表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/285

第34話 魔剣フレイムタン

☆★☆★ 小説第1巻好評発売中です ☆★☆★


Web版からすべてリライト。

新キャラ「アルマ」が登場。

Web版最新話以降のお話が読める。

TAPI岡先生の飯絵がとてもおいしそう!! etc


色んなおいしいものがつまった小説第1巻を是非お買い上げください。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

 出陣は明日の昼に決まった。


 騎士団はその間、英気を養うことになり、ミルディさんも、リチルさんも一旦僕の世話係を解かれ、思い思いに過ごしている。


 屋敷に漂う空気は少しだけ重い。


 そんな中で僕は1人屋敷を探索していると、庭で剣を素振りするフレッティさんの姿を見つけた。


 もう何時間振り続けているのだろうか。


 半裸になった肌からは、玉のような汗が浮かんでいる。柄には血が滲んでいたけど、それでもフレッティさんは剣を振り続けていた。


 その姿を見て、僕は昔の自分と重ねる。


 「父上に認めてもらいたい」「父を越えたい」と思う自分と……。


 一途に何かに向き合うことは決して悪いことじゃない。


 けれど、1つのことに向き合うということは、他のものを見ないということでもある。


 思い詰めれば、僕の300年間のように歪な人生が待っているだけだ。


「まずいな……」


 僕じゃない。


 その声は僕の背後から聞こえる。


 振り返ると、クラヴィスさんが立っていた。


 視線を僕ではなく、一心不乱に練習用の木刀を振り続けるフレッティさんに向けている。


「明日出陣だというのに、あやつには困ったものだ。私は英気を養えといったのだが、このままでは自滅してしまうかもしれんな」


「自滅……」


 クラヴィスさんの言う通りだ。


 フレッティさんは間違いなく騎士団の要であると同時に、今回の試練を受ける人間の要でもある。


 それにあの(ヽヽ)竜は、人の心を見抜くことに長けている。


 フレッティさんの中にある破滅的な責任感に気付けば、竜は臍を曲げて、呪いを解いてくれないかもしれない。


「フレッティの責任感は強い。異常なほどにだ。当初、私もそれに甘えていた所もあった。ソフィーニが助かると聞いた時、喜ばしくもあったが、ふと試練に向かうフレッティのことが気になってな」


 クラヴィスさんの言葉に、僕は頷いた。


 フレッティさんは優しい人だ。


 そのおかげで、僕は今ここにいると言っても過言ではない。


 300年の呪縛から抜け出し、クラヴィスさんたちに愛されながら充実した日々を送っているのは、全部フレッティさんのおかげだ。


 だから、責任感が強く、死を覚悟しかねないフレッティさんを失うわけにはいかない。


「かといって、フレッティを抜いて他にいないのも事実だ。カリムがいるとはいえ、フレッティに無茶をさせないようにするためにはどうしたらいいだろうか」


「明確な理由を与えてはいかがでしょうか?」


 僕はクラヴィスさんに提案する。


「理由……?」


「ここに戻ってくる理由を与えるんです」


 クラヴィスさんが僕を屋敷で預かる理由として、家族として迎えることを宣言したように、フレッティさんが生きる理由を作ってあげる。


「そうすれば、フレッティさんは寸前のところで退き、無茶をしないかもしれません」


「随分と自信があるようだな」


「昔、フレッティさんみたいな騎士がトリスタン家にいたんです」


 とても優しく、家と仲間ためなら自分の命も惜しくないと、本気で思っている騎士が……。


 しかし、彼は亡くなってしまった。


 あの後、僕は嘆き悲しみながら、何をしたら彼は生きて帰ってくれるだろうと考えた。


 戦争が多かった時代だ。騎士の命が失われることなんて日常茶飯事だった。


 人が生き返ることはない。その現実もよく知っていたから、次に何ができるか。それを考えることの方が多かった。


 その時に、子どもながらに出した結論が「理由を与える」ということだった。


「なるほど……。命が失われる時代に生まれた考え方ということか。……良い案だ、ルーシェル。早速手配しよう」


 クラヴィスさんは僕の頭をわしゃわしゃと撫でるのだった。



 ◆◇◆◇◆



 翌朝、出陣式が執り行われた。


 騎士やカリムさんは鎧を纏い、クラヴィスさんは貴族の正装を纏って一段高くなった段の上に登壇する。


 式にはソフィーニさんとリーリスお嬢様、そして僕も出席した。


 久しぶりの正装に緊張する。織物やその素材の技術は300年前より進化したらしく、とても着心地がいい。ちょっと金糸を使い過ぎてて、派手すぎるように思えるけど……。


 屋敷全員の家臣が大広間に集められる一方、式は非常に厳かに行われた。


「フレッティよ、前へ――――」


「はっ!」


 フレッティさんは1度敬礼した後、クラヴィスさんの前に出た。


 クラヴィスさんは側にあった箱の封を解く。現れたのは、真っ赤な魔剣だった。


 その剣に見覚えがあった。フレッティさんが戦った野盗の頭領が振るっていた魔剣だ。


「お前に我が家の家宝である『フレイムタン』を預ける。これを持って、竜にそなたの力を見せるのだ」


 魔剣『フレイムタン』。


 その名前の通り、魔獣サラマンダーの舌を素材とし、鋼のように鍛え上げた魔剣だ。


 こうした魔獣の素材を利用した道具作りは、僕が晶石化を暴く前から行われてきた。とはいえ、その肉が食べられるとは誰も考えなかったみたいだけどね。


 事前に聞いていたけど、まさか野盗が振るっていたあの魔剣が家宝とは思わなかった。


 フレイムタンってとても貴重な魔剣だし。家宝にしてもおかしくないと思うけど。


 フレッティさんは唇をギュッと引き締める。


 膝を突き、差し出された魔剣『フレイムタン』を両手を添えて受け取る。


「有り難き幸せ。身命を賭して、奥方様の呪いを解いてみせます」


「フレッティよ」


「はい……」


「そのフレイムタンはレティヴィア家の家宝だ。所有権は我らにあって、そなたに一時的に貸し与えるにすぎない」


「心得ております」


「いや、お前は何も心得ておらぬ」


「えっ?」


 クラヴィスさんは傅いたフレッティさんの胸を叩いた。


「ちゃんと生きて戻り、私は家宝を返せと言っておる」


「――――ッ!!」


「どうだ? できぬというか?」


 クラヴィスさんはニヤリと笑う。


 一瞬呆然としたフレッティさんだったが、すぐに口を結んだ。


 普段優しげな瞳が、狼のように鋭く光る。


「必ず奥方様の呪いを解き、このフレイムタンを閣下の下にお返しいたします。むろん、我が手によって……」


「うむ。頼んだぞ」


 フレッティさんの肩を叩いた。


 さすが家臣の性格がわかっているらしい。


 身命を賭してというと、フレッティさんは本当に命を捨てる覚悟で挑むだろう。それぐらい生真面目な人だ。


 だからクラヴィスさんは、フレッティさんが生きる意味を与えたに違いない。


 気が付いた時にはクラヴィスさんは、僕の方に視線を向けていた。


 軽く目配せし、少し歯を見せて笑う。


 うまくいった!


 そんな満足そうな表情を見て、僕も嬉しくなってしまって、自然と笑みがこぼれていた。


☆☆ 7月12日 ☆☆

『アラフォー冒険者、伝説になる~SSランクの娘に強化されたら、SSSランクになりました~』のコミックス1巻発売です


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シリーズ大重版中! 第7巻が10月20日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本7巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本4巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シーモア限定で6月30日配信開始です!
↓※タイトルをクリックすると、シーモア公式に飛びます↓
『宮廷鍵師、【時間停止】と【分子分解】の能力を隠していたら追放される~封印していた魔王が暴れ出したみたいだけど、S級冒険者とダンジョン制覇するのでもう遅いです~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


コミカライズ10巻5月9日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる10』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス9巻 5月15日発売!
70万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新小説! グラストNOVELS様より第1巻が4月25日発売!
↓※表紙をクリックすると、公式に飛びます↓
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』書籍1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




3月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本3巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
追放王子、ハズレギフト【料理】を極める~最強のもふもふ国家で料理番を始めます。故郷の国が大変らしいのですが、僕は「役立たず」だったので関係ないよね~



『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


<『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] フレイムたんと脳内変換してしまいました
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ