第31話 リーリス
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ソフィーニさんを助けるため、騎士団が鬨の声を上げる中、顔を曇らせるリーリスお嬢様の姿があった。
輪の中に入らず、少し寂しそうに床を見つめていたかと思えば、急に部屋を出て行ってしまう。
ソフィーニさんだけが気付いたけど、「どこへ行くの?」という声は、騒がしい喧騒の中に消えてしまった。
「僕が行きます」
「でも……」
思いも寄らない方向からの挙手に、ソフィーニさんは困惑した様子だった。
「任せて下さい」
胸を張ると、ソフィーニさんは心配そうな表情を崩して、僕に笑みを見せる。
「じゃあ、お願いね、ルーシェル君」
「はい……」
「あと、また後で色々お話を聞かせて。あなたのことをもっと知りたいわ」
「ありがとうございます。是非」
僕は頭を下げると、リーリスお嬢様を追いかけた。部屋には戻らず、そのまま階下へと降りていく。
やって来たのは、屋敷の地下だ。
当然、日が差し込んでいないため、薄暗い。
蝋燭の明かりのおかげで、やっと冷たい石畳が見える程度だった。
「リーリスお嬢様は、ここで何を――――」
階段を降りて、すぐの地下室を覗く。
テーブルの前にリーリスお嬢様が立っていた。そのお姿を確認するよりも、僕はまず周りの光景に驚く。
そこにあったのは、たくさんの薬草や魔草だった。
一体何種類あるんだろうか。僕が住んでいた山で取れる薬草や魔草を、そのまま詰め込んだような野花や草が、壁伝いに植えられて、一部では水耕栽培もされていた。
どうやら地下水をこの部屋に直接引いているらしく、涼やかな水の音が聞こえる。
「すごい」
リーリスお嬢様は肩を震わせ、振り返った。
僕は構わず周りの薬草や魔草を観賞する。
一見乱雑に置かれているように見えるけど、どれも理に適った栽培方法だ。
植物も人と一緒で、草ごとに好みがある。
相性が悪い草はなるべく遠ざけたりして、逆に良い影響があるものは同じ鉢の中で植えられていた。
肥料のやり方も種類によってきちんと変えているようだ。
「すごい! 人工栽培が難しいルララ草が花を付けてる!」
魔草の一種で栽培が難しい。
ちょっとした環境の変化も敏感に感じて、すぐに枯れてしまう。
他にも色々と条件があって、幻の魔草と言われているものだった。
「よく知っているのですね」
何故かリーリスお嬢様の声は震えていた。
まだ僕のことが怖いのだろうか。
僕はなるべくお嬢様を刺激しないように声をかけ続けた。
「山で育てていましたから」
「そうですか」
「もしかして、ここにある草花は全部お嬢様が?」
質問すると、リーリスお嬢様の丸く愛らしい顔が縦に揺れる。
素晴らしい。
ここの薬草全部、自分で育てるなんて。
僕がリーリスお嬢様と同い年の頃でも、こんなことはできなかったはずだ。
相当努力をしたのだろう。
「……でも、もう無駄になってしまいました」
「無駄?」
「お母様の病気が、呪いとわかったのです。ここにある薬草や魔草はなんの意味もありません」
悲しげに俯く。その横顔を見るだけで、僕の胸は張り裂けそうだった。
リーリスお嬢様の気持ちは僕にもわかるからだ。
父が厳しい一方、母上は僕に優しくしてくれた。
しかし、父はそんな母を許さず辛く当たることが多かった。
そんな時、僕は何もできない、ただの小さな男の子だった。
リーリスお嬢様が苛まれているものの正体は、無力感だ。
「大人の人たちって決めつけてしまうよね。『子どもだから』って……」
リーリスお嬢様はハッと何かに気付いたように顔を上げる。
僕の方を見て、黙って頷いた。
「でも、子どもだって、誰かが苦しんでいれば本気でどうにかしたいって思うよ。それが自分の母親なら尚更だ」
僕はリーリスお嬢様の前に膝を突く。
顔を上げて、真っ直ぐサファイアのような青い瞳を見据えると、お嬢様は少し怯んだような表情を見せた。
「お嬢様がやったことは、決して無駄なんかじゃない。きっと誰かがどこかで見ています。だから、そんなお顔で寂しい言葉を言わないで下さい」
リーリスお嬢様の手を取る。
「お嬢様の思いはきっと伝わります。いえ。よろしければ、この僕が……。お嬢様の気持ちを伝える手伝いをさせて下さい」
「手伝い?」
「はい。お嬢様がしたこと……。無駄ではなかったと証明してみせます」
と、僕が宣誓すると、リーリスお嬢様も強く頷くのだった。
◆◇◆◇◆
竜の説得は、どうやら目処が立ちそうだ。
けれど、あの竜はとても気分屋だし、ちょっと人を見下しているところもある。
念には念を入れておかないと。
そのためにカリムさんやフレッティさんには、それ相応の力を見せる必要があるだろう。
「こんにちは!」
やってきたのは、レティヴィア家の屋敷にある厨房だ。
そこには数人の料理人たちが、朝食の準備を始めていた。
思えば、まだ朝だ。やっと陽が出始めたところで、眩い朝日がレティヴィア家を包んでいる。
「お前は……」
目を丸くしたのはベテランの料理人だった。
「確か……。レティヴィア家で預かるっていう」
如何にも職人気質という料理人だった。
こうやって話しかけながらも、馬鈴薯の皮を剥いている。
「すみません。厨房をお借りしていいですか?」
「厨房を? なんだい? 料理でも作ろうってのか?」
「その通りです」
少しからかい気味に質問されたが、僕は素直に肯定した。
料理人は驚いた様子で固まる。
「いや、それはできねぇよ、坊主。あんたはレティヴィア家の客人だ。それに召使いみたいな真似をさせたら、わしらが怒られちまうわな」
「ソンホー……」
老料理人に声をかけたのは、僕の横から現れたリーリスお嬢様だった。
「お、おおおおおお嬢様!?」
「驚かせてごめんなさい。でも、ルーシェル……さんの言う通りにしてあげて」
「そ、そんな……。いくらお嬢様の頼みでも――――」
老料理人は顔に手をやる。
指の指の隙間からチラリとお嬢様を覗き見た。
きっとその時、お嬢様の青い瞳が映り込んだのだろう。
純真な光を見て、老料理人は溜まらず参ったと叫ぶ。
「ご当主様には内緒にしていてくださいね」
「はい!」
とリーリスお嬢様は満面の笑みで答えるのだった。
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『【コミカライズ配信中】アラフォー冒険者、伝説となる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~』とかいいですよ(7月12日コミックス1巻発売予定)