第35話 僕のことが……
騎士団が馬に騎乗し、いよいよ出発する。
その中にカリムさんの姿もあった。
【勇者】の称号を持つカリムさんの力は未知数だけど、非常に落ち着いている。
落ち着いていないのは、それを見送るリーリスお嬢様だった。
「お兄様、これを……」
リーリスお嬢様はすでに涙声になりながら、両手を差し出した。そっと手に包んでいたのは、ルララ草だった。
リーリスお嬢様が地下で育てていた幻の魔草だ。
「ありがとう、リーリス」
カリムさんは馬上から降りると、差し出されたルララ草を、そっと抱きしめる。
「大丈夫だよ、リーリス。必ず母さんの呪いを解いてもらうから」
「……はい」
リーリスお嬢様は頷くけど、何かまだ気になることがあるようだ。
「あまり無茶しないように……。いいですね、カリム」
ソフィーニさんの声も震えていた。
「母上の元気な顔を見るまでは死ねませんよ」
ソフィーニさんとのハグを済ませると、鐙に足を載せて、再び騎乗する。
手綱を握り、馬を落ち着かせた後、リーリスお嬢様の方を向いていった。
「リーリス、良い子にしてるんだ。お前の騎士とともにね」
そう言って、カリムさんは僕の方に振り向く。
リーリスお嬢様も僕を見ると、顔を真っ赤にして首を振った。
「そ、そそそそんなんじゃありません!」
「そうかい? 僕はお似合いだと想うけど」
カリムさんは目配せする。
何のやりとりが行われているか、僕には皆目見当も付かなかった。
腹を蹴ると、馬はゆっくりと走り出した。
カリムさんは騎士団を率い、竜がいる北の山へと向かうのだった。
◆◇◆◇◆
さて、僕はどうしようか……。
僕がクラヴィスさんやカリムさんには同行するわけには行かない。
理由は2つ。1つはクラヴィスさんが、僕が外に出ることを固く禁じているからだ。
馬車の中で話したトリスタン家のことが、ずっと気になっているらしい。
僕の力に気付けば、トリスタン家は手の平を返して迎えに来ると考えているようだ。
もう1つは何度も言うけど、竜の性格だ。
はっきり言って、その竜と僕の相性は最悪といっていい。
僕の姿や、あるいは匂いを嗅いだだけで怒る可能性がある。
そうなれば、試練どころじゃない。
以上の理由から僕は同行を諦めた。その代わり、カリムさんには僕の料理をたっぷり食べてもらった。これで以前とは比べものにならないほど、力を出す事ができるはず。
後は吉報を待つだけだ。
どうやら、同行を考えていたのは僕だけではないようだ。
◆◇◆◇◆
騎士団が出発してから2日目の夕食――。
カリムさんや騎士団を除くレティヴィア家の人間が集まる中、リーリスお嬢様の姿だけがなかった。
「まだリーリスは部屋か?」
クラヴィスさんは眉を顰める。
「ドア越しにお呼びしたのですが、食欲がないと」
リーリスお嬢様担当のお世話係が、申し訳なさそうに頭を下げた。
「そうか。カリムたちが心配なのはわかるが、あまり思い詰めるのもいかんな」
「繊細で感受性の強い子なのですよ、リーリスは……」
ソフィーニさんも心配そうに瞼を伏せた。
「だが、放っておくわけにもいかん。折角ソフィーニの呪いが解けても、リーリスが倒れては一緒だ」
「そうですね……」
「あ~あ。誰かリーリスに寄り添ってくれるものがいないかな~。できれば、あの子と年が近く、女性の扱いに長けたものがいいのぅ~」
ちらっ、と最後にクラヴィスさんは僕の方を見る。
えっ……。それって僕にお願いしてるの。
リーリスお嬢様と肉体的には年は近いけど、300年以上生きてるし、そもそも女性の扱いに長けていないのだけど。
でも、リーリスお嬢様が心配なのは確かだ。
「あの……。僕がお嬢様を呼んできていいでしょうか?」
「「「「よし!」」」」
「へ?」
「ごほん。いや、なんでもない」
なんでもないってことはないでしょ。
だって、今クラヴィスさんはおろか、ソフィーニさんや他の家臣の人まで「よし!」って言ってたような……。
「では頼んだぞ、ルーシェルくん」
「は、はい……」
ちょっと釈然としないけど、僕は食堂を後にする。
まずお嬢様の部屋を尋ねたけど、部屋にはいない様子だった。
「どこ行ったんだろう」
僕は【気配探知】を使おうとしたけど、寸前で止めた。
すぐにピンと来たからだ。
地下室を覗くと、やはりリーリスお嬢様が物憂げな表情で椅子に座っていた。
前に来た時より薬草がなくなっているが、リーリスお嬢様がめぼしい薬草や魔草を、カリムさんに渡したからだろう。
「お嬢様……」
声をかけると、リスのようにリーリスお嬢様の肩は震えた。
また泣いてらしたのか、その目は赤い。
「ルーシェル…………さ、さん……」
他の屋敷の人たちは随分とフランクに僕に話しかけてくれるようになったのに、未だにリーリスお嬢様は僕から距離を取るように、敬語のままだ。
かけられる呼び方すらまちまちで、何か僕に言いたげなのに、逃げてしまうこともあった。
ちょうどいい機会だ。
ここではっきりさせておこう。
僕はお嬢様の青い瞳を見ながら、決意する。
「リーリスお嬢様、1つ聞かせてくれませんか?」
「え? ……は、はい」
「その…………お嬢様は――――」
僕のことが嫌いですか?
告白……!?
【お知らせ】
連載当初より毎日2話をあげていたのですが、
今後、毎日1話とさせていただきます。
理由としては、『300年山』にリソースを割きすぎた結果、
他の作品更新が止まってしまって、あまりよろしくないなあ、と思った次第です。
毎日3000pt以上いただいていて、大変ありがたく感じております。
まだまだ踏ん張りどころの作品ではございますが、他の作品の更新をお待ちいただいている
読者にも還元していきたいと考えておりますので、ご容赦のほどよろしくお願いします。
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