第38話 風の勇者
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◆◇◆◇ 騎士 side ◇◆◇◆
ホワイトドラゴンと戦い始めて、2時間が経とうとしていた。
いくら精鋭に人数を絞ってきたとはいえ、団員たちの疲労は濃い。
防御の薄い遊撃隊は動き回り、重装騎士たちは竜の攻撃を防ぎ続け、魔導士たちは援護と防御魔法をかけ続けている。
加えて、山を登ってきて、休憩する間もなく、戦闘に突入。
疲れていないわけがないのだ。
すでに陽は落ち、空には星が瞬いている。それでも戦闘は続けられ、月明かりの下で騎士達は動き回っていた。
旗色は悪いものの、ここまで竜――いや、ホワイトドラゴンに対抗できているのは、間違いなくルーシェルの料理のおかげだろう。
もし食べていなければ、今頃騎士団は最初の【白銀の息吹】で全滅していたはずである。
「ぐっ!」
唸りを上げたのは、フレッティだった。
一旦ホワイトドラゴンから距離を取る。致命傷こそないが、鎧はもうボロボロだ。手甲の辺りが黒くなっている。
これはフレイムタンの炎のせいだ。
燃えさかる魔剣の炎は繰り手に対しても、決して無害ではない。そもそも魔剣は握っているだけで魔力を吸い上げられていく。
本来魔剣士でもないフレッティが、長時間フレイムタンを振るえているのも、元々持っている魔力量が大幅にアップしたおかげだ。
誰の仕業か、もはや語るまでもない。
だが、疲労は別だ。いくら生死の境にある戦場とはいえ2時間も戦い続けていれば、さすがのフレッティも息が上がる。
「フレッティ、少し休んでいなさい」
声をかけたのは、共に正面で戦っていたカリムだった。
「いえ。まだまだ……」
フレッティは前のめりになるが、逆に膝を突いてしまった。
身体が動くことを拒否している。フレイムタンから燃え上がっていた炎も、力なく消えてしまった。
「ずっととは言いません。ほんの少しでいいのです。それに父上との約束をもう忘れたのですか?」
フレッティはハッと気付く。自分が握る魔剣を今一度確認した。
ホワイトドラゴンに勝つだけではダメなのだ。自分が生きて帰ってこなければ、意味がない。
「……わかり…………、ました」
フレッティは無念そうに呟く。
「と言っても、もう出番はないかもしれないけどね」
「え?」
そしてホワイトドラゴンに走って行くカリムを見送った。
ふわりと風がフレッティの頬を撫でる。それは【風の勇者】と呼ばれるカリムが起こしたものだったが、何故かエールを送られているような気がした。
それはフレッティだけが感じたわけではない。
戦場にいる全員が、何か背中を撫でられたような感じがした。
自然とみんなの視線がカリムの方を向く。
それはホワイトドラゴンも例外ではなかった。
「ぬっ?」
「行くよ、ドラゴン……」
カリムの足裏から頭の先に向かって、風が昇る。
金髪を乱したカリムを中心にして、暴風が渦を巻いた。
その強烈な風に、騎士団たちは戦く。
「本領発揮と言ったところか、勇者よ」
「ええ……。そろそろ決着を着けさせてもらいます、ホワイトドラゴン」
「望むところだ」
2時間戦い続けても、ホワイトドラゴンの戦意が高いままだ。
しかし、さすがに無傷とまでいかなかった。
最初白亜の石像を思わせるようなホワイトドラゴンの皮膚は、今は無数の傷と血にまみれている。
翼は破れたことによって飛行能力が低下し、空に逃げるにしても飛び立つのに時間がかかるらしく、もはや飛ぶ仕草すらせずに地上で応戦を続けていた。
それでもタフであることに代わりはない。
「くらえ!!」
先に仕掛けたのはホワイトドラゴンの方だ。
カッと口を開けて、吹雪を吐き出す。
直線上に放たれた吹雪をカリムは回避し、距離を詰めていった。お腹に取り付こうと跳躍する。
その時、彼を襲ったのは竜の爪だ。
纏わり付く蠅をはたき落とすように振るう。
しかし、カリムはこれも躱してしまった。
風を操作し、まるで何か引っ張られるように高速で動き、あっという間に竜の後ろを取る。
まさに一陣の風の如き、動きだった。
「ちょこざいな!!」
ホワイトドラゴンの目尻が吊り上がる。
鼻息を荒くすると、今度は大きな尻尾で背後のカリムに応戦した。
それもひらりと躱す。
カリムは大きく剣をかかげると、暴風を纏った剣をホワイトドラゴンに振り下ろした。
剣はホワイトドラゴンの鱗を弾き飛ばし、中の肉を抉る。大量の血液が吹き出し、それすらも風に飛ばされた。
「痛でででででででででで!!」
ホワイトドラゴンは悲鳴を上げながら仰け反った。
倒れるかと思われたが、ホワイトドラゴンは目くじらを立てながら、カリムを追撃する。
一撃を貰えば絶命は必至。
だがカリムはホワイトドラゴンの攻撃をひらりと躱していく。
「あの尻尾……」
そのカリムが着目したのは、ホワイトドラゴンの尻尾だった。
先の方が少し変色している。何か古傷のような痕に見えた。
「そこが弱点と見ました!!」
カリムは風の刃を発生させる。
高速で撃ち出されたそれは、ホワイトドラゴンの尻尾が変色している部分を狙った。
だが、寸前で躱される。
「お前、どこを狙っておるのだぁ!!」
ホワイトドラゴンは腕を上げて抗議する。
やはり何かあるらしい。
カリムはさらに攻撃を追加していった。
「すごい……」
カリムの戦いを見つめていたミルディが呟く。
その目に映ったのは空を飛び回るカリムである。緑色の血に濡れたホワイトドラゴンを翻弄していた。
その様は悪竜を裁きに地上に降臨した天使のようだ。
しかし、蝶のように舞い、蜂のように刺す戦い方はいつまでも続かない。
「おっと……」
カリムの周りを覆っていた風の加護が消える。すとんと釣瓶が落ちるようにカリムは地上へと落ちていった。
「ぐはははは!! 調子に乗ったな、勇者!! 自分の魔力量を省みず、風の魔法を連発するからだ」
ニヤリと笑ったホワイトドラゴンの指摘はもっともだった。
ホワイトドラゴンの鱗を削った大技。
さらに人一人を持ち上げるほどの風を発生させ、巧みに操作する際も、もちろん魔力が必要になる。
軽やかな動きに目が行きがちだが、使用する魔力量はかなりのものなのだ。
「フッ……」
落下する最中、カリムはホワイトドラゴンと同様に笑った。
「別に魔力が空になったわけではありませんよ。こうやって魔力切れをしている振りをしていれば、あなたがこっちに注意を向けてくれると思っただけです」
「なにぃ??」
一瞬ホワイトドラゴンは首を傾げたが、さほど時間を置かず、カリムが言った言葉の意味を知ることになる。
ごぅお……。
夜の帳は落ちた頃だというのに、忘れ物をした太陽がもどってきたのではないかと思った。突如、紅蓮の光が戦場に差し込んだのだ。
振り返ったホワイトドラゴンの目に映っていたのは、フレイムタンを握りしめたフレッティの姿だった。
「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」
極大の炎を掲げて、ホワイトドラゴンに突撃する。
渾身の一撃を、ミルディが爆弾で削り、リチル率いる魔導士達がさらに抉り、カリムが風の剣を振るった背中の傷に向けて、振り下ろした。
ホワイトドラゴンの傷口に、斬撃と炎が一緒くたになって襲いかかる。
「ギャアアアアアアアアアアアア!!」
これこそが竜の断末魔の悲鳴か。
そう思えるような決定的な叫びが、山の峰に轟いた。
瞬間、赤黒く濁っていた竜の目から生気が失われると、そのまま「て」の字のように身体を曲げて倒れた。
どぅ、という轟音の直後、周囲に走ったのは沈黙だ。
騎士たちは倒れた竜を食い入るように見つめる。
今にも騎士や魔導士達の荒い息づかい、早鐘のようになる心臓の音が聞こえてきそうだった。
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
叫んだのは、フレッティだった。
背筋を反り、胸を張って空に浮かぶ月まで届かんばかりの声で、雄叫びを上げる。
その瞬間になって騎士団員たちは勝利を実感した。
フレッティに追随するように叫ぶのだった。
この話って、意外とフレッティさんの成長譚でもあるんですよね~。
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