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第52話 夜の特別講義

Twitter、感想欄ともども、「10万pt突破」につきまして、

たくさんのお祝いをいただきました。

ありがとうございます。引き続き頑張ります!

「ルーシェル?」


 鈴が鳴るような声を聞いて、僕は視線を動かす。


 月が薄い雲に掛かる頃。


 レティヴィア家の中庭に、リーリスが立っていた。


 シンプルなデザインの家着に、少し厚手の子供用のガウンを羽織っている。


 僕は立ち上がって、少し大げさに頭を下げた。


「こんばんは、リーリスお嬢様。夜の特別講義にようこそ」


「夜の……?」


「…………い、いや、別にやましいことじゃなくて」


 慌てて手を振るが、リーリスは目を瞬いただけだった。


 特に他意はなかったようだ。


 そうだよね。まだ5歳だもんね。いや、一応僕もそういうことにはなってるけど。


 僕はほら……。トリスタン家にいた時って、周りは大人ばかりで遊び相手も騎士団の人たちで。


 その色々と大人にしかわからないことをね。


 ……何を言ってるんだろう、僕。


「ルーシェル?」


「あ、ごめん。ともかくこちらへ。寒いからすぐに講義を始めよう」


「講義というのは?」


「それはこれからのお楽しみさ」


 僕は歯を見せて笑った。



 ◆◇◆◇ リチル side ◇◆◇◆



 大丈夫かしら、あの2人。


 なんか「夜の特別講義」とか聞こえたんだけど。


 一応許可はとって、リーリスお嬢様の集中力を切らさないように人払いもした。


 でも、何をするの、ルーシェル君?


 リチルお姉さん、めちゃくちゃ気になるんだけど。


 2人の恋の行く末が……!


 だって、一応養子ということだけど、ルーシェル君とリーリスお嬢様って血は繋がっていないんだし。


 それにわたしの勘だと、クラヴィス様も満更でもない様子なのよね。


 それって当主公認ってことでしょ?


 1番の障害がないってことじゃない。


 いや、1番の障害はユランだわ。


 あの子が入ったことによって、恋の競走路(サーキット)が、俄然面白くなってきた気がするわ。


 ルーシェル君、どうするんだろう。


 親公認のリーリス様を選ぶのか。


 それともダークホースならぬダークドラゴン(本人はホワイトドラゴン)だけど、ユランを選ぶのか。


 リチルお姉さん、大注目だわ。


「リチル……。こんな所で何をやってるの?」


「ミルディ、ちょっと黙ってて。今、いいところだから」


「???」


 ミルディがポカンとするのを尻目に、わたしは2人の様子を陰から見守るのだった。



 ◆◇◆◇ ルーシェル side ◇◆◇◆



「ホントについた」


 パチッ音を立て、重ねた小枝や木の皮から火が上がる。


 まだ大きくない。僕の手の平よりも小さい。可愛い火だ。


「こんな方法でも火って付くんですね」


 リーリスは両手に持ったボックリンを改めて見つめる。


 樹脂を多く含んだこの実を擦り合わせることによって簡単に火を付けることができる。


 僕が山に追放された当初、まだ僕が魔法を使えない時に火を起こしていた方法だ。


「火って、魔法で起こすものだとばかり思っていました」


 リーリスは感心する。


 多分、生まれた頃から周りに魔法を使える人間がいたからだろう。


 トリスタン家にいた時の僕と同じだ。


 魔法以外の火の付け方は、戦場で1人になっても生きていけるようにトリスタン家の騎士に教えてもらった。


「ボックリンがなくても、火打ち石を携帯しておけば、火種には困らない。摩擦で火をおこすこともできるけど、リーリスにはちょっと大変かな……」


「すごい。さすがルーシェルですね。わたくしの知らない知識がいっぱい」


「ありがとう。じゃあ、この火をもう少し大きくしようか」


 僕は少しずつサイズの大きい薪を重ねていく。


 それに合わせるようにゆっくりと火が大きくなっていった。でも、まだ手の平よりも少し大きい程度だ。


「暖かいです」


 日中は汗ばむぐらいの時もあるけど、夜はまだ肌寒い。


 今の火力がちょうどいい具合だった。


「それに、よく見ると綺麗ですね。炎って……」


 うっとりと焚き火を見つめる。


 くべた薪を伝って、火が波のように揺らめいていた。こうして改めてみると、赤だけじゃない。


 紫だったり、橙色だったり、あるいは青っぽかったり……。


 波立つ度に、様々な姿を見せてくれる。


 煌びやかな宝石のようだった。


 僕とリーリスはしばし炎の揺らぎを見つめる。


 ただ焚き火を見つめているだけで、全然飽きてこない。


 驚いたのは、リーリスがあまり火を怖がっていないところだ。


 自分で火を起こさせることによって、火に対する認識を変える作戦だったけど、これはうまくいっているのかな。


 むしろ、僕の認識が変えられているような気がする。


「リーリス……」


「はい。なんでしょうか?」


 火、怖くなくなった?


 そう聞こうとしたけどやめた。


 それよりも火を見て、火を思い出すよりも、リーリスには今日のことを思い出にしてもらう方がいいかなって、僕は考えた。


 早速、火の周りにこぶし大ぐらいの石を積む。


 魔法袋から石が出てくる様を見て、リーリスは「ほぅ」とまた感心していた。


「ルーシェルの袋はなんでも出てくるんですね」


「あははは……。料理に使うものはなんでもあるよ。魔法袋の中に入れれば、重量は関係ないから」


 火を石で囲うと、最後に袋から鍋――ではなく大きな楕円形のものを取り出す。


「なんですか、これ?」


「マグマタートルの甲羅だよ。これは子どものサイズだけど」


「マグマタートル?」


「焼き物をする時とかにいいんだ。鍋や網の上で焼くより、中に火が通りやすくなるんだ」


「まるで今から料理でも始まるかのようですね」


「うん。そうだよ」


 僕は笑う。


「え? 何を作るんですか? 焼きということは……芋?」


 リーリスは上目遣いで尋ねる。


 ちょっと期待してるところもあるのだろう。


 青い瞳が月光を受けて、キラキラと輝いていた。


 でも、残念ながらその期待を裏切ることしかできなかった。


「季節柄良い芋がなかったので、今回はこちらをご用意しました」


 僕が魔法袋から取り出したのは、リーリスの二の腕ぐらいの大きさの茄子だった。


先ほど拙作『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する~好待遇な上においしいものまで食べれて幸せです~』のコミカライズが、今度は「ニコニコ漫画」で公開されました。

こちらでもお気に入りいただけると大変嬉しく思います。

よろしくお願いします。

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