちょっと固かったかな。
少し後悔したけど、パチパチと拍手が聞こえて、僕は頭を上げた。
側のクラヴィスさんが髭を撫でる。
「うむ。なかなか良い挨拶だ。まあ、95点かの」
「随分と高得点ですね、父上。うん。でも良かった」
「良い挨拶ですよ、ルーシェル」
カリムさんやリーリスまで褒めてくれる。
『よろしくお願いします!!』
騎士団の人たちも頭を下げた。
どうやら僕の挨拶はうまくいったようだ。
褒めてもらえて嬉しいというより、少し安心して、僕は胸を撫で下ろす。
ヴェンソンさんに現代語を教えてもらっていたことが功を奏したのかも。我ながら怪しいところがあったけど、みんなの反応を見る限りは問題なさそうだ。
でも、この先もあったりするかもしれない。屋敷に帰ったら、ヴェンソンさんに良い挨拶の仕方を教えてもらおう。
「では、まず沼地に棲息しているスライムを捕獲しろ。その後、予定通り講義に入る!」
再びフレッティさんの声が轟く。
やはり今日は気合いが入ってるみたいだ。
こうして僕による講義が始まった。
☆☆ 祝!! 書籍化決定!! ☆☆
『300年山で暮らしてた引きこもり、魔獣を食べてたら魔獣の力を使えるようになり、怪我も病気もしなくなりました。僕が世界最強? ははっ! またまたご冗談を!』改め
『公爵家の小さな料理番様』が、おかげさまで書籍化決定いたしました。
現在、ヒーヒー言いながら書籍化作業をしております。
文字だけじゃない、イラストも入ったルーシェル、リーリスの姿にご期待下さい。
詳細については、発売日が決まり次第ご連絡させていただきます。
WEB版だけではなく、是非書籍の方もお買い上げいただけたら幸いです。
そして昨日ですが『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する ~好待遇な上においしいものまで食べれて幸せです~』のコミカライズ2話がニコニコ漫画とコミックノヴァで開始されました!
実食回になっておりますので、是非読んでお気に入りに入れていただけると嬉しいです。
一部をチラ見せ!
よろしくお願いします!








