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第43話 仲直り作戦

 僕の話を聞き終えたみんなの顔は、その……なんとも言えない顔だった。


 一言も口にせず、ただ黙っている。


 ちょっと漏れてくるのは笑い声で、苦い顔をする人もいた。


 その中でホワイトドラゴンが、首と尻尾を動かしながら、周囲の状況を窺っている。


「な、なんじゃ? そ、その反応は……」


「ほ、ホワイトドラゴン殿」


 クラヴィスさんが勇気を以て進言した。


「それが我が息子ルーシェルに対して、怒りを覚える理由なのでしょうか?」


「なに? なんか悪いのか?」


 むきぃっ! とホワイトドラゴンは目くじらを立てて、クラヴィスさんを睨む。


 しかし、さすがは公爵家の当主だ。


 激しい鼻息を躱す以外、特に竜を刺激することなく、穏やかに話しかけ続けた。


「恐れながら、それは不慮の事故であり、息子ルーシェルに咎を負わせるのは酷かと」


 うんうん、と大多数の人たちが頷く。


 納得していないのは、当人だけだった。


「イヤじゃ! 納得できん! だって、あれは我が一大決心して尻尾を斬らせたステーキなのじゃぞ。それを――――」


「で、ではまた尻尾を斬るのはいかがでしょうか? そうすれば、即座に――」


「勇者よ!!」


 ホワイトドラゴンはずいっとカリムさんに顔を寄せた。


「1つ言っておく。尻尾とはいえ、あれは我の一部だ。だからな――――」


「は、はあ……」


「死ぬほど痛いぞ」


 ホワイトドラゴンは真剣に語る。


 う、うん。……ま、まあ、そうだろうね。


「ルーシェル君、前からこんな感じなのか、ホワイトドラゴンって」


 フレッティさんはそっと僕に耳打ちする。


「はい。以来、顔も合わせてくれなくて」


「つまり、君たちは170年も喧嘩してるのか?」


 170年と一口で言うけど、ホワイトドラゴンは1万年は生きると言われている非常に長命な生き物だ。


 人間にとっての170年はかなり長いけど、彼らからすれば昨日、一昨日ぐらいの感覚でしかない。


「でも、私からすれば、その喧嘩はとうの昔に終わっていると思うがな」


「え? どういうことですか?」


 僕は瞼を瞬く。


「少し私に任せてくれないか」


「は、はあ……」


 そう言って、フレッティさんはホワイトドラゴンの前に進み出た。


「なんじゃ、騎士よ」


 ホワイトドラゴンはくるりと首を動かし、鼻息を浴びせた。


「今、話していたんだが、ルーシェル君がお詫びとして、ホワイトドラゴンに別の料理を振る舞いたいそうだ」


「え? 僕は――――」


「はい。そこまで……」


 カリムさんは優しく僕の口を塞ぐ。


「フレッティには何か考えがあるようだ。ちょっと見守ろうじゃないか」


 耳元で囁く。僕は黙って頷いた。


 その間も、フレッティさんとホワイトドラゴンの会話は続く。


「ふ、ふん。料理で釣っても、わしは許さないからな」


「そうか。それは残念だ。じゃあ、我々だけで食べさせてもらおうか」


「はあ!! お前、何を言っておるのだ!?」


「何か問題でもあるか? 実は我々は腹ぺこでね。何かお腹に入れないと、今にも倒れそうなんだ」


 フレッティさん曰く、山の中腹で携帯食を食べてから、今の今まで水以外何も入れてないらしい。


「あなたとルーシェル君の話を聞いてから、ずっとステーキが食いたいと思っていたんだ。ドラゴンほどじゃないにしても、それに負けないステーキはないかな、ルーシェル君」


 くるり、と僕の方に翻る。


 フレッティさんは軽くウィンクして、僕に合図した。


 まだフレッティさんの意図はわからないけど、とりあえず今は従おう。


「持ってきている食材は限られています。魔獣でもいいですか?」


「ああ。構わないよ」


 なら、とっておきのものがある。


 ドラゴンステーキに負けない、いやそれ以上のお肉が僕の魔法袋の中に熟成されて(ヽヽヽヽヽ)いた(ヽヽ)


 袋の中から取りだしたのは、ブロック状のステーキだ。


 ただし――――。


「これは……」

「まあ……」

「おやおや」

「おいおい。ルーシェル君、この肉は……」


 みなさんが驚くのも無理はないだろう。


 目の前に掲げた肉は、鼠色がかっていて、とても肉の色をしていない。


 むしろ明らかにカビのようなものが生えていた。


「その肉、もしや――――」


 特に住み処に帰る素振りもなく、レディヴィア家の中庭に残っていたホワイトドラゴンが口を開く。


 どうやら、この肉の正体がわかったらしい。


「これはマウンテンオークスと言われる魔獣の肉です」


「「「「ま、マウンテンオークス!!」」」」


 叫声が響き渡った。


 クラヴィスさんが顎に手を当てながら、肉をしげしげと眺める。


「マウンテンオークスといえば、魔獣生態調査機関(ギルド)のトップランクにある魔獣ではないか」


「名前の通り、山のように大きな魔獣だと聞きますが」


「一応訊くが、君がやったのか?」


 フレッティさんは口の端を引きつらせ、笑っていた。


「はい。と言っても、50年前ですけどね」


「ご、50年!!」


「これ? 50年前のお肉ってことですか?」


 リーリスも信じられないとばかりに、大きく瞳を開いた。


「50年前の肉なんて食べられるのか?」


「いや、そもそもマウンテンオークスの身体はほとんど硬い岩石だ。ガチガチで食べられないのではないか?」


「では、誰かお肉を触ってみて下さい」


 僕が促すと、代表してフレッティさんが進み出た。


 表面にカビが生えた肉に、そっと指先を押し込む。


「――――!!」


 何かを感じ取ったのか、フレッティさんはすぐに指を引っ込めた。


 自分の指を見た後、お肉の方を確認する。


 信じられないと、表情が語っていた。


「柔らかい……。そして弾力性もある。肉だ、普通のお肉です」


「なんと!」


 クラヴィスさんもお肉を触る。


「確かに肉の弾力だ。しかも、高級な――――アンダス牛のような」


「ルーシェル君、これは?」


「確かにマウンテンオークスのお肉は、普通では食べられません。岩のように硬いですから。でも、長い時間寝かせることによって、このように柔らかくなるんです」


「なるほど。熟成肉か」


 クラヴィスさんは息を吐く。


 熟成肉というのは一定期間低温で保存した肉のことで、肉の質感や味の変化を楽しむお肉のことだ。


 300年前にあった技術で、時折トリスタン家の食卓にも並んでいた。


 僕は料理長から聞いた話を覚えていて、マウンテンオークスを熟成させるのに転用したというわけだ。


「熟成肉は肉の性質ががらりと変わるものだが、まさか岩のように硬い肉が50年を経て、柔らかくなるとは」


「しかし、どうやって低温保存したんだい?」


「カリムの言う通りだ。あれは湿度にも気を遣うと聞くぞ」


 公爵家の当主の跡取りだけあって、博識のようだ。


「魔法袋の中は常に薬草などが腐らないように低温で保たれています。湿度は肉の周りにスガキという木の皮を巻いて、湿度を一定に……」


「ほう。スガキか。建材にも使われる木だな。確かに、あれならば長期間湿度を一定に保つことができるだろう」


 と言ったのは、ホワイトドラゴンだった。


 どうやらずっと僕の話に聞き耳を立てていたようだ。


 僕とみなさんの視線に気付くと、ホワイトドラゴンは慌てて目を背けた。


「ふ、ふん。別に大したことではないのぅ」


 そっぽを向く。


 段々だけど、フレッティさんの作戦がわかってきたような気がする。


「あ、あの……ルーシェル。このカビの部分も食べるのですか?」


 リーリスが不安そうな顔を浮かべながら、肉を指差した。


 さすがにカビが生えた肉を食べるのは抵抗があるだろう。


「大丈夫だよ、リーリス。カビのところは全部トリミングして中のお肉を食べるから」


 といっても、このカビこそがマウンテンオークスの硬い肉を柔らかくした張本人なんだけどね。マウンテンオークスの表皮だけに現れるカビで、かなり珍しいはずだ。


 でも、まさか魔獣のお肉を熟成肉の要領で長期乾燥させたら、柔らかくなるなんて、僕も驚いたよ。


「初め見た時は驚いたが、これは楽しみになってきたな」


「何せ50年ですからね。どれほどの旨みをため込んでいるやら」


 クラヴィスさんは思わず舌で唇を舐める。


 熟成肉の味を知る人ほど、マウンテンオークスの肉は楽しみなはずだ。


「じゃあ、早速トリミングして、焼いてみますね」


 こうして、僕とホワイトドラゴンの仲直り作戦は開始されたのだった。


匂う……。匂うぞ、飯テロの匂いが……。

「面白い」「早く食わせろ」と思った方は、

是非ブックマークと、下欄にある☆☆☆☆☆をタップして評価の方をよろしくお願いします。

「もうしたよー」という方は、昨日発売された『アラフォー冒険者、伝説となる』のコミックスを是非お買い上げ下さい。よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] これ、みんなに食べさせるんかな?妙に強くなったりしないか?
[良い点] アンダス牛(笑) …嫌いじゃない(笑)
[一言] ワインかよ ☆\(゜ロ゜ )
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