第25話 300年の出来事
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僕が山へと追放された後、大きな戦争が始まった。
最初は国家間の小競り合いだった争いは、各地に飛び火し、たちまち戦火は広がっていった。
『連合軍』と『聖王軍』という名前で分かれた戦争は、約30年以上続く。
互いに死力を尽くす中で、明らかになったのは魔族の存在だった。
人族、獣族、エルフ、ドワーフ、小人族――――そして魔族。
魔族は先に挙げた種族と長年争い、時々人間の政治の場に出てきて、混迷をもたらしてきた種族だ。
賢く、狡猾で、不死に近い肉体の代わりに、生殖能力がほとんどないのが特徴だ。
その魔族が、人間の始めた戦争の火種を作っていたことがわかったのだ。
だが、それがわかった時には遅かった。
人類側は疲弊しきり、唯一数の上でも優位であった立ち位置も、多くの戦死者を出してしまったことによって、手放してしまった。
そこから魔族の攻勢が始まった。
人類側は劣勢に持ち込まれることとなったが、懸命に戦った。それでも質においても、数においても勝る魔族が押し込むと、人類の中から魔族に恭順の意を取るものが現れた。
それが――――。
「それがトリスタン家の当時の【剣聖】だ」
「そんな……」
話を聞く限り、父上じゃない。
父上なら絶対魔族に下ったりはしない。
恐らく僕の弟か、子孫の誰かだろう。
「さすがに私も当時の【剣聖】がどんな人間だったかは知らない。だが、その【剣聖】は間違いなく、国とその民を捨て、自分の家族だけを連れて魔族に下った」
「それからどうしたんですか?」
【剣聖】の存在は、民草にとっての唯一の希望。
兵士にとっても、【剣聖】の後ろ姿は辛い戦場を駆け抜けることができる、勇気の源泉となっただろう。
それが自ら敵側に下るなんて。
「察しの通りだ。人類側は総崩れになった。それどころか【剣聖】に続き、各地で魔族に下った者も少なくない」
「魔族に下った人はどうなったんですか?」
「詳しいことは私も知らぬ。だが、どうやらその【剣聖】がとりまとめたらしい。そして奴は魔族の中にありながら、人間の国を作ってしまった」
「魔族の中の人間の国??」
「それがトリスタン王国……。ここより海を隔てた向こうにある国だ。そこでは、人間は奴隷のように扱われ、子々孫々まで虐げ続けられているらしい」
「そんな……」
その後、戦争は魔族に一気に傾くかと思われたが、そうはならなかった。
聖霊リアマインが降臨し、人類側についた。
聖霊とはすなわち神様だ。
「そのリアマイン様が持ち込んだ兵器によって、我々は劣勢の戦いを優位に進むことができた」
なるほど。僕が240年前に見たあの光は、魔族を殲滅するための神様の武器だったわけだ。
「魔族は駆逐され、残りは皮肉なことにトリスタン王国に匿われた。今や、あの国は大きな結界の中に囚われ、世界中の監視下にある」
「先人たちのおかげで、今はとても平和な世の中になっています。安心していいよ、ルーシェル君」
「……そうですか?」
僕は俯いた。
すでにトリスタン家には僕を知るものはいないだろう。
それでも、自分の家が魔族に荷担し、未だに人類側に戻ることなく反旗を振りかざしていることに、僕の胸はざわついた。
「気になるかい?」
「はい……」
「だが、辛いだろうが忘れた方がよい。今、あの一族と君が出会うことは得策ではないだろう」
「それは何故ですか?」
「君の力が魔族に利用されるかもしれないからだ」
「――――ッ!!」
クラヴィスの言う通りだった。
今やトリスタン家は敵側だ。
仮に僕が生きていて、類い稀な力を持っていると知れば、甘言を用いて僕を仲間に引き込んでくるかもしれない。
クラヴィスさんはそれを危惧しているのだろう。
仮に、僕がクラヴィスさんやフレッティさん、リーリスお嬢様に刃を向ける日がくれば……。
考えるのはよそう。あまりに残酷すぎる。
「魔族は狡猾で、賢い。すでに結界を破り、少人数ながら人間社会で暗躍しているという噂もある。出来ればルーシェル君のその力……。あまり人前で使わない方がいい。どこで魔族が見ているかわからないからな」
「わかりました……」
僕が項垂れると、クラヴィスさんは僕の頭を抱きしめた。
「案ずるな。我々が君を守ろう」
「閣下の言う通りです。我々もいる。安心しろ、ルーシェル君」
馬車の横で併走するフレッティさんが、ドンと胸を叩いた。
「ありがとうございます」
ようやく身体に入った力を抜く。
でも、逆に魔族がクラヴィスさんやフレッティさんに危害を加えるなら、僕は迷うことなく、この力を解放するだろう。
顔を上げると、ふとリーリスお嬢様と目が合った。
――と思ったらすぐに目をそらされる。
嫌われているのかな? でも、僕の方を見ると言うことは、一応興味は持ってもらえているのだろうか。
その謎は、馬車がレティヴィア家の屋敷に到着しても、解かれることはなかった。
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