表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
263/288

第252話 絶望の中の祈り

☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★


ヤンマガWEBにて更新されました。

サラマンダーが原作よりもいい感じになっているので、

是非読んでほしい!


挿絵(By みてみん)

 僕たちはノックもせずに勢いよく扉を開ける。

 踏み込んだのは、国王陛下の私室だっ。

 何事かと衛兵が槍を構えたが、僕の横にいるロラン王子の顔を見て、すぐに切っ先を下げた。


 唐突のロラン王子の帰還に病床の国王陛下と、典医や大臣たちが目を丸くする。

 煤だらけの王子の顔を見て、大臣はひっくり返りそうになったのを典医が慌てて受け止めていた。


 国王陛下の私室にいたほとんどの人が驚く中で、1人僕たちの顔を見て、笑った人がいる。


「遅かったな、ロラン」


 ヴィクター王子だ。

 側では薬医が書物を見ながら製剤の準備を始めていた。


 ヴィクター王子はわざわざこちらにやってきて、ロラン王子の前に立ちはだかる。さらに胸をそびやかすと、小さな弟王子を見下ろした。


「私の勝ちだ、ロラン」


 勝利を宣言する。

 その言葉を聞いて、僕はギュッと拳を握りしめた。1度助けを請うように国王陛下の方を見つめる。陛下もこうなった事態をうっすらと察しているのだろう。何も言わず、ただロラン王子と同じ青い瞳を閉じた。


「これで次の国王陛下は私だ。まっ。といっても約束したのは、お前とセレナだけだがな。だが、陛下のご病気を私が治した実績は、どんな武勲よりも讃えられるべきだ。国民が知ればさぞ喜び、私の名前は王宮を超えて響くだろう」


「さて。それはどうかな……?」


「減らず口を……。せめて湯浴みぐらいして来たらどうなんだ。それともボロボロなりを見せて、陛下に恩情をもらうつもりだったのか?」


「急いでいただけさ。それよりも兄上。フェニックスの肝臓はあるのか?」


「急くな。もうすぐ薬医がフェニックスの肝臓から薬を作るところだ」


 ヴィクター王子はテーブルに置かれた銀蓋を示す。


「確認したい。開けてくれ」


「はあ? 何を言って?」


「事は一刻を争います。ヴィクター王子」


「ルーシェル、時間がない。兄上、勝手に開けさせてもらうぞ」


「あっ……! 貴様!!」


 ロラン王子は大柄なヴィクター王子の脇を駆け抜け、銀蓋に手を伸ばす。

 しかし、その1歩手前でヴィクター王子の手で捕まえられた。


「貴様、何をする?」


「兄上こそ何をしている。離せ」


「離すものか。どうせ良からぬことを考えているのだろう」


「言ったろ。余は姉上や兄上のように権力争いに興味はない。だから、手を離してくれ」


「離すものか。まず理由を……」


「ルーシェル!」


 ロラン王子は叫ぶ。

 僕は王子を助けるわけでもなく、代わりに銀蓋を開けた。

 そこには赤黒くなったフェニックスの肝臓が皿の上に横たわっていた。


「ルーシェル、どうだ?」


 ロラン王子の質問に、僕は歯噛みする。

 手に入れた時、ルビーのように赤かった身は見るも無惨に赤黒くなり、張りもなければ照りもない。触ってみると、僕の手を溶かさんばかりに燃えさかっていた肝臓は、すっかり冷め切っていた。


「ダメです。この肝臓は使えません」


「使…………な、なんだと! 出鱈目を言うな」


 ロラン王子を突き飛ばし、ヴィクター王子は僕の胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。

 フェニックスの肝臓から離そうとしたけど、僕はピクリとも動かなかった。


 一方、地面にペタンと座ったロラン王子は呆然と覇気のない(ヽヽヽヽヽ)フェニックスの肝臓を見つめる。


 僕とロラン王子を交互に見ながら、ヴィクター王子の怒りは頂点に達した。


「恐れながら陛下。そのものたちが言っているのは、本当のことでございます」


 口を開いたのは、フェニックスの肝臓から薬剤を作ろうとしてた薬医だ。


「このフェニックスの肝臓はすでに壊死の段階にあります。このまま薬にしたところで、陛下がお腹をお下しになられるだけです」


「ふざけるな。それをなんとかするのがお前たちだろう」


「できませんよ」


 今度は薬医に掴みかかろうとするけど、僕が寸前で止めた。

 しばし僕とヴィクター王子は睨み合う。


「どういうことだ、小僧」


「フェニックスの肝臓の鮮度は極端に短いんです。専用の容器に入れないと、すぐに腐ってしまう」


「な、なんだと!」


 ヴィクター王子から怒りの気配が引いていく。

 僕はそれを証明するべく、フェニックスの肝臓をヴィクター王子の前に突き出した。

 鼻を近づける前に、その腐臭に気づいたヴィクター王子は顔を顰めた。


「馬鹿な……」


「あなたのせいですよ、王子」


「なんだと! 言わせておけば」


「ルーシェルの言うとおりだ!」


 ロラン王子が一喝する。


「フェニックスの肝臓の話が出てきた時、その取り扱いの方法まで兄上は知っておくべきだった! それならこんなことにはならなかった」


 ロラン王子は国王陛下がいるベッドの前で膝を突き、ついにはお尻をつけて項垂れた。


 ヴィクター王子は諦め切れず、薬医に迫ったけど、しかし誰にもどうにもすることができない。


「くそ! お前が悪いのだ。そういうことは先に言えば! いいか。国王陛下が、父上が死んだらお前のせいだからな、ロラン」


 小さな王子を罵りながら、慌てた様子で出て行った。誰もその横柄な態度に口を出す人間はいない。むしろ呆れかえる人たちがほとんどだった。


 誰も責任を負えない、負おうともしない。

 唯一そこに強く責任を感じているのは、陛下の私室で蹲っているロラン王子だけだった。


「王子…………!」


 痛々しい背中に僕は声をかけることすらできずにいると、静寂に包まれた中で1人動く人がいた。その人はゆっくりとベッドから下りると、裸足のまま近づき、ロラン王子の頭に手を置いた。


 頭を上げずとも、王子はそれが誰の手かすぐにわかったのだろう。


「陛下……。いえ。父上、申し訳ありません」


「良い。そなたは良くやった。……ルーシェルくんもありがとう。君たちがフェニックスの肝臓を取ってきてくれたのだな」


「はい。ですが……」


「仕方ない。……これもまた天命なのだ。神が決めたことならば、余もまた受け入れなければならぬ」


「陛下……」


「何も言わずとも良い。子に恵まれ、国民にも恵まれた。これ以上望むものは余にはない。聞けば、ルーシェルくんは呪いとうまく付き合っていたというではないか。少々厄介だが…………たえ…………」


「父上?」


「陛下?」


 国王陛下は突然胸を押さえながら苦しみ始める。


「うががががががが!!」


 ついには叫び始めた。


 まずい。発作だ。


「ルーシェル! これは……」


「落ち着いてください、王子」


 そう。落ち着いて対処すればいい。たとえ治らずとも、僕はこの呪いと長い年月付き合ってきた。陛下も処置さえすれば、元に戻るはず。


 僕は【収納】からスライム飴を取り出す。


「陛下、この飴を飲み込んでください」


 激痛に苛まれながらも、陛下は飴を口にして水を飲み、飲み込む。だが、症状は一向に改善されない。それどころか悪くなる一方だ。


「ルーシェル、どういうことだ? あの飴でよくなるのでは?」


「そのはずです」


 僕は今度は【天使の祈り】という回復魔法を使う。多少陛下の痛みを軽減できているようだけど、発作自体は続いている。おかしい。昔なら【天使の祈り】で発作自体は抑えられたはずなのに。


 もしかして『竜牙の呪い』じゃない?

 でも、症状は似ている。むしろ『竜牙の呪い』そのものが強くなっているように見える。呪いが勝手に強くなるなんてことはあるだろうか。


 ついに陛下は痙攣を始める。口から泡を吹き、危険な状態になってきた。典医も慌てて、心臓マッサージを始めるけど、効果はない。


 最中、ロラン王子は手を組んだ祈っていた。


「神様……。お願いだ。まだお父様を天国へ連れて行かないで。余はまだお父様に……、お父様に生きていてほしい。もっと頭を撫でて、褒めてほしいんだ。だから、神様。どうかどうか……」



 頼む……!


☆★☆★ 発売1週間前!! ☆★☆★


『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』が、4月25日発売です。

「公爵家の料理番様」が好きな方は気に入っていただけると勝手に思ってるので、是非読んで下さいね。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第2巻12月15日発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シーモア様にて2巻発売!
↓※タイトルをクリックすると、シーモア公式に飛びます↓
『宮廷鍵師、【時間停止】と【分子分解】の能力を隠していたら追放される~封印していた魔王が暴れ出したみたいだけど、S級冒険者とダンジョン制覇するのでもう遅いです~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シリーズ大重版中! 第7巻が10月20日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本7巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本4巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


コミカライズ10巻5月9日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる10』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス9巻 5月15日発売!
70万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新小説! グラストNOVELS様より第1巻が4月25日発売!
↓※表紙をクリックすると、公式に飛びます↓
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』書籍1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




3月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本3巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
追放王子、ハズレギフト【料理】を極める~最強のもふもふ国家で料理番を始めます。故郷の国が大変らしいのですが、僕は「役立たず」だったので関係ないよね~



『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



<『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ