第51話 火の怖さ
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1つの目標でもあったので、これはとても嬉しいです。
改めてブクマ・評価いただいた方ありがとうございます。
講義が終わり、僕はリチルさんに呼ばれて屋敷近くの宿舎に向かう。
どうやら何か相談事があるらしい。
大きな宿舎の1階には、ラウンジや保養施設があって、訓練を終えた騎士達が英気を養っていた。
だからちょっと騒がしい。
「ごめんなさい、うるさいところで」
リチルさんはそう言って、紅茶を淹れてくれた。
爽やかな香気が鼻腔をくすぐる。
飲んでみると、心地よい渋味が舌を刺激した。さらに強い香味が口から鼻へと抜けていく。
とても落ち着く味で、一口飲んだだけで気に入ってしまった。
「おいしい?」
「はい。とってもおいしいです」
「良かった。ルーシェル君、グルメだから」
「そんなことはないですよ」
「だから、団長の部屋からくすねてきたの。初めて淹れたけど、おいしいわね、これ」
リチルさんはペロリと舌を出す。
真面目一辺倒かと思ったけど、リチルさんもたまには悪戯みたいなことをするんだな。
「それで、相談とは?」
ティーカップを皿に戻して、僕は早速本題に入った。
「察してると思うけど、リーリスお嬢様のことよ」
やっぱりか。
魔法の講義は何度か参加してるけど、今日のリーリスの様子はおかしかった。
「今日はだいぶ落ち込んでいましたからね」
「ルーシェル君のお手本を見せたのが、悪かったかもしれないわね。5歳でもできるところを見せて、良いイメージを持ってもらおうと思ったんだけど、完全に悪手だったわ。反省してます」
リチルさんは項垂れる。
こっちも相当を落ち込んでるみたいだ。
リーリスの前では毅然としていたけど、だいぶ無理していたらしい。
「お嬢様ぐらいの子どもが、火属性の魔法を恐れるのは割とよくあることなのよ」
でも、リーリスにそう言っても納得しないだろう。
ちょっと頑固なところがあるからね。
誰に似たんだろ? クラヴィスさんかな?
「とはいえ、貴族の学校に入学するまで1年半を切ったし、あまり時間がないのよね」
「貴族の学校? 初等教育学校ですか?」
「300年前はそう言われていたのかしら? 今は貴族教育学校っていう名前になってるわ。7歳になった貴族の男児女児は、必ず入学する義務があるの」
義務!?
学校に入ることが義務なのか?
300年前はそこまでじゃなかったはず。
まあ、学校に入学して、教養を身につけることは、貴族にとっては義務みたいなものだったけど。
「それまでに魔法の基礎や、基礎的な知識を覚えてもらわないと、学校の授業についていけないんです」
「教師としては、プレッシャーがかかるところですね」
「まるで他人事のように言いますけど、ルーシェル君も通うことになるんですよ」
「え? 僕も!?」
危なく口に含んだ紅茶を噴き出すところだった。
リチルさんは穏やかに笑って、白地のハンカチを取り出し、それを僕の口にポンポンと押し当てて、口の周りについた紅茶を拭ってくれる。
「あの……。僕は――――」
「ふふふ……。ルーシェル君が戸惑うのも当然ね。でも、君は一応レティヴィア家では5歳ということになってるのよ。今、ご当主様が手続きをされてるわ」
「クラヴィスさんが?」
僕が学校か。
5歳の時に家を追い出されたから、僕は学校に通ったことがない。
正直に言うと、ちょっと嬉しかった。
「学校のことは一旦置いておきましょう。今お嬢様の火属性習得のことを考えないと」
1年半という時間があれば、いつかリーリスなら克服するかもしれない。
でも、今問題提起しておかないと、ズルズルと引きずる可能性もある。
リチルさんとしても、早く収拾させておきたいのだろう。
「特に公爵家の子息や令嬢は、学校に行った時にとても厳しい目で見られることが多いの。公爵は貴族の爵位の中で最高位……。模範となるべき爵位のものが劣等生では、レティヴィア家そのものが侮られることになるわ」
わかる。
だから、僕もトリスタン家の息子として厳しく育てられた。
トリスタン家の子息として耐えられないと判断したから、父は僕を捨てたんだ。
「リーリスお嬢様はとても繊細な性格の持ち主だけど、集中力やイメージ力は強い。それに努力家よ」
僕は大きく頷く。
リーリスが努力家であることは、地下の薬草室を見れば一目瞭然だ。
「もし自分が家名を傷付けたと知れば、立ち直れるか……」
「そうですね」
「わたしも色々とアプローチするつもりだけど、ルーシェル君にも考えてほしいのよ。君とリーリス様は年が近いし。勿論君の方がずっと年上なのはわかるのよ。でも、リーリスお嬢様はそう思ってない。でしょ?」
リチルさんの言う通りだ。
リーリスは僕を家族と認めてくれている。
彼女からすれば、僕は年の近い兄妹なのだ。
「だからこそ、あなたにもお嬢様を見ててほしいの」
「わかりました。何か良い方法を思い付いたら、お知らせします」
「ありがとう! 助かるわ!!」
リチルさんは僕を抱きしめる。
僕の顔はあらかじめ定められたかのようにリチルさんの大きな胸に収まった。
柔らかい……。
じゃなくて!
「はわわわわわわ!!」
「あら? ごめんなさい。つい興奮してしまって」
真っ赤になった僕をリチルさんは慌てて離す。
「こんなところ、リーリスお嬢様に見られたら大変ね」
「ど、どうしてそこでリーリスが出てくるんですか??」
僕は真っ赤になりながら、ぺろっと舌を出したリチルさんに抗議した。
◆◇◆◇◆
呪唱型の魔法はイメージが重要なのだそうだ。
おそらくリーリスは「火」が「怖いもの」と思っているんだろう。
そりゃ誰だって、火は怖い。
僕は強力な熱耐性を持ってるけど、それでも火が怖いと思う時がある。
それでも僕が火属性の魔法を使えているのは、僕が使っている魔法の体系が違うからだろうか?
そんなことを考えながら、僕は炊事場でいつも通り使い終わった調理器具を洗っていた。
すると、パンを焼くためにじっと窯を見つめているソンホーさんの姿が目に止まる。
ソンホーさんが薪をくべた窯の中は、激しく炎が燃えさかっていた。
ああやって、窯の温度を上げているのだ。
パンを焼く時、この窯の温度が重要になる。
鑑定魔法の技術が進んだことによって、窯の温度を測ることはできるようになったけど、それでもパン作りは難しい。
その日の気温や湿気によって、温度を変えないとパンをうまく焼けないからだ。
窯の温度は鑑定魔法で測ることができるけど、ソンホーさんは料理人の肌の方がよっぽど正確だと言って、一切魔法の類いを使わない。
だからソンホーさんはいつも窯の火にギリギリまで近づいて、顔で温度を測っていた。
手よりも、頭に近いところで測った方がいいらしい。
試しにやってみたけど、全然わからなかった。
感覚は300年の魔獣食のおかげで鋭いほうなのに……。
「ソンホーさん……」
「なんじゃ?」
「ソンホーさんは、火が怖いって思ったことがありますか?」
「ないな」
即答だった。
「それはどうして?」
「火には罪はないからな。火が怒る時は、人間が何かをした時だ。だから、わしは火なんかよりも、人間の方がよっぽど怖い」
ソンホーさんの言うことは、いつもなんか深い。
でも、今回は少しわかったような気がする。
「使い手次第ってことですか?」
「そうじゃ。お前さんがよく使うスライムだってそうじゃろ? お前が食べられると知ったから、スライムは食材として屋敷の人間たちは認識できたんじゃ。すべては人間次第じゃよ」
認識か。
そうか。イメージってのは、認識と言う言葉に置きかえられるよな。
ということは、リーリスに火が怖くない……いや、怖いけど怖くないところもあるって認識させることができれば。
「そうか」
「なんじゃ、どうした小僧?」
「ありがとうございます、ソンホーさん」
「は?」
ソンホーさんには感謝だ。
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