表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/273

第4話 タンステーキ(前編)

ハイファンタジー19位まで上がってきました。

応援いただいた方ありがとうございます。

 そして10年の月日が流れていた。


 俺も(ヽヽ)16歳だ。普通にトリスタン家で過ごしていれば、今頃成人の儀を迎えて、戦装束に身を包んでいた頃だろう。


 でも、俺は未だに山にいる。


「せぇやぁぁあああああ!!」


 自分で鍛え上げた鋼の剣を振るう。


 大きく突き出たトロルの土手っ腹を切り裂いた。


 魔物の体液が飛び散るが、まだ浅い。


 トロルは体勢を崩し、後方に傾くもまだ生きていた。


「まだだ!」


 俺はさらに1歩前に出る。


 10年前と比べても、俺は大きくなったと思う。


 鋼線を絞り込んだような頑丈で瞬発力に長けた肉体。少しずつだが体つきも、そして顔つきも父上に似てきた気がする。


 そんな俺の前にいるのは、見上げるほどのトロルだ。


 11年前――。


 山に追放された時に、大きな鹿をバリバリと食べて、暴れ回っていた魔獣である。


 後になって知ったことだが、このトロルは辺り一帯の魔獣の王らしい。我が物顔で山を闊歩し、他人の獲物を横取りする姿を、俺は何度も目撃している。


 だが、それも終わりだ。


 トロルには今日で玉座から下りてもらう。


「ここだ!!」


 トロルの喉に、俺の剣が差し込まれる。トロルの瞳がぐるりと白目を向いた。


 普通ならこれで絶命し、魔獣は結晶化するだろう。


 けれど、トロルは結晶化しなかった。そのまま背中から地面に倒れる。残ったのは、空気を揺るがす音だけだった。


「よし! トロルに勝った!! トロルに勝ったぞ!!」


 魔獣たちに知らしめるように勝利宣言が、広い山の中にこだまする。


 俺はしばしトロルの腹の上で小躍りした。


 10年間、山のトロルを倒すのを目標に、様々な魔獣を倒して、研究し、そして食べてきた(ヽヽヽヽヽ)


 色々試した結果、やはり魔獣を食べると身体能力が上昇する効果があるらしい。種類によって食べただけで、何十年と鍛えてようやくその高みに立てるといった【スキル】を、一瞬で習得してしまう食材まであった。


 その効果の出方は様々で、1度食べたら2度と上昇しないものであったり、上昇効果が少ないものでも、食べ続ければ効果が出たり、あるいは瞬間的に上昇する食材も存在する。


 身体能力だけじゃない。


 スライムのように身体の機能を回復させたり、熱や冷気に強くなる効果の出る食材まであった。


 さらには……。


「早速、食べてみるか?」


 俺は手を掲げる。


 すると、炎の球が手から飛び出した。


 用意していた薪に火を付けると、焚き火が勢いよく燃え上がる。


 今のは【炎弾(ファイア・ブリッド)】だ。


 見ての通り、食べたら魔法が使えてしまう魔獣まで存在した。


 これはピクシーキッドを食べて得た魔法だ。


 さすがに身体を食べようと思わなかったが、頭の角を試しに蒸かしてみたら、筍みたいな食感と、旨みがあってなかなか美味だった。


 この魔法はかなり重宝していて、助かっている。


 この火と、熱耐性がなければ、今持っている鋼の剣を鍛え上げることも叶わなかっただろう。


 他にも魔獣についてわかったことがある。


 例えば、魔獣には仮死状態――つまり魔石化しない急所があるということだ。


 種類によって、部位は様々だが、トロルのような人型だと概ね首骨の後ろ側に存在する。


 どうやら脳と魔石の間には、魔力を受け渡すような細い管があるらしく、その受け渡しの流れが悪くなると、魔石化してしまうらしい。


 その管を傷付けず、魔獣を仮死状態、あるいは麻痺状態にすれば、未晶化することがわかったのだ。


 勿論、その管は無数に存在し、それを切らずに魔獣を傷付けるのは難しい。ほとんど不可能と言ってもいいだろう。


 けれど、俺にはクラウンアイズという大きな目玉が付いた魔獣から得た効果がある。


 【透視】だ。


 これで魔石へと伸びる管を判別し、攻撃が可能となった。


 身体の構造を理解するのに少し時間がかかるが、この能力によって俺はあらゆる魔獣の弱点を見つけることに成功していた。


 同じ種族であれば、管の位置は変わらない。


 おそらく【透視】がなくても、指導すれば誰でも未晶化を実現することは可能だ。


 ……ちょっと難しいけどな。


「あっ! 忘れないうちに……」


 仮死状態になったトロルに振り返る。


 色々と試してわかったことだけど、総じて人型はあまりおいしくない。トロルのこの柔らかそうなお腹も、質の良くない脂が詰まっているはずだ。


 着火剤ぐらいなら使えるかもしれないけど、今の俺には無用の長物でしかない。


 トロルで食べられる箇所は1つだ。


 (たん)である。


 人型の魔獣の中には、大きな舌を持っている種類が多い。


 人間と違って冷めにくい身体をしているらしく、そのため長い舌が冷却器になっているらしい。


 トロルにとって失えば死活問題になる舌だが、これがなかなか珍味だ。


 身は締まっているのに柔らかく、コリコリとした歯応えは、まさに絶品。


 タンといえば、やはり焼肉だけど、今日はステーキにしてみることにした。


 折角大きなタン元が取れたのだ。


 ちょっと大胆に厚切りにして、ステーキで食べることにしよう。


この後、もう1話上げる予定です。

お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シーモア限定で6月30日配信開始です!
↓※タイトルをクリックすると、シーモア公式に飛びます↓
『宮廷鍵師、【時間停止】と【分子分解】の能力を隠していたら追放される~封印していた魔王が暴れ出したみたいだけど、S級冒険者とダンジョン制覇するのでもう遅いです~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


コミカライズ10巻5月9日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる10』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス9巻 5月15日発売!
70万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新小説! グラストNOVELS様より第1巻が4月25日発売!
↓※表紙をクリックすると、公式に飛びます↓
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』書籍1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シリーズ大重版中! 第6巻が3月18日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本6巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




3月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本3巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
追放王子、ハズレギフト【料理】を極める~最強のもふもふ国家で料理番を始めます。故郷の国が大変らしいのですが、僕は「役立たず」だったので関係ないよね~



『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


<『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[気になる点] 僕が俺になるとすぐ読まないようにしています。 一人で生活してきているのにどうして俺になるのかがわかりません。 お疲れ様でした。
[気になる点] 6歳までにタンの焼肉を食べていたのか…さすがトリスタン家…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ