第250話 ずっと言いたかったこと
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有料最新ではついに王子に正体がバレたルーシェル。
その時、ロラン王子が放った一言とは?
是非チェックしてくださいね。
フェニックスの強さは、火力だけじゃない。
その生命力、もっと言えば再生能力だ。おそらくそれは、自分の火力に揉まれながら、再生を繰り返したことによって培われたものだろう。多分だけど、たとえブルーシードがなくとも、フェニックスはいつか自分の火力以上の再生能力を手に入れて、本来の姿を取り戻していたかもしれない。
火山が雪山になるほどの状況で、フェニックスは氷漬けになった。この氷の牢獄はおそらく僕やアルマ、あるいはヤールム父様以外抜け出すことは難しい。策も弄さず、事前の準備もなく、ただ1点突破するだけなら、それはフェニックスしかできないはずだ。
「僕の【予知】によれば、フェニックスが完全に再生するまで6・5秒……」
その間にフェニックスの皮を剥ぎ、お腹を割いて、肝臓を奪取する必要がある。
僕は【収納】から包丁を取り出す。昔、対ドラゴングランドを倒すために自分で鎚った竜大剣『ドラゴンキラー』が元になっている。今の所、この包丁以上に斬れる刃物はない。
早速、【予知】の中で練習していた通りに、フェニックスの皮を剥ぐ。その皮は岩のように硬く、加えてシヴァさんの氷に覆われていたけど、元『ドラゴンキラー』は僕の期待にあっさりと応えてくれた。
【1・3秒経過】
切り裂いた皮を開く。すると、ヴォッと獣のような声を上げて、炎が噴き出した。まだ氷漬けになっている血管や骨、筋繊維もあるけど、ほとんど氷が溶け、活動を始めようとしている。
炎に怯んでる時間はない。
次にお腹を割く。
【2・7秒経過】
僕はフェニックスのお腹に潜り込むように入っていく。ルーシェル・グラン・レティヴィアを知らない人なら、この光景を見てギョッとするかもしれないけど、魔獣の中に入り込むなんて魔獣食を食べる僕には日常茶飯事だ。
「熱ッ!!」
暑くなってきた。
そう思った時には、僕はもう炎の中に囲まれていた。
シヴァさんの魔法によってかじかんでいた手が、いつの間にか赤くなっている。
思ったより再生が速い。
ブルーシードと、シヴァさんとの戦いを経て、フェニックスの再生能力が高まっているんだ。
「肝臓は?」
【4・1秒経過】
ここからが僕の【予知】でも確定できなかったところだ。色々なパターンを考えたけど、どれが当たりなのかわからなかった。
「怯むな! 手を動かせ!!」
そうだ。動かせ。
これはフェニックスを狩るための戦いじゃない。言わば料理なんだ。僕は勇者でも、国を救う勇者でもない。料理人だ。目の前に食材があって、立ち止まることなんて許せない。
もうお客さんは待ってないんだ。
「あった」
見つけた、フェニックスの肝臓!
人間や他の動物よりも、身体に対して小さいけど間違いない。
僕は手を伸ばす。
その時、赤い光が目を覆った。
肝臓が突然燃え上がったのだ。
「まずい!」
今度は再生が間に合っていない。シヴァさんに氷漬けにされて、そこから復帰するために多くの魔力を使ったからだろう。再生スピードよりも火力が勝り始めてきた。外でアルマにブルーシードを食べさせて、とお願いすれば済む話だけど、アルマは今ロラン王子から離れている。おそらく難しいだろう。
「【収納】を……」
いや、その時間すらおしい。
手掴みでいくしかない。
炎を纏い、その輪郭を失おうとしていた肝臓を掴む。
「熱ッ!!」
でも耐えられる。氷属性の魔法を纏えばなんとか耐えられるはず。
肝臓から繋がっている器官や肉を剥いでいく。
【6・1秒経過】
「脱出!!」
風属性の魔法を使って、僕は勢いよくフェニックスから飛び出した。とにかく脱出することだけを考えていたから、僕は火口付近の地面に激突する。すでに雪の大地は元の黒い岩肌に戻っていた。
「フェニックスの肝臓は……」
僕はお腹に抱えていた肝臓を見つめる。大きな石ぐらいの大きさの肝臓が、ぬるりとした感触と一緒に僕のお腹に乗っかっていた。
無事だ。僕はホッとする。
しかし、それはつかの間だった。
『ビャアアアアアアアアアア!!』
声を上げたのはフェニックスだ。
氷漬けから完全に回復し、火の粉をまき散らし、僕を威嚇する。3つの尾を揺らして優雅に飛んでいた火の鳥があらぶっているように見えた。肝臓を取られて怒っているのかもしれない。
といっても、その肝臓はすでに再生しつつある。いや、フェニックスの身体そのものは、再び当初の頃の炎の固まりになりつつあった。
『ルーシェル様!』
一瞬遅れてやってきたシヴァさんだ。
僕とフェニックスの間に入り、構える。
『主を傷付けることは許さぬ』
「大丈夫だよ、シヴァさん」
『ぬっ?』
フェニックスは再び嘶く。数度翼を羽ばたかせ、火の粉をまき散らした後、旋回しながらゆっくりと火口へと向かっていく。
炎の身体を癒すように火口の中へと静かに沈んでいった。
「ごめんね、フェニックス。君の肝臓……。大事に食べさせてもらうよ」
僕は拝み手をして、フェニックスにお礼を言う。
「シヴァさんもお疲れ様。疲れたでしょ? もう休んでいいよ」
『なんの……と言いたいところだが、今回はかなりのじゃじゃ馬……じゃじゃ鳥だったからのう。言葉に甘えよう。主殿もあまり無理をせぬように。そなたを失えば、大精霊様にどやされるからのぅ』
「うん。ありがとう」
じゃ……、手を振ると、シヴァさんは大気の中に消えていった。
「終わった…………かな」
「ルーシェルぅうううううう!!」
僕の顔面に抱き付いてきたのは、アルマだった。モフモフの毛を擦りつけながら、僕の目の前で泣きじゃくる。いつもは僕のことをからかうことに人生を賭ける相棒が、今日だけは違うらしい。
でも、個人的にこの状態は天国なんだよなあ。
もう返事せずにこのままでいたい。
うーん。仕事した後のモフモフは格別だ。
「大丈夫だよ、アルマ」
「まったく……。人間の里に戻っても、無茶するのは変わらないんだから」
「ごめんって」
「なるほど……。ルーシェルの自己犠牲が強いのは、昔からか」
「ロラン王子……」
ゆっくりと僕の方に近づいてくる。
フェニックスがいなくなり、さらにシヴァさんの力によって、この辺りの熱の温度がかなり下がっていた。だからロラン王子でも大丈夫なのだろう。
僕は起き上がろうとしたけど、それをロラン王子が止める。
「良い。無理するな。それよりも……」
ロラン王子は僕の手を取る。それは肝臓を掴んだ手だった。重度の火傷を負っていて、ボロボロだ。あと1秒遅かったら、骨まで溶けていたかもしれない。
「無茶しおって……。余はここまで望んでおらぬ」
「え? でも国王陛下が……」
「……1度しか言わぬからよく聞け。国王陛下も、父上も大事だが、それと同じくらい余はそなたのことも大事だと思っている」
「王子……」
「こんな心臓に悪いことはやめてくれ……とは言わぬ。せめてやる前に、余に相談してくれ」
「…………はい。ご心配をおかけしました」
「やっと言えた」
「え?」
「なんでもない。それよりもルーシェル、ありがとう。よくやってくれた」
ロラン王子は僕が抱えていた肝臓を取り上げる。
かなり重いけど、普通の子どもよりも鍛えた王子なら、さほど重たくはないはずだ。
「それにしてもすごいな、フェニックスの肝臓は。これは俺のものだ」
そしてロラン王子は口角を上げる。
その瞬間、僕はようやく胸騒ぎを感じた。