第33話 家族の味
昨日、30万pv越えました。
なろうで6年近く活動しておりますが、1日の記録としては最高記録です。
読みに来て下さった方ありがとうございます。
「これは絶品だ!!」
クラヴィスさんは早速、僕が作ったチーズポークビーンズに舌鼓を打つと声を上げた。
その横で頬を緩めているのは、ソフィーニさんだ。
ケアスライムの飴によって呪いの痛みを抑えられているからか、すこぶる調子がよくなったらしい。
つい数時間前のことだというのに、部屋から出てきて、家族と一緒に朝食を摂りたいと言いだした。
ずっと呪いに苦しんでいたソフィーニさんにとっては、久しぶりの家族との団欒なのだろう。
一時とはいえ、レティヴィア家の家族に明るい笑顔が戻ってきた。
リーリスお嬢様も、カリムさんも上機嫌だ。
その何気ない家族の団欒が、少し僕には眩しく見えた。
「ね、ねぇ……。ルーシェル君」
話しかけてきたのは、ミルディさんだった。
今回の朝食は竜の試練に挑む騎士団の壮行会も兼ねている。
そのため、ミルディさんをはじめ、フレッティさん、ガーナーさん、リチルさんなど。
騎士団の主だった団員たちも列席していた。
レティヴィア家一家との会食は、定期的に行われていて、ミルディさんもリチルさんもリラックスした様子だ。
ミルディさんは件のポークビーンズを銀のスプーンで掬うと、渋い顔をした。
もしかして豆が苦手だったのかな?
「この豆ってもしかして……」
「あれ? 気付いちゃいました?」
「いや、何の豆かはわからないけど、多分普通の豆じゃないよね。その……コヒの豆の時みたいな」
「ええ。……でも、コヒの豆じゃないですよ。それはガンキョの豆です」
「が、ガンキョの豆!!」
「やっぱり……」
横で聞いていたリチルさんが声を上げる。
ミルディさんもペタンと耳を倒した。
他の人たちも驚き、僕の方を見ている。
なんだか、この反応……。段々慣れてきたな。
ガンキョの豆は一時的に肉体を強くする豆だ。
一皿に盛った量だと、1週間ぐらい効果が持続する。
これを食べておけば、竜の尻尾の打撃からは身を守れるはず。
「もしかして、他にもあるのか?」
お酒も入って、なんだか楽しそうなのはクラヴィスさんだった。
テーブルに肘を突いて、じっくり僕の話を聞く準備を調えている。
好奇心旺盛な父親の態度に、側に座ったカリムさんは肩を竦めていた。
ちなみにリーリスお嬢様と、ソフィーニさんは揃って同じ色の瞳を丸くして、まだショックから立ち直っていない。
「えっと……」
どう説明したらいいだろうか?
迷っていると、僕の肩に手が置かれる。
ソンホーさんだった。ギロリと鋭い視線を僕に向ける。
「小僧……。旦那様に何を食べさせたんだ? 事と次第によっちゃ……」
ソンホーさんが認めた料理を食べさせただけなんだけどなあ。
食材まで言及されていなかったから、大丈夫かなって思ってたよ。
事実、無害だしね。
「ご、ごめんなさい。そのお肉はシーピッグという魔獣のお肉で……」
「シーピッグって!?」
「海の魔獣ですよ、それ。ルーシェル君が知ってる魔獣って、主に山や平原に住む魔獣じゃ」
「いえ。あの山の裏には海が広がっていて、海の魔獣もそれなりに……」
あ。なるほどっていう空気が流れる。
そう。山の魔獣だけと思われがちだけど、僕が住んでいた山の裏には海が広がっている。
それに気付いたのは、200年ぐらい前だけどね。
多分、例の爆発によって地形が変わって、海が近くなったんだろうと予想している。
「シーピッグのお肉は元々塩漬けされたお肉みたいな味がして、とてもおいしいんです」
「なるほど。他に何か効果があるんじゃないのか?」
「えっと……。シーピッグは水棲系の魔獣なので、冷気や低温耐性に強い魔獣なんです。お肉を食べるだけで、冷気系のブレスに耐性が付きます」
「ふむふむ……」
「君のことだ。まだあるんだろ。例えば、この赤茄子とか。普通の赤茄子よりも随分ドロッとしているが……」
カリムさんが指摘する。
この人には適わないなあ……。
「赤茄子のように見えるのは、赤竜実の実で……」
「赤竜実!!」
ソンホーさんが素っ頓狂な声を上げる。
その声を聞きつつ、リチルさんも声を震わせた。
「幻の実といわれる果実の1つじゃないですか。赤竜の背に生えることから、そう名付けられた、と」
「そ、その効果は?」
「竜に対する特攻の効果があります。これも時限式ですけど、1年は持つかと」
「1年んんんんんんんんんんん!?」
リチルさんはそのまま卒倒しそうになっていた。
ミルディさんが、それを見てケラケラと笑っている。
他の人たちも、ポカンと口を開け、突然降ってきた現実に対応できていない様子だ。
その中で大きな声を上げたのは、クラヴィスさんだった。
「ぐっはっはっはっはっはっ!! 魔草に、魔獣に、最後は幻の果実か。ルーシェル君といると退屈せんのぉ」
クラヴィスさんはニヤリと笑う。
他の皆さんと違って、実に楽しそうだった。
「ところでルーシェル君」
クラヴィスさんは僕を覗き見るように見つめた。
「は、はい」
「何故、テーブルから離れたところで、料理人たちと一緒に立っておる?」
「え? それは、僕が作った料理だから」
「それはわかっておる。だが、君は本来はこっち側の人間だ。私は君を家族として迎え入れたと思っていたのだが、違うのかね」
僕の髪が揺れる。
何か一陣の風が吹き抜けたような気がした。
惚けていると、ソンホーさんが僕の肩に手を置いた。
「何をやっておる! 旦那様が家族と言っておるのだ。なら食卓を囲むのは、当然じゃろ。はよ行け」
ちょっと乱暴にソンホーさんは、僕の背中を押す。
押されるがまま席に着き、僕はソンホーさんたち料理人が作った料理に口を付けた。
おいしい……。
味付けは完璧。とても上品で、舌が喜んでいるのがわかる。
それに胸の内が熱い。
何か自分の内の中で抱えていたものが消えて、軽くなったような気がした。
「どうだ、ルーシェル君。我が家の料理の味は……」
「とても……。とてもおいしいです」
「覚えておきたまえ。これが家族の味だ」
クラヴィスさんは軽い度数の果実酒を呷ると、また笑った。
そうか。これが家族で食事をするってことなのか。
全然違う。
素材の味とも、調味料の味とも、その一体感でもない。
純粋に僕の心に響く……。
僕の最初の家族の味は、そんな味がした。
いつもであれば、ひょろひょろとランキングを落ちていく傾向にある作者の作品なのですが、
今回思いの外踏ん張っておりまして、驚いております。
ブクマ・評価いただいた方に改めてお礼申し上げます。
目標としては、10万pt目指して頑張りたいと思ってます。
気に入っていただければ、ブックマークと下欄にある☆☆☆☆☆の押して評価いただけると、
更新する励みになります。よろしくお願いします。








