第27話 コヒの豆
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「それぐらいにしておきなさい、ミルディ。そして、ルーシェル君」
とうとうリチルさんのプチ雷が落ちる。
僕は慌てて手を引っ込める横で、ミルディさんは「えへへへ」と舌を出した。
リチルさんの機嫌は直らない。
しっかり眉間に皺を刻むと、ミルディさんを睨んだ。
「ミルディ、あなたまた寝坊したでしょ」
「ごめんって、リチル。だって、あたし朝弱いんだもん。ふわっ……」
僕の前でミルディさんは大きな欠伸をする。どうやら朝に弱いらしい。
そんな相棒の姿を見て、保護者ポジションのリチルさんは「もう!」と腰に手を当てた。
すると、カタカタと音が聞こえる。
振り返るとポットから勢いよく白い湯気が噴き出ていた。
「じゃあ、お2人とも1杯飲みませんか。朝、スッキリしますよ」
「そう言えば、ルーシェル君。お湯を沸かして、何を作ろうとしているの」
「まあ、見てて下さい」
僕は道具袋から真っ黒な豆を取り出した。
「焼いた……豆?」
瞬きしながら、僕の手の上の豆を指差す。
それを風の魔法を使って粉々にし、木綿の袋に入れたら沸騰したお湯を少量入れる。
「ふわっ! いい匂い!」
「まるで紅茶みたいですね」
ミルディさんは尻尾と耳を立てる。
リチルさんも大きく息を吸い込む。頬を赤くしながら、香りに酔いしれる。
20秒ほど蒸らしたら、もう1度お湯を回し入れて、豆の中の成分を抽出して、出来上がりだ。
「こ、これは……」
「ま、まるで炭水みたいですね」
ミルディさんは明らかに怪訝な顔を浮かべると、リチルさんも苦笑いを浮かべた。
同じ要領で2杯作り、2人に差し出す。
「まずはこのままでどうぞ」
笑顔で差し出す僕を見て、ミルディさんとリチルさんは顔を合わせる。
「折角だし……」
「断るのもねぇ」
2人はカップを受け取ると、早速口を付けた。
「「苦っ!!」」
2人の言葉と表情が揃う。
リチルさんはともかく、ミルディさんは黄狐族なのに猫舌らしい。
「あちゃちゃちゃ……」と舌を出して、慌てふためいていた。
「あっつ! あと凄く苦いんだけど……。おかげで目が覚めたわ」
「香りを嗅いだ時はおいしそうに思えたんですけど。でも、炭っぽい味が残ってるわね」
予想通りのリアクションに、僕は微笑む。
「あー。その顔! ルーシェル君、わかってやったな」
「ご、ごめんなさい。でも、それが本来の飲み方なんですよ。今度は、ちょっと飲み方を変えてみましょうか」
僕は袋の中から羊乳と砂糖を取り出す。
「ルーシェル君が持ってる袋って、何でも出てくるのね」
リチルさんが興味津々に袋を覗き込んできた。
この魔法袋の秘密を教えるのは、また今度。今は僕が作ったコヒを飲んで欲しい。
コヒというのは、今僕が用意した飲み物の名前だ。
取り出した羊乳を少し垂らし、最後に砂糖をスプーン1杯分入れる。
「これで飲んでみて下さい」
改めて2人に差し出す。
ミルディさんとリチルさんは、今度は恐る恐る飲んでみた。
「「おいしい!!」」
2人の言葉は、先ほどとは全くの逆だった。
「羊乳と砂糖を入れたことによって、苦みが良い具合に押さえられていますね。むしろ苦みが良いアクセントになっていて、とても飲みやすいです」
「羊乳を入れたから温度も下がってるし、苦みのおかげでちょうどいいわ!!」
ゴクゴクと2人は一気に飲んでしまった。
ぷはぁ、と満足そうに息を吐く。
良かった。気に入ってくれたようだ。
「ルーシェル君が作る料理って味わったことのない味が多いけど、おいしいのよね」
「これ……。なんて飲み物なの? 300年前はあったのかしら?」
僕は首を振った。
「いえ。僕が300年かけて、作ったんです」
「まさか焼いた豆にお湯をかけて、こんなおいしいものを作るなんて」
「300年……。当然だけど、侮りがたいわね」
2人は感心する。
「名前はコヒと言います。由来は、使ってる豆の名前です」
「コヒ?? それで豆って? もしかしてコヒの豆のこと??」
突然、リチルさんは慌て始めた。
横のミルディさんはぽかんとしている。
かくいう僕も、何故リチルさんが慌てているのかわからなかった。
「コヒってなんだっけ?」
「ミルディ、たまには本を読んだら? 魔草図鑑とか特にオススメよ」
「レストランにある料理のメニュー表より分厚い本を読むと眠たくなっちゃうのよね」
ミルディさんは尻尾をくるり、耳をパタンと閉じる。
リチルさんは「もう……」と頬を膨らませた。
「コヒの豆は稀少な魔草の一種よ。1粒食べるだけで、魔力が増加すると言われているの」
「魔力が増加!? それってすごいじゃない!」
ミルディさんは目を輝かせる。
「でも、すっごく高価な魔草なのよ。あれって」
「でも、ルーシェル君、さっきこれを作る時いっぱい豆を砕いていたわよ」
「というか、稀少な豆を焼いていたわね」
「しかも、今あたしたち一気飲みしたわよ」
ジッ……。
2人は僕の方を見る。
え? なんか2人の顔が怖いんだけど。
「僕、何か悪いことをしましたか?」
「い、いいえ。でも、ルーシェル君はこの効果のことを知っていたの?」
「コヒの豆が魔草で、その効果が魔力量アップってことですか? ええ。知ってました。でも、その上昇値って微々たるものですし、僕……毎日飲んでるせいか、魔力が全然上がらなくなっちゃって」
「毎日!!」
「魔力が上がらない!!」
2人は絶句する。みるみる顔がブルーチーズみたいに青くなっていく。
「300年間で毎日だから、何杯分?」
「上がらないって……。どれだけ魔力をもっているのよ、この子」
ミルディさんは手で計算できなくて項垂れ、リチルさんは僕の魔力量を想像したのか、同じく青い顔をしたまま項垂れた。
さて、一息吐いたところで、今度は何をしようかな。
とりあえず使ったポットとカップの洗浄をしないと。
「あ。そうだ。これもいらないね」
僕は立ち上がり、布の中に入れた豆の欠片を庭に捨てる。
「「ぎゃああああああああああああ!!」」
ミルディさんと、リチルさんは悲鳴を上げた。
あ。しまった。いつものクセで地面にばらまいてしまった。
ここは樟の下じゃなくて、レティヴィア家の庭だった。
「ご、ごめんなさい。ついいつものクセで。自分で拾いますから」
「別に捨てるのはいいけど、こんな稀少な豆……。欠片でも捨てないで」
リチルさんは目を皿にして、地面に落ちた豆の欠片を拾おうとする。
それにミルディさんも追随した。
「そうだよ。もったいない! あ! あった!」
1つ欠片を見つけると、ミルディさんとリチルさんは大はしゃぎだ。
2人のテンションに、僕は全くついていけない。
「えっと……。もったいない?」
「そうよ。これってまだ抽出できるでしょ! コヒの豆はとても稀少品なんだから」
「出涸らしが出なくなるまで飲みきらないと」
ふん、と2人は鼻息を荒くする。
「別にそんなの気にしなくていいですよ。まだ豆はいっぱいありますから」
と言って、僕は魔法袋からコヒの豆を取り出して見せる。
2人は目玉が転がりでるんじゃないかと思う程、瞼を広げた。
「ちょっ! ルーシェル君! あなた、一体いくつコヒの豆を持ってるの?」
「そうですね。ここにあるのは、約1ヶ月分というところでしょうか? 山に戻れば、裏の畑に生えてますから。すぐにでもフレッシュな豆を持ってくることができますよ」
山からここまで随分と遠いけど、【浮遊】のスキルを使えば、さほど遠い場所じゃない。
畑も僕が世話をしなくても、永続的に生えてくるようにしてあるから問題ないだろう。
ん?
「…………」
「…………」
振り返ると、庭の上で土を掻き集めているようなポーズのまま、真っ白に燃え尽きたミルディさんとリチルさんの姿があった。
「面白い」「オレも毎日珈琲飲んでるから魔力がカンストしてるなって思うぐらい珈琲中毒な方」は、
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だいぶ暑くなってきましたが、引き続き更新頑張ります。
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