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第261話 少女が見た神獣

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挿絵(By みてみん)

 ◆◇◆◇◆  回想  ◆◇◆◇◆



 半ばパニックになりながら、小さな少女は山を駆け下っていた。


 時間は夜。

 鬱蒼と繁る森の闇が、高い壁のように聳えている。

 いつもならひっそりとしている山から、金属を擦り合わせたような音が響いていた。


 少女の名前はティセルと言う。

 数日前に5歳の誕生日を迎えたばかりだ。

 本来であれば、こんな小さな少女が夜の山にいることは難しい。

 いや、あってはならないことだろう。


 しかし、それにはティセルなりの理由があった。


 ティセルは数ヶ月前に父親を亡くし、今は母親とともに暮らしている。

 その母親は病弱で伏せることが多く、鍬を持つこともままならない。

 当然、生活もままならず、ティセルが採った山菜と、隣のおばさんの援助が唯一の収入源であった。


 そんなティセルはいつも通り、大人たちに混じって山菜採りに出かけた。

 たまたま山菜の群生地を見つけ、夢中で採っていると、気が付けば周りに大人の姿は消えていた。帰路を見失い、彷徨っていると、夜になってしまった。


 ティセルは大人に言われた通り、無闇に動かず、木陰で息を潜めて村のみんなが捜しにくるのを待つことにした。


「シャリ」という金属を擦り合わせたような音がしたのは、その時だ。


 そっと振り返ると、無数の大きな蟻たちが群がっていた。

 警戒色である赤い目をして、「キィキィ」と耳障りな鳴き声を上げている。

 ダークナイトアントという名前までは知らなかったが、小さなティセルでもそれが魔獣であることぐらいは理解していた。


 魔獣と出くわしたティセルは、この時になってようやく、自分が村で禁足地と呼ばれている場所に踏み込んでいたことに気づく。


 弾かれるようにティセルは、山の中を走り出した。

 ダークナイトアントもまた遅れてティセルを追い始める。

 かくして真夜中の鬼ごっこは開始された。


「だれか! だれか助けて!!」


 ティセルは走りながら声を振り絞る。

 しかし、正義の味方は一向に現れない。

 自分の声が山彦になって返ってくるだけだ。


「痛っ!」


 鬼ごっこは、長くは続かなかった。

 所詮、5歳児の体力である。

 いくら火事場の馬鹿力あっても、どうにもならない。

 まして木の幹や根、茂み、落ち葉で隠れた石など、森の中は障害物ばかりだ。


 何らかのものに足を取られ、転ぶなどということは、むろんあり得たことだった。


 ティセルはすぐに起き上がろうとしたが、膝に強烈な痛みを感じ、思わず悲鳴を上げる。

 膝小僧からは血が流れていた。動かそうとすると、思わず身体が跳ね返るほど痛みが走る。


 ティセルが動けないでいると、ついにダークナイトアントが追いついた。

 山の警備兵といわれるほど、夜の活動に特化し、野生生物や魔獣などを捕食する。

 人間も大好物だ。


 ティセルはダークナイトアントが怒っているから、赤く目を光らせていると思っている。

 しかし、実は人間というご馳走を見つけて、興奮していた。


 口から垂れた蟻酸は枯れ葉やちょっとした岩に垂れると、あっという間に溶けて消えてしまった。その様子を見て、ティセルは悲鳴を上げ、真夜中の森の中で助けを求めたが、やはり誰からの応答もない。


 いよいよダークナイトアントが迫る。

 鋸のようになっている前肢を擦り上げた。

 まるで包丁でも研ぐようにだ。


 その様子に、ティセルは震え上がる。

 いつの間にか痛みは消えていた。

 代わりに恐怖がティセルの身体を支配する。

 ダークナイトアントの前肢が、近くまで迫ってもティセルはまったく動けなかった。


「ママ…………。まま…………」


 喉から悲壮な声が漏れる。

 母親は来ない。代わりに蟻酸の酸っぱい匂いが鼻をつく。

 いよいよ魔獣が口を開けた時、ティセルは現実から目を背けた。


 ドンッ!


 爆発音にも似た音が、ティセルの小さな耳をつんざく。

 自身の身体が吹っ飛んだかといえばそうではない。

 恐る恐るティセルは目を開けると、すぐ近くにいたダークナイトアントの姿は消えている。


 代わりに潰れたダークナイトアントの上に、美しい白銀の毛並みを持つ獣が立っていた。


「大きな猫……」


 ティセルは獣を見ながら、ぼんやりと呟く。

 鋭い爪が付いた4足の脚。大きな太い尻尾は優雅に揺れている。

 もっとも特徴的だったのは、左右に広がった髭だろう。

 獣が息をするたびに、ふわりふわりと雲がなびくように動いていた。

 ちょうど差し込んだ月光に照らされ、白銀の体躯が輝く。

 まるでまだ夢を見ているようだった。


 白銀の獣はダークナイトアントを威嚇する。

 低く唸っただけで、ダークナイトアントの警戒色が消えた。

 そそくさと転進し、山の闇に紛れる。


 ダークナイトアントが撤退したのを確認した白銀の獣は、尻尾と髭を揺らしながら、ティセルに振り返った。


 今までよく見えなかったが、案外怖い顔をしている。

 その形相に驚いて、ティセルは思わず泣きそうになったが、そんな彼女を優しい光が包んだ。すると、膝の怪我がみるみる治っていく。


(すごい。奇跡だわ)


 山間の村娘にとって、魔法はなかなか見慣れないものだった。

 先ほど怖いと思った顔も、今ではティセルには神様みたいに見える。


 好奇心でティセルは、白銀の獣に手を伸ばす。

 そのおでこを小さな手で撫でた。

 白銀の獣は一瞬困ったような顔をしたが、ティセルが示した感謝の意に黙って従った。


 傷が治ると、今度は白銀の獣はティセルの襟首を掴む。

 いったい何をされるのかわからなかったが、ティセルに抗う力はない。

 そもそも白銀の獣から、ダークナイトアントのような殺意は感じられなかった。


 なるべく声を出さずに、白銀の獣の行動を見守っていると、突如身体が浮き上る。


 襟首を掴まれたままティセルは白銀の獣とともに夜のランデブーを楽しむ。

 すっかり恐怖は消え、いつも見ている空よりも近い星空に手を伸ばした。


 夜のランデブーは長く続かなかった。

 気がつけばティセルは、村の入口に立っていた。

 どうやら村まで送り届けてくれたらしい。


 ティセルは見慣れた村の光景に感動する。

 その横で白銀の獣は翻り、その場を後にしようとする。

 少し浮き上がったところで、ティセルは慌てて尻尾を掴んだ。

 迷惑そうな表情を浮かべる白銀の獣に対して、ティセルはポケットをまさぐる。

 ちょうど山で採ったタラの芽が入っていた。


「ありがとう」


 感謝の言葉とともに、ティセルはタラの芽を差し出す。

 言葉に反応こそしなかったが、どうやらタラの芽には興味があったらしい。

 白銀の獣はタラの芽を口で掴むと、再び浮き上がる。

 すると、まだ夜も明けきらない山のほうへと飛んで行った。


「きっとあれは神様が使わした神獣なんだわ」


 白銀の獣が飛び去った方向をしばらく見つめたあと、ティセルはそう確信した。


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