第255話 思い出の泥団子?
☆★☆★ 「ククク」10巻発売記念更新 ☆★☆★
拙作「「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる」の10巻目が、昨日無事発売されました。小説・漫画合わせて、初の2桁巻になります。
書店やネット書店でお見かけの際には、是非よろしくお願いします。
「すまないな、ルーシェル」
連行されていくセレナ王女を見送った後、ロラン王子は僕に頭を下げた。
王子が頭を下げた意味がわからず、僕は目を瞬かせた。
「我が国が君主制である以上、貴族は君主を守るものだ。しかし、それに連なる者が犯人となれば防ぎようがない。王族と言ってもこんなものだ。折角、お前に父上を救ってもらったというのに」
「確かにセレナ王女やヴィクター王子のような方もいらっしゃるでしょう。でも、ロラン王子は違いますよね?」
「当たり前だ。余はあのような権力欲の権化ではない」
「それを聞いて安心しました。それに僕は褒美が欲しいとか、セレナ王女たちの企みを曝きたくて、陛下を救ったわけではありません」
「ん? ……貴族としての務めか?」
僕は頭を振った。
「ロラン王子が僕に言ってることですよ。僕たちは友達なんでしょ? 友達が困ってるなら助けるのは当たり前じゃないですか」
「なっ!」
「それに僕は嬉しいんです」
「嬉しい?」
「はい。ロラン王子はなんでも完璧にこなしてしまいます。だから、あまり僕やリーリスにお願いをされません。僕が知る限り、子ども祭の時と、目を治した時ぐらいでしょう」
「そ、そうか。余は色々お前には手伝ってもらってる気がするが」
「受け取り方の問題です。……そうやって頼ってもらえる。主従じゃないんです。友達だからこそ嬉しいんです」
僕がそう言うと、ロラン王子の顔が急激に赤くなった。
「そ、そんなものか」
「はい。そんなものです」
たぶん友達ってそういうものだ。主従でも利益でもない。
友達だから……。ただそれだけの理由で力になろうと思える。
僕がアルマに協力を依頼した時もそうだった。
アルマは二つ返事で応じてくれた。
僕はアルマの頭を撫でる。
突然撫でられて、アルマはちょっと困っていたけど、気持ち良かったのか、目を細めていた。
「不思議な奴だな、ルーシェル」
「300年生きてますから」
「純粋というか。人を裸にするのがうまいのだ、そなたは」
「は、はだか?」
「へ、変な意味ではないぞ。……王族に生まれた特殊な環境ゆえに、余は様々な姿を持っておる。しかし、そなたは余を丸裸にする。そなたの前だけ、余は本来のロラン・ダラード・ミルデガードでいられる」
「それはいいことなのですか?」
「勿論。余としてはありがたい。ありがとう、ルーシェル。今後も余の側にいてくれ」
「はい。陛下……」
ロラン王子は拳を僕に向ける。
最近学校で流行ってる親愛のポーズだった。
僕は拳を合わせる。
コツッ! と軽い音がした。
「このまま見送ってやりたいところだが、これから衛兵たちの取り調べが始まる。悪いが、ルーシェル。お前も付き合ってもらうぞ」
「はい。ただロラン王子、1つお尋ねしたいことが」
「なんだ?」
国王陛下が完治し、王族が2人も逮捕されて大変だけど、ロラン王子に確認しておくことがあった。
僕は国王陛下の謁見の時に料理を食べてもらおうと考えていることを告げる。
「なるほど。それに関しては問題ないだろう。それで、ルーシェルが聞きたいこととは?」
「お出しする料理について悩んでて。国王陛下が好んでおられる料理ってありますか?」
「父上の好みの料理か……。すまん。そのことについては、力になれないかもしれぬ」
「え? どうして?」
「余たちと陛下が一緒に食事を共にしたのは、片手で数えるほどしかないからだ」
「えええええええ!!」
思わず声を上げてしまった。
国の君主ということもあるのだろうけど、自分の家族とほんの数回しか食事を共にしたことがないなんて。いや、人のことがいえないか。僕もヤールム父様と一緒に食事したのは、手で数えられるぐらいしかない。
「それだけ毒殺に気を付けているということだ。陛下のお命は、今回だけではない。1分1秒、今この時ですら狙われているからな」
陛下は家族との団らんでほとんど食事はお召しにならないのだという。
安全なワインをずっと飲み続けているそうだ。
ずんと肩に何か重しのようなものがのったような感じだ。
おそらくそれが国王になるということなのだろう。
ロラン王子はその国王になろうとしている。僕と年が変わらないのに……。
「す、すみません、ロラン王子。陛下と一緒に食事をすることが、そんなにも大変なことととは知らず……」
「良い。王族と世話係ぐらいしか知らぬことだからな」
「いいんでしょうか、僕……。料理をお出しして」
「珍しく弱気だな、ルーシェル。料理のことになると見境がなくなるのに」
それはなんか語弊があるような気がするのだけど……。
え? もしかして僕って、周りからはそんな風に見られてるの?
「はっきり言って、あまり父との食事ではいい思い出がない……――――あっ!」
「どうしました?」
「いや、1つ父との思い出があってな」
「思い出?」
それはロラン王子がまだ物心を付く前の話だ。
その頃、王子は泥団子を作ることにご執心だったという。
「綺麗にできた会心の泥団子を父上に見せようと思ってな。執務終わりの父上を待ち伏せたのだ」
しばらくして陛下は執務室から出てきた。
かなり疲れた様子で、げっそりやつれていたらしい。そんな父に泥団子を出したロラン王子も王子だけど、今よりずっと子どもだったから、その時の王子の気遣いだったのだろう。
「それでどうしたんですか?」
「食べた」
「は? 食べたって、泥団子をですか?」
「疲れて朦朧としていたこともあったが、父上は余の泥団子を見て、有無も言わさずパクリと食べてしまったのだ」
なんてことだ。
ロラン王子が子どもじゃなかったら、衛兵に連行されていたのは、王子の方だったかもしれない。
「陛下は無事だったんですか?」
「当たり前だ。泥団子に毒など入れる器量など、その頃の余にはない。陛下はすぐに吐き出した。特に命の別状はなかったが、あとで余は乳母にこっぴどく叱られた」
当たり前だ。
「しかし、あの時の陛下は仕事の疲れがあったとしても異常だったな」
「泥団子を食べるぐらいですからね。あっ! もしかして……」
「気づいたか、ルーシェル。そうだ。父上は泥団子を何か別の料理と勘違いした。有無もいわさず食べるぐらいにだ」
「それが陛下の好物」
「可能性はある」
うーん。泥団子に似た料理か。
チョコレート、ライスコロッケ、黒ごまを使った団子……。
結構色々あるぞ。
「参考になったか」
「び、微妙です。でも、ありがとうございます」
「じゃあ、余はこれで。ルーシェルもあとで」
「すみません。もう1つ」
「今日は随分と余に絡むな。まあ、良いが」
「これは要望というより、提案なんですが」
「なんだ? 早く言え」
「王子……」
国王陛下のために料理を作ってみませんか?