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幕間 一夏の思い出⑨

☆★☆★ 10月20日 第7巻発売 ☆★☆★


おかげさまで第7巻です。

書籍情報も作りましたので、ご予約の際にお使いください。


挿絵(By みてみん)

 導火線に火をつけると、しばらくしてシュッと鋭い音が鳴った。

 すると、持っていた棒の先から色鮮やかな火花が噴き出す。

 最初はゆっくりだった火花は、勢いを増して、夜の浜辺を彩った。


「すごい!」


 僕は目を丸くする。

 花火は見たことがあるけど、こんな人が手に持って遊ぶ花火は初めてだ。

 鮮やかな火花を目の前で見られる上に、さほど熱くない。

 さすがに人に向けると危ないけど、人と人との間隔に気を遣えば十分楽しむことができる。

 こういう花火をカンサイベーン家は昔から扱っていたらしい。


「うちの新商品や。どや? 綺麗やろ?」


 カナリアは胸を張る。

 作ったのは職人だと思うけど、彼女曰く花火の色のアドバイスをしたらしい。

 本当は自分でも花火を作りたいそうだ。


 しばらく玩具花火と名付けられた花火を、僕たちは楽しむ。

 こういうのは300年前にはなかったものだけど、僕は生徒会メンバーと一緒に汗をかくぐらい楽しんだ。


 いよいよ商品がなくなってくる。

 残っていた細い花火に火を付けると、チリチリと音を立てて光が弾ける。

 噴き出す花火とは違った、また趣のある花火に、いつしかうっとりと眺めていた。

 カナリア曰く、線香花火というらしい。


「わたくしは派手な花火よりも、こっちの方が好きですわ」


「そうだね。僕もこっちの方が好きかな」


 花火を持って、はしゃぎ回るのもいいけど、こうやって光が複雑にちらつくのを見ているのも悪くない。


「ルーシェル、どうしたんですか?」


 唐突なリーリスの質問に、僕は反射的に顔を上げる。

 ちらつく火花が映り込んだ青い瞳と視線が合う。

 幻想的な色と穏やかな表情に、僕は一瞬呆然とする。

 不意に心を盗まれたような感覚に少しドキドキしながら、「何が?」と短い言葉で返した。


「洞窟に行った後から何か悩んでいませんか?」


 うっ……。リーリスにはお見通しだったらしい。

 自分なりに取り繕っていたつもりなんだけど。

 まだ一緒に暮らし始めて2年も経っていないけど、僕のことをよくわかっているらしい。


「リーリスには敵わないな」


「わたくしでは相談相手にはなれませんか?」


「そ、そんなことはないよ」


「じゃあ、話してください」


 ずるい言い方だな。

 リーリスってこんな風に詰問するタイプだっけ?


「些細なことなんだけどさ」


「些細なことで、ルーシェルが塩と砂糖を間違えたりしませんよ」


「え? 僕、間違えてた?」


「はい。……甲羅鍋の味を整える時に、塩を使ったでしょ? たぶん、あれは砂糖です」


「え? 嘘……」


 全然気づかなかった……。

 というか、なんでリーリスはそれを知っているんだろ。

 確かに大鍋だったから、多少砂糖が入っていても誤魔化せる。

 でも、僕だって味見して気づかなかったのに。


「もう何度もルーシェルの魔獣食を味見してますからね。ルーシェルの好きな味がわかってきました」


「好き……」


「いや、あの……味のことですからね。ルーシェルの味の好みはわかってますから。それにわたくしはルーシェルの助手だと、その……勝手に思ってますから」


「ありがとう、リーリス。でも、ひどいな」


「え?」


「僕は、助手だと思ってるんだけど、ダメかな」


「いえ。全然そんなことないです。光栄です!」


 リーリスは慌てて訂正した。


 レティヴィア家でも、このカンサイベーン侯爵家に来ても、リーリスとはよく喋っているし、いつも僕の横にいてくれるパートナーだと思ってる。

 それでも今こうして真っ直ぐにリーリスを見て、会話するのは久しぶりだ。

 思い出すなあ。あの……ルララ草に歌を聴かせた夜のことを。


「何の話をしてたんだっけ?」


「ルーシェルが寂しそうな顔をしているという話です」


「僕、そんな顔をしてた?」


「なんだか置いてけぼりの迷子の子どもみたいな顔をしてましたよ」


 え……。そんな顔をしていたのか、僕。

 でも、たぶん合ってると思う。

 僕は300年生きてきて、そして300年前からずっと時が止まったままだ。

 かつての家族も、友達もいない世界で生きている。

 あのマジックキューブのことを知らない世界で、たった1人でいて、寂しかったのだろう。


「マジックキューブを誰も知らないっていった時、自分だけ300年前に取り残されているような気がしたんだ」


 すん、と線香花火の火花が切れる。

 小さな花火なのに、消えてしまうと世界のすべてが真っ暗になったような気がした。


「そんなことはないです、ルーシェル。わたくしは300年前のルーシェルと会話をしたり、遊んだりしていません。300年後のルーシェルと一緒に生きてるつもりです」


「300年後の僕……」


「そうです。あの洞窟の冒険だって、300年経ったから海水が満ちてきて、魔獣が棲むような洞窟になったんでしょ? わたくしは浜辺と繋がった洞窟は知らないし、見ていない」



 わたくしはずっと今のルーシェルと冒険していたつもりですよ。



 リーリスの言葉を聞いた時、僕は自分のことが未熟だと思った。

 いや、まだまだ子どもだと思った。リーリスの方がずっと大人だ。

 300年前に流行ったことを誰も知らないから、ただいじけていただけなんだ。


 僕は目頭を拭う。

 悲しいんじゃない。嬉しいのだ。

 こんなに近くに、僕の事を見てくれている人がいたことが。


「ありがとう、リーリス」


「わたくしはルーシェルの助手ですから」


「ホントだね。リーリスに助けてもらってばかりだ」


 良かった。リーリスがいてくれて。

 やはりレティヴィア家に来て、正解だった。


 ドンッ!


 突然の爆発音に、僕たちは肩を竦めた。

 海の方から光跡が上っていくと、夜空に大輪の花を咲かせた。

 赤、青、緑……。様々な花が開いては、散っていく。

 その一瞬の美しさをまるで競うように……。


 僕とリーリスはしばしその花たちの共演を見つめた。


「頭取! これどうやって使うんや」


 夜空に上がった花火を見ていると、唐突に商言葉が聞こえる。

 カナリアが例のマジックキューブを持って、僕のところにやってくる。

 どうやらあの宝箱から、そのまま拝借してきたらしい。

 カルゴもナーエルも気になっているようで、カナリアの後ろに続いていた。


「頭取からルールは聞いたけど、一面も同じ色にできんのや」


 降参という感じで、僕にマジックキューブを渡す。

 だいぶ古びているけど、サイズ感は300年前と変わらない。

 持った瞬間、懐かしさが広がっていくような気がした。


「見ててね」


 カサカサと木で作られたマジックキューブを回す。

 10秒もかからずに、一面を赤くしてみせた。


「すご!」

「カナリアがあれだけ頑張ってもできなかったのに」

「コツはあるんですか?」


 やんややんやと僕に尋ねてくる。

 どうやらマジックキューブに興味を持ってもらえたみたいだ。


「コツっていうか、慣れかな」


 僕はマジックキューブをさらに動かし、赤に続いて青の面も作る。

 勉強と剣術漬けだったけど、休憩時間のちょっとした気分転換によくやっていた。

 初めは全然できなかったけど、執事に教えてもらいながら極めたものだ。

 今でも指先と目が覚えているらしく、クルクルと動かすうちに、あっという間に全面をクリアした。


 それを見て、みんなは目を丸くする。

 まるで神を崇めるかのごとく「やって」「もう1回」とせがんできた。

 いつの間にやら地元の子どもや大人たちまで集まってきていて、僕を中心に人だかりができていた。


「す、すごい人だ」


 僕は困惑しながら、花火の下でマジックキューブのやり方を教えていた。





 そんなルーシェルを見ながら、口角を上げる者がいた。


「クックックッ……。これは商売になるで」



 ◆◇◆◇◆



 長い夏休みも終わり、僕たちは新学期を迎えた。

 勉強もそうだけど、生徒会メンバーにはやらなければならないことがある。

 そうだ。子ども祭の成功だ。すでにそれほど日数は残っておらず、今日会議することが決まっていた。


「結局、夏休み。ほとんどロラン王子と会えなかったなあ。レティヴィア家に遊びに来るとは言っていたけど」


「ご公務が忙しかったんでしょ。それに王族の方は、夏場は避暑地で暮らすのが慣わしなので」


 夏場の間は家臣にも暇を出す。

 王宮に家臣がいなくなるため、王族たちは避暑地で夏場を過ごすことが強いられるのだ。


「元気かな、ロラン王子」


「あいつが元気のないところなど、そうそうないと思うぞ」


 騎士団の合宿に参加していたユランが言う。

 何かたくましくなって帰ってくるのだろうかと思っていたら、本人は至って普通だ。

「合宿どうだった?」と尋ねたら、「まあまあじゃな」というユランらしい感想が返ってきた。


「ん? あれはなんじゃ?」


 ジーマ初等学校へ向かう通学路。

 そこに人だかりができていた。

 ほとんどが初等学校の生徒たちだ。

 さらにその手にはマジックキューブが握られ、早速音を立てて遊んでいる子どもがいた。


 どういうこと?


 目を丸くしていると、何やら聞き覚えのある商言葉が聞こえてきた。


「はいはい。落ち着いて。落ち着いてや。商品はまだあるよって」


「か、カナリア??」


「あ。頭取? 見てや。この大盛況ぶり。うちの勘が当たったで」


 売り子のカナリアの前にあったのは、山と積まれたマジックキューブだ。

 どうやら、持ち帰ったマジックキューブから構造を分析して、量産したらしい。

 しっかりとマジックキューブには、カンサイベーン侯爵家の紋章が刻まれていた。


「こいつは売れると思ってたんや。昔の子どもの玩具やしな」


「す、すごっ……」


 この反響……。さすがカナリアだ。


「どや、頭取? ちょっとはモヤモヤは解消できたか?」


 まさかカナリア、僕が悩んでいることを知って……。


「なかったら作ればいい。知らなければ知らせればいい。時代なんてな。待ってても自分が思い描くものなんて生まれへん。自分で作るんや。うちは作るで。自分の時代を」



 カナリア・ギル・カンサイベーンの時代をな。



 カナリアは口角を上げる。

 まるで悪の大幹部みたいだけど、やってることは凄いと思った。


 何となく予感がする。

 いつかカナリア・ギル・カンサイベーンの時代が来るんじゃないかって。

 その時は、どんなものが流行ってるんだろう。

 できれば300年後の子どもたちも手にして遊んでいるようなものがいいなと、僕は密かに思った。


☆★☆★ 11月刊 ☆★☆★


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