第45話 未来の料理人
☆☆☆ 月間総合1位 ☆☆☆
ついに達成しました!!!!! 初めてなので、めちゃくちゃ嬉しいです!
改めて、ブックマークと評価をいただいた皆様に感謝を申し上げます。
ありがとうございます。
如何にも歯応えがありそうな外の焼き目。
しかし、カットすると現れたのは、紅玉のような赤い肉身だった。
脂はのり、夕飯時はもうとっくに過ぎたのに、月の光だけで光り輝いている。
「美しい……」
「綺麗……」
「宝石みたいです」
「ほう……」
皿に載ったマウンテンオークスの熟成肉のステーキを見て、クラヴィスさんたちは目を輝かせた。
「早速、食べていただけますか? えっと……」
振り返ると、テーブルと真っ白なクロス、さらに燭台までが置かれていた。
それまで何もなかった中庭の一角に、素敵な野外食堂が準備されていた。
テーブルの前で、ヴェンソンさんが恭しく頭を下げている。
「すでに用意は調えてございます」
「でかしたヴェンソン!」
「恐縮にございます」
早速、クラヴィスさんは席に着き、ナプキンを取った。そこにソフィーニさん、リーリス、カリムさんが続く。
僕のカットした肉の皿が、給仕さんたちの手によって目の前に置かれていた。
早速、並べられたナイフとフォークを手に、いざ実食が始まる。
「おお!」
クラヴィスさんが早速声を上げる。
「柔らかい。簡単に切れてしまったぞ」
「元がマウンテンオークスとは思えませんね」
カリムさんが切った肉の断面を、丹念に精査している。
魔獣の学者の家に生まれただけあって、気になるのだろう。
やがて2人は口に入れ、咀嚼を始めた。
「ぬおおおおおおおおおお!!」
「うぅぅぅううううううう!!」
うまい!!
親子それぞれ声を揃え、今食べたばかりの熟成肉の身のように目を輝かせている。
「おいしい!」
ソフィーニさんも驚いていた。
リーリスもちょっと抵抗があるのか、みんなの反応を見てから、勇気を出して口にする。
「…………おいしい!! こんなに柔らかくて、おいしいお肉、初めて食べました」
青い瞳が星の瞬きのように光る。
「お気に召したようで何よりです」
クラヴィスさんや、リーリスの感想を聞いて、心の中が温かくなっていくのを感じる。羽が生えたように身体が軽く感じた。
みんなが僕の料理を食べて喜んでくれている。
そう思うと、涙が出るぐらい嬉しくなった。
おいしい、という言葉を聞く度に、自分が許されているような気になる。
あの300年が無駄じゃないと思えるからだ。
感想を聞きながら、僕の方こそ「ありがとうございます」と感謝したかった。
「どうしました、フレッティ?」
カリムさんが声をかけた時、みんなの視線がフレッティさんに向かった。
ナイフとフォークを持ったまま固まっている。
皿の肉は一切手を付けられていなかった。
「フレッティさん、もしかしてお気に召しませんでしたか?」
僕が恐る恐る尋ねると、フレッティさんは全力で手と頭を振った。
「そ、そそそそそそんなことはない。今すぐにでも食べたい気持ちはある」
「じゃあ、なんで口をつけていないんだい、フレッティ」
カリムさんがたしなめる。
「……その、閣下の手前で言うのも――」
「よい。いいから申してみよ。何故、ルーシェル君の作った料理を食べない」
クラヴィスさんもジッとフレッティさんを睨む。
僕も少し不安げに見つめていると、フレッティさんは弱ったな、と1度目を伏せた後、理由を説明した。
「深い事情はありません。ルーシェル君の料理だから、魔獣の料理だからという理由でもないのです。ただ――まだ部下が山に残っているのに、私がこんな贅沢をしていいのかな、と」
なるほど。フレッティさんらしい義理堅さだ。
僕の頭の中にも、携帯食を食べながら、山でくしゃみをしているミルディさんの顔が思い浮かぶ。
「フレッティさん、大丈夫です。まだお肉はありますから。ミルディさんたちが帰ってきた時に、また作るので」
「――だ、そうよ。今日はルーシェル君の言葉に甘えなさい、フレッティ」
「お、奥方様まで…………。そうですね。据え膳食わぬは男の恥ともいいますし」
フレッティさん……。
それはなんかちょっと違うような気がしますが……。
というか、まだその言い回しって使われているんだ。
「ミルディ、リチル、あとガーナー……。すまぬ。この鼻先に漂うおいしそうな匂いには耐えられそうにない」
フレッティさんは夜空を仰いだ後に、ついに口を付けた。
「ぬふふふふふふふぅぅぅううううう!!」
うまい! 声を上げる。
そして勢いよく2切れ目を口にした。
今度はゆっくりと咀嚼し、味わう。
「肉質は柔らかいのにちゃんと歯応えもあって、満足感も素晴らしい!」
フレッティさんが絶賛すれば、カリムさんも応じた。
「うん。この肉の噛み応えから、熟成された旨みが滲み出てくる感じがたまらない。まるで旨みだけでできたジュースを飲んでるようだ」
クラヴィスさんは葡萄酒が入ったグラスを傾けながら言った。
「なんと言っても、風味が素晴らしい。年代もののワインを飲んでいるようだ。ほのかにナッツに似た風味が口の中にふわ~っと広がっていくのが溜まらぬ。こりゃ酒が止まらないぞ」
美味、と称賛し、クラヴィスさんは葡萄酒を掲げて、僕を改めて称賛してくれる。
「ルーシェル、とてもおいしいです。これならお料理屋さんを開いても、いっぱいお客さんが来るかもしれませんね」
リーリスも小さな口をモグモグさせた後、ステーキを飲み込み、僕の料理を褒めてくれる。
「料理屋か……。確かに良い案かもしれませんね」
リーリスの言葉に、フレッティさんが反応する。
しかし、カリムさんは違う考えのようだ。
「それなら、レティヴィア家の料理番になってもらうのはいかがですか?」
「カリム、それはナイスアイディアです。こんな料理なら毎日食べたいわ」
ソフィーニさんはパンと手を叩く。
見ると、皿が空になっていた。完食だ。すっかり体調が元に戻ったらしい。
「おいおい。ソフィーニまで……。お前たち、忘れたのか? ルーシェルは私たちの家族だぞ。家臣ではない」
クラヴィスさんは、みんなをたしなめる。
けれども、その時のやりとりが今後の僕の人生を大きく左右したことは間違いないことだった。
僕はそっと呟く。
「料理屋か……」








