第50話 魔法の講義
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「ルーシェル君。他にユランの剣を見ていて、気になったところはあるかな?」
フレッティさんが質問する。
僕は少し考えた後、改めて木剣を握ってみせた。
「やっぱり握りですね。ユランは力が入り過ぎていると思います」
「力を入れなければ、強く振れんだろ」
「でも、それだと手首が固まって、無駄に身体を動かさなければならないんだ。剣を振る時って、手首の運動も重要なんだよ」
僕は腕を固定したまま、手首の返しだけで木剣を扇状に振る。
「ほら。手首ってこれだけ動くんだ。それが出来れば、僕の連撃だったり、逆に連撃を防ぐ時も――――。聞いてる?」
ユランは口をあんぐり開けて、固まっていた。
あまりに間抜けな顔だったから思わず聞き返してしまう。
だが、ユランの口から漏れたのは怒りだ。
「な、なんでさっきそれを言わん! それを最初から知っていれば、先ほどの戦い。我の勝ちだっただろうに!!」
ぎゃ、逆ギレ……??
折角、教えてるのに。怒りたいのはこっちの方だよ。
しかし、ユランは「がるるる」と番犬みたいに牙と目くじらを立てる。竜なのに……。
その僕とユランのやりとりを聞いていたフレッティさんは、胸を押さえて笑った。
「君たちは本当に面白いな」
「面白い?」
「我は何も面白くないぞ」
ユランは僕だけじゃなくて、フレッティさんにまで噛みつく。
すると、フレッティさんは僕の肩を叩いた。
「今の教え方は良かったよ。横で聞いていて、私も感心した」
「あ、ありがとうございます」
いきなり褒められてしまった。
でも、本当にあれで良かったのかな。
「ユラン殿もよく理解できたからこそ怒ってるんだよ」
「ああ……。そういうことか」
未だ番竜のごとく、僕を睨んでくるユランの方を見る。
「教え方というのはね。教師によっても千差万別だし、生徒によっても受け取り方が違う。まあ、そのすべてに対応するのは難しいけど、君たちの場合身体能力が高いから、実戦形式を通して学んだ方が良さそうだね」
実戦形式か……。
それってつまり、またユランと模擬戦をやるってことだよね。
まあ、フレッティさんやリーリスに本気のユランを相手させるわけにはいかないし、仕方ないけど……。
「…………」
チラッとユランを見つめる。
「ん? どうした、ルーシェル……」
ユランは半目で睨む。
片方の牙が鈍く光っていた。
いくらホワイトドラゴンだからって、今のユランは女の子なんだよね。
最初見た時は如何にも粗野な女の子だったけど、リーリスの服を借りてから俄然女の子みが増したという、らしくなったというか。
あと、あまり模擬戦をやってる時は考えないようにしていたけど、その……ユランが大きく跳ねた時とか、くるりと切り返した時とかスカートの中が見えてたんだよね。
ああ……。なんか思い出したら、顔が熱くなってきた。
今度リーリスと相談して、中身が見えない服にしてもらおう。
「どうした、ルーシェル。なんだか顔が赤いようだが?」
そのユランが僕の顔を覗き込んでくる。
それから次の講義が始まるまで、僕はユランの顔を見ることができなかった。
◆◇◆◇◆
本日ラストは、リチル先生による魔法の講義だ。
普段眼鏡をかけていないリチルさんだけど、講義の時だけは何故かかけてくる。
これが教師の正装なのだというけど、僕には理解できなかった。
ちなみに視力は良くて、遠くの山の上を走る狼の姿が見えるぐらいらしい。言っちゃあ悪いけど、獣並みだ。
「じゃあ、今日は火属性の魔法をやるわね。じゃあ、ルーシェル君お願いできるかしら」
「はい」
僕は進み出る。
ちなみにこの授業は僕とリーリスが受ける。
ユランは見学だ。
その理由を尋ねると……。
「お前らは馬鹿か? 我はホワイトドラゴン。神獣――神の獣ぞ。その我が人間の外法を覚えるわけにはいかぬだろう」
魔法そのものが嫌いな様子だ。
そのユランは朝からの講義に疲れたのか。芝生にごろんと寝転がると、そのまま寝てしまった。
お臍が出しっ放しだ。さらにポリポリとそのお臍を掻いている。
自由奔放……。本人の顔も幸せそうだ。
ユランの場合、剣術とか以前に淑女としてのマナーを教える必要がありそうだな。
そのユランを薄い毛布で包むと、ミルディさんが部屋まで運んでいった。
そういう訳で、今回の授業は僕とリーリスだけだ。
「じゃあ、改めてお願いね、ルーシェル君」
「は、はい……」
僕は気持ちを切り替えて、集中する。
片手を掲げ、手の先に魔力を集めた。
【火球】
その瞬間、巨大な大火の塊が空へと昇っていく。
浮かんでいた雲を食い破り、そのまま彼方へと消えてしまった。
「どうでしょうか?」
僕は振り返った。
リチルさんは呆気に取られた後、頭を掻いた。
「相変わらず凄いわね。無詠唱で、初級の【火球】があの威力なんて」
褒められてしまった。
どうしよう。一応威力を絞ったつもりなんだけど。
初日とか本気でやったら、大変なことになってしまったからね。
うん。あの件は、もう忘れよう。
「ありがとう、ルーシェル君。じゃあ、次はリーリス様お願いします」
「はい」
リーリスは両手を構える。
目をつむり、深い集中状態に入った。
僕は喉を鳴らす。
何だか人の魔法を使うところを見る方が緊張するな。
「火の精霊よ。我が手に宿りて、その力を明かせ!」
綺麗な呪唱が響いた。
呪唱魔法の方には疎い僕だけど、リーリスの呪唱はとても耳触りがよくて心地よい。
初級の火属性魔法は、大気中にいる目に見えない小さな精霊を自分が使う魔力と融合し、発露する。
精霊との契約を伴わない魔法だ。
だから、誰でも使うことができるんだけど……。
すると、リーリスの前に炎が浮かんだ。
それはとても小さい炎だけど、初級の魔法というのはこれぐらいなものらしい。
自分で言うのもなんだけど、僕のが異常なだけらしい。
「いいですよ、リーリスお嬢様。そのままそのまま……」
「くっ……。うう……」
リーリスはとても辛そうな顔を浮かべている。
大丈夫かな。
その時だった。
突然、リーリスが解放した炎が大きく爆ぜた。
「キャッ!」
それは小さなゆらぎ程度だったけど、リーリスは驚いて、集中が切れてしまう。
蝋燭の火を吹き消すように魔法の炎も消えてしまった。
「うまくいったと思ったのですが……」
「ごめんなさい。私、どうしても火属性が苦手で」
そうなのだ。
リーリスは他の属性に関しては一通りうまくできるみたいだけど、火だけは苦手らしい。
「リーリス様、落ち込まないで下さい。火属性が苦手という子どもは結構いますから。根気よく頑張りましょう」
リチルさんは鼓舞する。
けれど、その後もリーリスは火属性の魔法を使う事はできず、魔法の講義は終わってしまった。
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