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幕間 一夏の思い出④

☆★☆★ 新刊発売記念更新 ☆★☆★


『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』2巻発売記念。

書店にお出かけの際にはよろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

 急な雨に降られ、僕たちは近くの林に逃げ込む。

 雨脚は強まり、風も強くなってくる。海も荒れ、飛び散る飛沫が岸壁から少し離れたところでも見えた。こうなっては木の下で雨宿りしていても濡れてしまう。さっきまで汗ばむぐらいの気温も、ぐっと下がって、リーリスは二の腕をさすっていた。


「このままじゃ風邪を引いちゃうかも」


 ナーエルがぽつりと漏らす。

 すると、カナリアが何か探し始めた。


「あれや!」


 指差す。ひと目見てわからなかったけど、目をこらすと大きな屋敷が見えた。


「よし。あそこで雨宿りしよう」


 引率のカリム兄様が魔法で明かりを灯すと、先頭を歩き出す。

 木の根に足を取られないように慎重に進んだけど、屋敷に到着した時にはみんなずぶ濡れだった。……といっても、海の中を泳いだおかげで、とっくにずぶ濡れだったけどね。


「カナリア、ここは?」


 僕は屋敷を改めて見上げた。

 かなり古い建物だ。最近では見かけない建築様式。

 おそらく200年以上は経っているだろう。

 外壁や屋根の一部が壊れているけど、定期的にはメンテナンスしているような痕があった。


「カンサイベーン侯爵家の旧館。今ではほとんど使ってない。たまに掃除ぐらいはしとるんやけどな」


 カナリアはドアノブを回そうとする。


「あかん。鍵かかっとる。たぶん屋敷や」


 屋敷とは、今のカンサイベーン侯爵家の屋敷のことを言ってるのだろう。

 ここからカンサイベーン侯爵家は距離として近いけど、高い岩壁に設置された階段を上らなければならない。馬車が通る道もあるらしいけど、そっちから回るとかなり遠回りなのだ。

 結論、距離は近くても、時間はかかる。

 だから僕らも屋敷に戻らず、林の中で雨をしのいでいたんだ。


「カンサイベーン侯爵家の持ち物なら入っても大丈夫だよね」


「もちろんや。ゆくゆくはうちのもんになるんやし」


「それって、まだカナリアのものじゃないってことだよね」


 僕は苦笑いで返した後、【解錠】の魔法を使う。

 屋敷のドアはあっさりと開いた。


 中に入ると、少し黴びた匂いがした。

 ただ埃っぽいけど、中が荒れたお化け屋敷みたいになっているわけじゃない。

 カナリアの言う通り、どうやら定期的に掃除はしているようだ。


 屋敷の居間へと行くと、カリム兄様が暖炉に火を入れてくれた。

 さらに得意の風魔法で熱気を、屋敷全体に送る。

 優しい暖かさが冷えた身体には心地良かった。


「これでよし、と……。ルーシェル、僕はカンサイベーン家の本家に戻って、馬車を手配してもらうようにするよ。しばらく彼らを預けていいかい?」


「はい。カリム兄さんもお気をつけて」


 僕が送り出すと、兄様は1度ニコリと笑う。

 風魔法で飛翔し、屋敷の方向へと飛んでいった。


 僕は【収納】からカラカラ草の葉を取り出す。

 一見枯れた草花に見えるけど、これでも立派な魔草だ。

 たった一枚の葉っぱで、小さな泉の水を吸い上げることができる。


 レティヴィア家で使っている布地ほどフワフワはしていないけど、雨水を吸うにはちょうどいい魔草だ。


「頭取の【収納】には、なんでも入っとるんやな」


「なんでもってことはないけどね」


「どや? 将来、うちと商売せぇへんか? 頭取が7、うちは3ってとこでどや?」


「どやって言われても……」


 その「7」とか「3」とか言われてもわからないよ。


 しつこくカナリアは迫ってくるので、僕は話題を変えることにした。


「カンサイベーン侯爵家って、歴史があるんだね。この家、たぶん200年以上前に建てられてるでしょ?」


「ようわかったな。頭取は建築にも詳しいんかいな?」


「え? いや、たまたま当たっただけだよ」


 さすがに300年前に生きてたからとは言えないよな。

 カナリアとはもっと仲良くなってからだ。


「うちも詳しくは知らんけど、昔魔族との大戦争があった時でも、この屋敷だけは残ったんや。うちのご先祖様は普段から人のため、国のため、社会のために商売してきたからな。だから神様が屋敷だけは残してくれたんちゃうかって、オトンからよう聞かされたわ」


「へぇ……」


「やったら、頭取。この屋敷を探索してみんか?」


「ええ!!」


 自分でも思っていた以上に声が出てしまった。

 カナリアはつり目をいっそう細めて、笑う。


「そんなことしていいの?」


「頭取、この屋敷のこと興味あるんやろ?」


「そ、そうだけど……」


「幸いなことにここに持ち主の関係者がおるし、幸いなことにうちも興味あるし。大人なしに入れたのは初めてや。まだうちも入ったことない部屋とかあるしな。たとえば……」


 そう言って、指を上に向ける。

 どうやらカナリアは屋敷の2階に行ってみたいらしい。

 あまりいいことではないけど、気になるのは確かだ。

 特にこの屋敷が、僕が生まれた頃にできたものなら尚更……。


「他のもんはどうや?」


「ルーシェルが行くなら」


 そっとリーリスが手を上げた。


「いいの? リーリス」


 割とこういう時は手を上げないと思ってた。

 すると、リーリスは僕に耳打ちする。


「ルーシェルが生まれた時にできた建物なんでしょ?」


 もしかしてリーリス、僕の背中を押すために参加してくれたのかな。

 いや、たぶんきっとそうだ。


 僕は「ありがとう」と礼を述べると、リーリスはニコリと笑った。


「ナーエルとカルゴはお留守番しとくんか?」


「ぼくも興味あるかな」


「か、カルゴまで。みんな行っちゃうの?」


 その時だった。一瞬パッと辺りが青くなる。

 次の瞬間、空を引き裂くような雷鳴が窓を震わせた。


『キャアアアアアアアアア!!』


 悲鳴を上げたのは、ナーエルだけじゃない。

 カナリアも、リーリスも頭を抱えて蹲った。

 カルゴも尻餅をついて驚いている。


「びっくりしたわ~」


「今の近かったね。でも屋敷は大丈夫みたい」


「で? ナーエル、どうするんや?」


 カナリアはニヤリと笑う。

 すでにナーエルの答えがわかってるみたいに……。



 ◆◇◆◇◆



 結果からいうと、屋敷の探索時間はそのほとんどが退屈極まるものだった。

 僕たちが恐る恐る2階に向かう頃には雨脚も弱まり、雷雲はすっかり遠ざかってしまった。南海の太陽に目を細めるほどではないけど、屋敷は明るくなっていく。

 さて、2階の様子はというと、これもまた空振りだった。

 部屋の中はほとんど抜け殻で、床に積もった埃以外に見るところはない。


 ただ僕はというと、少しノスタルジックな気分に浸っていた。

 やはり僕の屋敷が作られた時と年代は同じらしく、そこかしこにトリスタン家で見た建築様式が見られる。階段の手すりに、特徴的な獅子の木彫りが彫られているのを見て、懐かしがっていると、カナリアに声をかけられた。


「頭取は建築オタクなんか?」


「いや、そういうわけじゃ……」


 言えない。昔住んでた屋敷にも同じものがあったなんて。


「結局、何もありませんね。珍しい本でもあればと思ったのですが」


 どうやらカルゴは蔵書が目当てで探索ツアーに参加したらしい。

 ちなみにナーエルはずっとカルゴの後ろにくっついて離れなかった。


「さて、それじゃあ。最後はあっこの部屋やね」


 カナリアは奥の部屋に入る。

 その部屋は他の部屋とは違って、壁紙に色が付いた紙が使われていた。

 もうすっかり剥げているけど、名残がある。

 色の感じから、おそらく子ども部屋だろう。

 実際、他の部屋と比べても少し小さかった。


 とはいえ、他の部屋同様に何もない。


「なんやここもスカかいな」


「これで終わり? 終わり?」


「ああ。終わったよ、ナーエル。そろそろカリムさんが来る頃だろう。1階に戻ろう」


 カルゴがナーエルの手を引く。

 僕とリーリスはその後を追おうとした時、ふと立ち止まった。


「ルーシェル?」


 突然、立ち止まった僕を見て、リーリスは驚く。

 僕は何も言わず、魔法で鉄の槍を作った。

 ふと思い出したのだ。

 こういう部屋にはたいがい隠し部屋が設置されていることを。

 そうだ。僕の部屋にもあったんだ。


 天井を見上げると、何かを引っかけておくような金具を見つける。

 そこに槍を引っかけ、力いっぱい下へと降ろした。


 ドスン!


 大量の埃とともに現れたのは、階段だった。

 僕たちは何か導かれるように階段の先へと向かう。

 そこは屋根裏部屋になっていて、いくつか蔵書や古びたペンなどが置かれていた。


「すごいすごい! 頭取、これは大発見やで!」


「蔵書は割と最近のものみたいだけど」


 僕は机の中を探る。

 懐かしいなあ。僕が使っていた机にそっくりだ。


 引き出しを開けると、入っていたのは小箱だった。


「なんや、この大げさな小箱は?」


「もしかして」


「宝箱……とか?」


 思わずみんなと視線を合わせる。

 小箱は鍵がかかっていたけど、屋敷の施錠と同じく【解錠】した。

 僕の心臓はバクバクと音を鳴らしていた。

 怖いというより、ワクワクする自分がいる。


「これは紙?」


 小箱にあったのは、封をされた1枚の紙だった。

 封を解き、開いてみると、地図だ。

 地図には何かを示すようなマークが入っていた。


「もしかしてこれって……」



 宝の地図?


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挿絵(By みてみん)

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