第39話 竜の怒り
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騎士団の歓喜は長くは続かなかった。
皆が肩を組んで抱き合う中、彼の竜は起き上がる。
「騒がしいのぅ……」
何事もなかったかのように、ホワイトドラゴンは立ち上がる。
その絶望的な光景に、歓喜に沸いていた騎士団たちは言葉を失う。
「そ、そんな……」
「あれで生きているのか……」
フレッティはおろか、カリムですら立ち上がった竜から目を背けることができない。
皆が絶句する中で、1人――いや、1匹飄々としていたのはホワイトドラゴンだった。
目の横をポリポリと爪で掻きつつ、ホワイトドラゴンは口を開く。
「あー。まー。そんな顔をするな、人間。決着は着いた。我の負けだ」
「え?」
「今、負けを認めると」
「そう言ったよね?」
「本気と受け取りますよ、竜よ」
カリムは確認を取ろうとするが、ホワイトドラゴンはいやいやと首を振る。
「竜に二言はない。……それともそなたら、まだ我とやり合いたいか?」
そう問われて、勇ましく手を上げる者はいない。
【風の勇者】と呼ばれるカリムですら、こりごりとばかりに肩を竦めた。
「そなたらは十分わしに力を見せた。もう十分だろう。特にそこの騎士――」
ギロリとホワイトドラゴンは、フレッティを睨む。
「最後の一撃は効いたわい。良い攻撃だった」
「あ、ありがとうございます 」
フレッティは思わず直立し、深々と頭を下げた。
「それと【勇者】よ。お前はまだ心の修練が必要だな。何を恐れているか知らぬが、もっと自分に自信を持つのだな」
ホワイトドラゴンを最も苦しめたカリムに、説教を食らわせる。
カリムは少し驚いた後、軽く肩を竦めた。
「ご忠告感謝申し上げます」
竜に戦意がないことを悟ると、鞘に収めた。
「じゃあ、俺たち……」
「本当に勝ったのか?」
「終わり……」
「……みたい、だな?」
騎士たちは戸惑いながら、2度目の歓声を上げる。
1度倒したと思った竜が再び身体を起こして復活したかと思えば、敗北を認めたのである。
目が点になるのも無理はないことだった。
「すまない、ホワイトドラゴン。試練とはいえ、あなたをそのような身体に」
フレッティはホワイトドラゴンの巨躯を見つめる。
無数の傷に加えて、激しい爆発を浴びて白い鱗が煤け、さらに自身の血によって緑色に染まっている。
それでもホワイトドラゴンはケロッとしていた。
「気遣いは無用だ」
突如、ホワイトドラゴンの鱗が光り始めると、みるみる傷口が塞がっていった。
10秒とかからず、再び真っ白な姿を取り戻してしまう。
これにはフレッティも感嘆の息を漏らした。
「あなたを真に倒そうとするなら、私の命がいくつあっても足りなさそうだ」
「がははははは!! これでも神の獣と呼ばれる眷属でな。人間如きに、そう易々と我の首を取れぬよ」
ホワイトドラゴンは豪快に笑う。
「その割には、尻尾の古傷が治っていないようですが……」
カリムが目敏く、古傷と思われる尻尾の傷を指差した。
「ああ。それはのぅ。ちと特殊な切られ方をしての」
「特殊?」
「詮索はせんでくれ。思い出すだけで腹が立つわい。それよりもわしのことよりも、そなたらの方がボロボロではないか。特にそこのお主は立っているのもやっとじゃろ」
ホワイトドラゴンはわざわざフレッティを指差して、慮る。
そのフレッティは微笑んだ。
「こちらもお気遣い無用です。竜と戦って負った傷なら、名誉の負傷――――ぐっ!!」
フレッティは突然、蹲った。
どうやら肋骨を何本かやってしまったらしい。
ついに膝を突き、倒れそうになる。
「団長!!」
リチルが倒れそうになったフレッティを支える。
その時、フレッティの懐から何かがぽろりと落ちた。
それは1枚の大葉だ。クルクルと丸められたものが弾みで開くと、中からぬっと少年の姿が表す。
『あれ? フレッティさん? まだ何かあるんですか? ホワイトドラゴンは見つかったと思った――――』
憑依草に取り憑いたルーシェル。
そしてホワイトドラゴン……。
目と目が合う。
両者は数度瞬きした後――――。
『「あああああああああああああ!!」』
声を響かせる。
いち早く気付いたリチルは慌てて、憑依草を巻き取る。何事もなかったように腰に差した道具袋にしまった。
「…………!」
ホワイトドラゴンは沈黙したままだ。
竜とはいえ、表情だけ見ればわかる。明らかに抱えている感情が変わっていた。噴火前の火山を思わせるほど、不気味な唸りが響く。
「これはヤバいですね」
「い、一体ルーシェル君とホワイトドラゴンに何が……」
「ともかく一旦退かない?」
「…………」
「いや、奥方様の呪いを解いてもらわないと。そのためにわたしたちはここまで来たんですから」
リチルは口を挟むのだが、とても言い出せるような雰囲気ではなかった。
カリムを含めた騎士団はひそひそと密談していると、ついにホワイトドラゴンは口を開く。
「お前たち、あの小僧を知っておるのか?」
「あ、ああ……」
「だ、団長! 認めてどうするんですか?」
頷いたフレッティを見て、ミルディは驚く。
「ここに来て知らぬ存ぜぬは難しいだろう。下手に嘘を吐くより、真実を話した方が」
「はあ……。団長らしいと言えば、団長らしいけど……」
ミルディは肩を落とす。
しかし、フレッティの信念とは裏腹にホワイトドラゴンの機嫌は、明らかに下降線を辿っていた。
ゴゴゴゴ……と謎の喉なりを鳴らしながら、ホワイトドラゴンは1つ頷く。
「なるほど。そなたらが我に対抗できたのは、あやつの悪知恵か」
「わ、悪知恵??」
「ホワイトドラゴンよ。あなたとルーシェル君の間に何があったというのだ?」
「あやつと我か……。あやつはな……。あやつはな!!」
我の尻尾を切って、食べようとしたのだ!!
…………。
「「「「ええええええええええ!!」」」」
叫声が響き渡る。
「ど、ドラゴンの尻尾を……」
「切って……」
「た、食べ??」
「あわわわわ……」
「…………!」
カリムと騎士団たちは驚く。
怒りが収まらないのはホワイトドラゴンの方だった。
ついにそれまで隠していた戦意が、再び盛り上がる。
「続行じゃ!」
「はっ!?」
「こうなったら、お主たちにはとことん付き合ってもらうからな!」
「付き合うって――――」
その瞬間、ホワイトドラゴンはブレスを放った。
熱戦によって溶けかけていた銀世界が蘇る。
本当にホワイトドラゴンはやる気らしい。
「こうなったらやるしか――――」
「いや、一旦退避した方がいいでしょう」
「はん! 逃がすか!!」
ホワイトドラゴンはブレスを撃ちまくる。吹雪が積もりに積もり、大きな雪の壁がぐるりと騎士団を取り囲んだ。
「退路が!」
「魔導兵! 雪を魔法で溶かすんだ!!」
「いや、その時間はなさそうですよ」
カリムは一滴の汗を流し、ホワイトドラゴンの方を見て言った。
件の竜がその時光り輝く。
特に竜の口内は、太陽を飲み込んだように光っていた。
「今までとは違う力を感じますね」
「まだ力を温存していたのか」
カリムとフレッティは息を飲む。
おそらく受ければ、一巻の終わりだ。本当に騎士団が全滅してしまうかもしれない。
「カリム様、団員を連れてお逃げ下さい」
「どこへ逃げようというんだい? 大丈夫? 僕が力を解放すれば……」
「いけません! あの時のように――――お命にかかわります」
「この状況もさして変わらないさ」
「ならば、私が――――」
2人は口論するが、はたと止めてしまう。
どこからか歌が聞こえてきたのだ。
ここまでお読みになったという方は、相当このお話が好きなんだとお見受けします。
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