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第30話 勇者

「なんと竜の呪具を使った呪いだと……」


 クラヴィスさんは絶句する。


 聞いたことのない呪いの名と、そこに竜が絡んでいることを知り、他の家臣の方々の顔も青くなっていった。


 竜はあらゆる生物の頂点と位置づける考えは、300年前にもあった。


 その素材が使われた呪具となれば、ここにいる人たちが驚くのも無理はない。


 しかし、その中でいつの間にか家臣の輪の中にいたフレッティさんが声をかけた。


「呪いなのだから、どこかに呪術師がいるはず。その者を見つけて、呪いの解呪を願い出ればいいのではないのか?」


 呪いは自然発生的に生まれるものじゃない。


 どこかに呪術師が呪術を使って、初めて効果が出るものだ。


 その方法を否定したのは、リチルさんだった。


「呪術は簡単に解呪できるものではありません。高度な呪いとなれば、一生解けないものも存在します」


「一生!!」


 クラヴィスさんの顔が真っ青になる。


 血の気が無くなりすぎて、そのまま卒倒しそうだった。


 みなさんが悲観的になる中、1人淡々としていたのは、カリムさんだ。


 顎に手を置き、思案している。


「ルーシェルくん。君も同じ呪いにかかっていたと言ったね」


 カリムさんは慎重に尋ねた。


「君はどうやってそれを克服したんだい?」


 全員の視線を感じる。


 僕は微笑んだ。


「はい。その通りです。ですから、ソフィーニさんは助かります」


 みるみるリーリスお嬢様の青い瞳が輝き出す。


 喜びを爆発させるように側にいたソフィーニさんに抱きついた。


 そのソフィーニさんも涙を浮かべて喜んでいる。


 クラヴィスさんも「うん」と頷くが、カリムさんはあくまで慎重だった。


「先にそれを言わなかったということは、君にとって難しい方法を取らざるを得ないということじゃないのかな?」


 察しがいいな。


 全くその通りだ。


「はい。竜の呪いを解くためには、竜にお願いするしかありません」


「竜に願い出る。そんなことが可能なのかね」


「心当たりはあります」


「君の呪いを解いてくれた竜だね」


 カリムさんはズバリ指摘する。


 正解だ。僕は首肯した。


「はい。その竜に願い出れば、治してくれると思います。ただ――――」


「何か問題が?」


「その……とても気分屋の竜でして」


「竜が……気分屋…………」


「あははは……。なんか人間みたいね」


 ミルディさんが呆れたように笑った。


 竜の中には、人間よりも高度な知能を持つものもいる。


 僕が山で出会ったのは、その1匹だ。


 ちなみに僕の病気が「呪い」だと教えてくれたのも、その竜だったりする。


「その竜は自分よりも強い人間以外、興味がありません。逆に言えば、その竜より強ければ呪いを解いてくれるってことです」


「随分と武闘派な竜だな」


「そうですか? 竜ってそういうキャラじゃないですかね」


「ミルディ……。団長も……、今はルーシェル君の話を聞きましょう」


 ひそひそと喋るフレッティさんとミルディさんを、リチルさんはたしなめる。


「竜か……。しかし、うちのもので竜に対抗できるものなど……」


 できることなら、僕がその役目を引き受けたい。


 でも、今回はソフィーニさんの呪いを解呪する願いだ。


 レティヴィア家に来たばかりの僕が前に出ても、あのへそ曲がりな竜はきっと言うことを聞いてくれないだろう。


 というか、最悪僕と会った瞬間、取り返しがつかなくなるほど怒り出すかもしれない。


 実は、その竜と僕は喧嘩別れ(?)みたいな状態になって久しい。


 僕と顔を合わせると、機嫌が悪くなる可能性も高い。


 それに、これはみんなに言う必要がないから説明しなかったけど、その竜が見たいのは決してその人間の戦闘力じゃない。


 願いを叶えるための心の強さだ。


 それには心の底から「ソフィーニさんを助けたい」と気持ちを絞り出す必要がある。


 だから余計に僕が適任者かどうかわからなかった。


「何を言います、当主様。お命じ下さい。この騎士団団長フレッティに。竜に勝て……と」


「あたしも! ソフィーニ様にはお世話になってるし、何よりリーリスお嬢様が可哀想です」


「ミルディと想いは一緒です。我々に行かせて下さい」


「…………」


 最後に黙ってガーナーさんが敬礼を取り、クラヴィスさんの前に膝を突いた。


 しかし、それでもクラヴィスさんは口を閉じたままだ。


 竜と対決するということは、簡単なことではない。


 五体無事に屋敷に帰ってくる保証はどこにもなかった。


 奥さんのために、もしかして優秀な騎士を失うかもしれない。


 当主として忸怩(じくじ)たる思いなのだろう。


「閣下……」


 声をかけて、クラヴィスさんの前に膝を突いた人がもう1人いた。


 カリムさんだ。


「僕も参ります」


「カリム!」


「僕なら竜と対等の戦いができるはずです。それに閣下の奥様は、僕の母親です。母が死に向かう姿を、これ以上見ていられません」


 どうか、カリムさんは頭を下げた。


 クラヴィスさんはギュッと目を瞑り、考えた。


 カリムさんは貴重な跡取りだ。本来であれば、すぐ否定するはずだろう。


 しかし、そうしないということは……。


 軽く首を捻っていると、先ほどのヴェンソンさんが耳打ちをした。


「カリム様は若くして【勇者】の称号をお持ちなのです」


「え? 勇者??」


 【勇者】というのは、【剣聖】に次ぐ実力者として認められた者の証だ。


 300年前と価値が一緒であるならば、カリムさんは相当な使い手ということになる。


 強者の雰囲気は最初出会った時から感じていた。


 けど、まさか【勇者】だなんて。


「わかった」


「あなた……」


 ソフィーニさんは心配そうに眉を顰める。


 もしかしたら、自分の跡取りがいなくなるかもしれない。


 その心配は当然と言えば当然だろう。


「私が拒否したところで、カリムは黙って出て行くだろう。ならば、親として責任を取らなければならん」


「父上……」


「カリム、頼む。ソフィーニを、我が愛妻を、そしてそなたの母を助けてやってくれ」


「身命をかけて」


 カリムさんは自分の右胸に手を置いた。


 こうしてカリムさんと、フレッティさん率いる騎士団が向かうことになったけど、あの竜を攻略することは難しいだろう。


 仕方ない。またあれをやろうか……。


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