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第37話 開戦

七夕ですね。

作者もこの作品が書籍化できることを祈ります。

 ◆◇◆◇ 続 騎士団 side ◇◆◇◆



 ホワイトドラゴンの首が下がる。


 翼を地面と水平に伸ばし、大きな身体を縮めるように屈む。


 竜種に見られる警戒のポーズだ。


「何をしにきた、人間!!」


 もはや交戦は避けられない様子だった。


 カリムはフレッティに指示を出す。


 騎士団員たちは茂みの中から現れた。山を登ってきた時の疲れは、今は感じない。しかし、それぞれの得物を握る手は震えていた。


 さしもの屈強なレティヴィア騎士団も、これほど大きな竜と対峙するのは、初めてだったからである。


 それでも誰1人として逃亡する者がいなかったのは、騎士団の統率と主君に対して強い忠誠心があるからだろう。


「なんだ? 様子を見る限り、我とやろうというのか?」


 ホワイトドラゴンは笑った。剥き出した牙は、硬い岩すら容易に破砕できそうだ。


 少数とはいえ、精鋭揃いの騎士団。


 それを前にしても、喋るドラゴンには余裕が感じられた。


 その前に1人出たのはカリムだ。そのすぐ後ろにはフレッティが控える。マントに隠れた手は、レティヴィア家の家宝『フレイムタン』の柄に置かれていた。


「竜よ。我々はそなたに竜の呪いを解いてほしくてやってきた」


「ほう……。そのために何が必要かわかっておるようだな」


 竜の口端が広がり、愉快げに笑う。


 ルーシェルから聞いていた通り、好戦的な性格のようだが、竜の割に人間っぽい性格だなと、カリムは分析する。


 これが神に仕えると謳われるホワイトドラゴンとは思えないほどにだ。


「我々の力を見せれば、我が母ソフィーニの呪いを解いてくれるのか?」


「構わん。我にとっては造作もないことだ……。さあ、そなたらの覚悟の強さを見せるがいい」


 シャアアアアアアアアアアアア!!


 竜の嘶きは山川を越え、天地に轟く。


 そのままレティヴィア家の屋敷にまで響いたのではないかと思う程に、強烈な開戦の合図だった。


 騎士たちが浮き足立つ。


「落ち着け!!」


 絶妙なタイミングで、騎士団の螺旋を絞めたのが、フレッティだった。


 その声も、ホワイトドラゴンに負けていない。


 騎士たちが落ち着きを取り戻すのを見て、フレッティは命令を飛ばした。


「作戦通りにやれば、我々は勝てる。……ミルディ!」


「はい! 団長!!」


 ミルディが直立した。


 他の騎士団たちの表情も、戦人へと変貌していく。


「お前の遊撃部隊は背後へ回り、竜の飛翔を食い止めよ。リチル率いる魔導士隊は補助魔法を中心に援護を。ガーナー率いる重装騎士隊は魔導士隊を守れ。尾っぽの攻撃に気を付けろよ」


 一通り指示を出した後で、フレッティはスラリと剣を抜く。


 赤い魔剣『フレイムタン』が、陽が陰る中で炎のように光った。


「正面は俺と、カリム様が受け持つ。おのおの――――」



 かかれっ!!!



 騎士団がホワイトドラゴンを取り囲むように陣形を取ろうとする。


「ぐはははは。捻りのないど真面目な戦法だが、嫌いじゃないぞ……!」


 ホワイトドラゴンは一瞬身を引く。


 首下の皮膚がまるで雨蛙のように膨らんだ。


「早速ですか!」


「防御態勢!!」


 フレッティの命令が響く。


 騎士団員たちは一斉に防御態勢を敷いた。


 ガーナー率いる重装騎士たちが展開を始めたばかりの魔導士部隊の前に立ち、防御姿勢を作る。


 魔導士たちもスタッフを指揮者のように振るい、詠唱し、防御系の魔法をありったけ唱えた。


 ミルディたちは一時避難する。


 次の瞬間、ホワイトドラゴンの口内が光った。


 カッと吐き出されたのは、猛烈な吹雪と氷の飛礫だ。


 刹那にして、辺りの一面を白く染まり、気温が一気に氷点下へと落ちていく。


 深緑の上に雪が被るという異様な光景が、騎士たちを包んだ。





 真っ白になった風景を見て、ホワイトドラゴンはふっと息を吐いた。


「げふっ! ちと張り切りすぎたかの。いつもなら相手の出方を見ながら、じわじわいたぶってやるのだが……。久しぶりの挑戦者なので、加減を忘れてしまったわい」


 顎の下を鋭い爪で掻く。


 尻尾の勢いを使って、くるりと振り向いた。


 その瞬間だ。


 背後からの殺気にホワイトドラゴンは反応する。目の端で捉えたのは、紅蓮の猛火であった。


「うおおおおおおおおおおお!!」


 炎がホワイトドラゴンの首筋にかかる。


 硬い皮膚のおかげで浅く斬っただけだったが、確実に肉に達していた。


「まだ生きておったのか!!」


 ホワイトドラゴンの表情は恐怖にあらず、歓喜に震えていた。


 大きな牙を剥きだし、炎の魔剣を繰る騎士に噛みつこうとする。首を捻ると、先ほどの傷口が開いた。


 そこに殺到したのは、風の刃だ。


 圧縮された空気の刃が、さらに高速で回転し、ホワイトドラゴンの傷口を抉る。


 それも1つだけではなく、3つ、4つと傷口に集中砲火を加えた。


 純白の皮膚に、緑色の鮮血がかかる。


「己!! 貴様、風の精霊との契約者だな!」


「その通り。初めてお目にかかるホワイトドラゴン殿……」


 金髪の男が踊るように目の前で剣を振るった。


 大気が震えると、無数の風の刃が現れる。如何にも威力ありげな音を立てて回転を始めると、猟犬のようにホワイトドラゴンに迫った。


「ぐあああああああ!!」


 溜まらずホワイトドラゴンは悲鳴を上げた。


 翼を広げて、一旦空へと逃れようとする。


 しかし、それを待っていたかのようにあちこちからかぎ爪が放たれた。


 硬い竜鱗にひっかかったかぎ爪には、縄が結ばれている。


「でやあああああああああ!!」


 その縄を伝い、ホワイトドラゴンの背に取り付いた者たちの姿があった。


 獣人と思われる娘が率いる敵の遊撃隊だ。


 どうやら先ほどのブレスで逃げたと見せかけて、崖伝いに回り込み、背後の茂みで様子を窺っていたのだろう。


 軽装の彼らは軽やかにホワイトドラゴンの背に着地する。


「貴様ら!」


 どこからともなく現れた援軍に、ホワイトドラゴンは戸惑う。


「我がブレスによって氷漬けになったのでないのか!!」


「悪いね、竜様。あたしたちには、勝利の天使が付いているんだよ」


「勝利の天使?」


 ホワイトドラゴンが軽く首を傾げる中、ミルディは得意げに笑う。


 そして、そっと竜の鱗と鱗の間に何かを貼り付けた。


 導火線にジリジリと火が付いている。


 語るまでもなく、爆弾であった。


「ばいばーい!」


 獣人娘は手を振り、率いる遊撃隊とともに離れて行く。


「きさ――――」


 赤い爆炎がホワイトドラゴンの背中の上で爆発する。


 凄まじい爆圧に、さしものホワイトドラゴンも押しつぶされた。自分の作った雪原に押し込まれると、悲鳴を上げる。


「今だ!! 一気に畳み込め!!」


 指揮官と思われる男の声が、出陣を促す銅鑼のように轟いた。


 森の中から魔導士達の呪唱が聞こえる。


 大規模な強化魔法だ。それが決まれば、いくらホワイトドラゴンの身体が頑丈であろうともタダではすまないだろう。


 このままでは――――。


「ええい! 洒落臭(しゃらくさ)い!!!」


 ホワイトドラゴンは色々と考えたものの、結局の所めんどくさくなった。


 再び首の下を大きく膨らます。


 2度目のブレスを吐き、騎士達を押し込もうとした。


 かくてブレスは吐き出された。


 先ほどよりも猛烈な勢いで、吹雪が荒れ狂う。


 飛礫が砲弾のように巻き上がり、騎士達に襲いかかった。


「どうだ!!」


 得意げに鼻を鳴らす。


 特に魔導士達には念入りにブレスをぶつけてやった。もはや息をすることすら難しいはず。


 ニッとホワイトドラゴンは笑う。


 しかし、勝利に酔いしれるのはまだ早かった。


 薄い雪の粉が煙る中で、現れたのは屈強な重装騎士たちだ。しっかりと魔導士達を吹雪から守っている。


 本来、鉄の鎧は冷たくなると肌に貼り付き、凍傷を起こすのだが、騎士達はものともしていない様子だった。


「馬鹿な!!」


 ホワイトドラゴンは絶句する。


 ここに来て、ようやくこの騎士団の存在を怪しむようになる。


 全くホワイトドラゴンのブレスが通じていない。


 竜というより、ホワイトドラゴン自身と戦い慣れているような気もする。


 そもそも自分の行動が完璧に予測されていた。


「誰だ?」


 ホワイトドラゴンの赤い瞳が周囲を見渡す。


 騎士団の後ろに聳える強大な影を感じずにはいられなかった。


引き続き「面白い」「続きが気になる」と思っていただきましたら、

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「もうした!」と言う方は、7月12日にコミックが発売されます「アラフォー冒険者、伝説になる」を読んでいただけると嬉しいです(コミックメテオのサイトにて、一部無料で読むことができます!)


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