表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/285

第28話 公爵夫人

★★ 月間総合ベスト10入り ★★


月間総合9位に入り、小説家になろうのトップページに載ることができました!

ブクマ・評価いただいた方ありがとうございます。

引き続き更新頑張ります!

 僕は物音に気付いて、振り返った。


 裏口を見ると、パタパタと足音が聞こえる。


 飛び出してきたのは、リーリスお嬢様だった。


「はわっ!」


 僕は反射的に石のように固まる。


「り、リーリス様??」


「そ、その恰好!!」


 リチルさんは反射的に僕の目を塞ぐ。


 しかし、遅かりしだ。僕の瞼の裏にしっかりと焼き付いていた。


 リーリスお嬢様の寝間着姿が……。


 それでもリーリスお嬢様は自分の恰好を省みず、鐘が割れたような悲鳴を上げた。


「お母様が……!」


 その声を聞いて、リチルさんは僕から手を離した。


 やっと視界が復帰したところで、僕が目撃する。


 リーリスお嬢様の涙をだ。


 ミルディさんとリチルさんはスカートを摘まんで走り出す。


 先ほどまでコヒを飲んで、眉間に皺を寄せていた給仕の姿はそこにはなかった。


 お嬢様は涙を払って、先導した2人を追いかける。僕もその後を追った。


 やってきたのは、部屋の前だ。


「奥様、失礼します」


 リチルさんが声をかけるが、返事はない。


 奥様という言葉に、僕はピンと来た。


 この屋敷に来てから、何人かの人と挨拶したけど、まだクラヴィスさんの奥さん――つまりレティヴィア家の公爵夫人にはまだ会っていない。


 中からの返事を待たず、リチルさんは部屋の中に踏み込む。


 カーテンが閉め切られた真っ暗な部屋で、女の人の苦悶の声が響いていた。


 リチルさんはカーテンを開く。ぼんやりとした薄明の光が差し込んだ。


 露わになったのは、ベッドで蹲る痩せた女性の姿だった。


「奥様!」

「ソフィーニ様!!」


 公爵夫人に声をかけるも、返事をすることすら難しいらしい。ただただ苦しんでいた。


 母親の姿を見て、リーリスお嬢様は顔面蒼白で、また泣きそうになっていた。


「ミルディ、薬の準備を」


「わかった」


 テキパキと2人は動く。


 ミルディさんは部屋の戸棚の中にあった薬を取り出す。


 一方リチルさんは回復の魔法で、夫人の症状を和らげようとした。


「うあああああああああ!!」


 ケダモノじみたソフィーニさんの声が響き渡る。


「ミルディ、薬は?」


「急かさないでよ。今用意してるから」


 ミルディさんは丸薬を瓶から慎重に取り出す。


 側にあった水差しからコップに水を注ぎ入れ、ソフィーニさんに差し出した。


「これを飲んで下さい、奥様!」


 差し出す。


 ソフィーニさんは反応し、手を伸ばした。


 だが、再び激痛が再発したらしい。


 またひどい声で叫びはじめ、ついにはミルディさんが差し出した薬を弾いてしまう。


 ガラスコップは破砕し、水と一緒に床に広がった。


「ミルディ、人を呼んで! 奥様を押さえ付けるの」


「う、うん……」


「ルーシェル君!」


「は、はい!」


「悪いけど、お嬢様を部屋の外に……」


 リチルさんの激しい指示が飛ぶ。


 それ以上何も言わなくてもわかる。ソフィーニさんが苦しんでいる姿を、お嬢様に見せるわけにはいかないだろう。


 けれど、僕だって黙って見てるわけにはいかない。


 すると、ギュッと僕の腕を取る手があった。


 振り返るとリーリスお嬢様が不安そうな顔で、僕の方を見ている。


 いや、不安じゃない。まして母親が苦しんでいる姿を恐れているというわけでもない。


 それはまるで僕に助けを求めているように思えた。


「大丈夫です、お嬢様」


「え?」


 あの鈴音に似た声が聞こえる。


「ただちょっと手伝ってもらえますか?」


「…………!」


 僕の言葉に一瞬驚いた後、丸い青い瞳を輝かせて、リーリスお嬢様は強く頷いた。





 しばらくして人がやってくる。


 黒の執事服を着た男達が、リチルさんの指示の下で奥様の手足を押さえ付ける。


 だが、奥様の力は想像以上に凄まじいらしい。


 男4人がかりでも吹き飛ばされそうになっていた。


 リチルさんはまず回復魔法で沈静化させようとするけど、すぐに首を振る。


「だめ……。わたしの回復魔法が効かない」


「何を弱音を吐いてるのよ、リチル。奥様に薬を――――」


 というが、再び奥様は4人の男の制止を振り切って暴れ出す。


 もはや近づくのも難しい。


「どいて下さい」


 声を上げたのは、僕だった。


「ルーシェル君」


 僕は手を掲げる。


 ちょうどその時、カリムさんとクラヴィスさんもやってきた。


 僕の手から光が満ちる。ソフィーニさんを中心に周囲が白く染まっていった。


「これは……。【大回復】の魔法か」


 クラヴィスさんが口を開く横で、カリムさんは瞼を大きく広げながら、声を上擦らせた。


「いえ。違います。【大回復】の上位互換である【天使の祈り】です。鑑定の時に確認していましたが、本当に使えるとは……」


 次第にベッドの上で暴れていたソフィーニさんの動きが鎮まっていく。


「今です。お嬢様」


「え?」

「お嬢様?」


 周囲がざわつく。


 みんなの視線が、小さな少女に注がれた。


 リーリスお嬢様は少し頬を膨らませながら、奥様に近づいていく。


 そのまま周囲の制止を振り切り、ベッドにいる奥様に――――。


 キスをした(ヽヽヽヽヽ)


 おやすみのキスではなく、唇と唇を重ねる。


 互いの口の中がもごもごと動いた。


 しばらくの間、部屋に集まった大人達は親子同士のキスを眺めることになる。


 やがて奥様の喉がこくりと動いた。


 リーリスお嬢様はぺろりと舌で唇を舐めると、心配そうに奥様を見つめた。


 僕は【天使の祈り】を止める。


 ソフィーニさんの動きが完全に止まった。


 それどころか、意識を取り戻し瞼を開ける。


 青空のような綺麗な瞳が側にいたリーリスお嬢様を捉えた。


「リー……リス…………?」


「はい。お母様!」


 リーリスお嬢様はソフィーニさんにギュッと抱きついた。


 目からポロポロと涙を流し、わんわんと声を上げて泣き始める。


 その美しい金髪をソフィーニさんはゆっくりと撫でた。


 2人の姿を見て、周囲は拳を上げて沸き立つのだった。


7月12日発売の『アラフォー冒険者、伝説になる~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~』の書影が公開されました。もし気になる方は、是非チェックして見て下さい。

ヒロインが滅茶苦茶可愛いですが、中身も可愛いですよ


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シリーズ大重版中! 第7巻が10月20日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本7巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本4巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シーモア限定で6月30日配信開始です!
↓※タイトルをクリックすると、シーモア公式に飛びます↓
『宮廷鍵師、【時間停止】と【分子分解】の能力を隠していたら追放される~封印していた魔王が暴れ出したみたいだけど、S級冒険者とダンジョン制覇するのでもう遅いです~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


コミカライズ10巻5月9日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる10』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス9巻 5月15日発売!
70万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新小説! グラストNOVELS様より第1巻が4月25日発売!
↓※表紙をクリックすると、公式に飛びます↓
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』書籍1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




3月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本3巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
追放王子、ハズレギフト【料理】を極める~最強のもふもふ国家で料理番を始めます。故郷の国が大変らしいのですが、僕は「役立たず」だったので関係ないよね~



『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


<『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ