第247話 VSフェニックス!
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火口にたまったマグマがグッと持ち上げられる。直後、大きな火柱――マグマの柱が立ち上った。火山の噴火を思わせるけど、少し違う。火花をまき散らしながら、それは白黄色の翼を広げた。
『ヒロロロロロロロロロロロロッ!!』
独特の鳴き声がヒロブモブルの峰に響き渡った。
「これがフェニックス……」
「なんて綺麗なんだ」
鋭く尖った嘴に、長い首の裏で燃えさかる炎の鶏冠。目はなく、はっきりとした輪郭を持つ身体もない。ただただ炎に覆われていて、どこかぼやけた姿をしていた。
ただ伝承通り、尾は3つに分かれていて、赤い線を引くように揺れている。
アルマの言葉通り、その姿は綺麗で美しく、声は悲しいほど儚げだった。
「ルーシェル! 見て!」
「ブルーシードが……」
竿の先につけていたブルーシードが食べられていた。
なんだったら、竿ごと消えている。
「食べられたんだ、フェニックスに」
「いつの間に……。あいつ、ただものじゃないぞ」
僕たちは生命の頂点というべき最強のドラゴン――ドラゴングランドを討伐した。おそらくあいつより強い魔獣はこの世にはいないだろう。でも、フェニックスから放たれる覇気や殺気は、ドラゴングランドと同等あるいはそれ以上のものを感じる。魔獣生態調査機関『ギルド』のランクでいえば、『S』以上と考えられる。
「久しぶりに本気を出さないとだな、ルーシェル」
「そうだね。でも、アルマ。僕たちの目的はフェニックスを倒すことじゃないよ」
僕たちの目的は『フェニックスの肝臓』を持ち帰ることだ。
そこをはき違えてはいけない。
『ヒロロロロロ!!』
火の粉を散らし、羽ばたいていたフェニックスがついに動く。僕たちと同様に、フェニックスも僕たちの戦力の品定めしていたのだろう。それが終わり、ついに襲いかかってきた。
「いや、違う! ブルーシードだ」
アルマは地面に放置していたブルーシードの袋を指差す。
フェニックスは真っ直ぐそこに向かってきていた。
【俊敏性強化】【回避強化】【魔法強化】【魔法補助上昇】【部位強化】
魔法によって、僕は極限まで移動速度を高める。結果、7歳の子どもとは思えない速度で火口の縁を駆けると、【火蜥蜴の皮袋】に入ったブルーシードへと手を伸ばす。
が――――。
「間に合わない?」
速い! 魔法で強化した僕より、フェニックスの方が速い?
【時間停止】
呪文が聞こえる。その瞬間、フェニックスの動きが一瞬止まった。間髪容れずに僕はブルーシードが入った袋を奪取する。
危なかった。もう少しでフェニックスに取られるところだったよ。
「ありがとう、アルマ」
「油断するな、ルーシェル。あいつ、思ったより手強いぞ。ボクの【時間停止】が少しの間しか通じなかった」
「魔法に耐性を持っているかも……。だとしたら、厄介だね」
まだドラゴングランドを食べる前ならまだしも、今の僕の身体は5歳の頃のままだ。腕や足、脚の裏から頭のてっぺんまでの背丈は勿論のこと、魔法自体の出力も限られている。
それでも、これまで経験を詰んでどうにかトラブルに対処してきたけど、相手はドラゴングランド並みの強さを魔獣……。まともにやりあっては、さすがに勝てない。
「来た!」
アルマが叫ぶ。
フェニックスは噴煙が煙る下で孤を描きながら飛翔すると、僕たちの方に突撃してきた。
「アルマ」
「わかってる。合わせろ」
【【 連氷弩 】】
呪文を合わせて魔法を放つ。
僕たちの手から、氷の矢が解き放たれた。それぞれ僕たちは補助の魔法もかけている。1本1本の矢はもはや大きく、太い槍となってフェニックスに襲いかかる。
『ヒロロロロロロロッ!』
フェニックスは急停止する。
その勢いを残したまま高速で翼をはためかせた。辺りの熱気をかき混ぜると、翼を中心に炎が巻き起こる。そのまま渦を巻いた炎は僕たちが作った氷の矢を溶かし、頭上に降り注いだ。
「熱ッ! 熱ッ!」
僕はあらかじめ脚力を強化していたので回避できたけど、アルマは1歩遅れる。自慢のモフモフの毛に火が付いて、慌てて地面を転がった。
「あの野郎、自慢の毛をよくも!」
その場で地団駄を踏む。
怒っていてもアルマはアルマ。
ロラン王子が見たら、きっと「可愛い」と喜んだに違いない。
『ヒロロロロロロロ!』
フェニックスは再び鳴く。
その回りに生まれたのは、炎の矢だった。
赤く、マグマを固めたような矢の攻撃は先ほどと同様に、僕たちの頭上から降り注いだ。
「あいつ、魔法まで使えるのか!」
「知能が高いんだね」
魔獣の中には魔法が使える種族がいる。
総じてそういう魔獣ほど賢く、戦いに戦術の匂いがする。
フェニックスの戦術は至ってシンプル。
僕たちから距離を置き、ねぶり殺しにするつもりだ。
「じゃあ、魔力の枯渇を待つ。空中戦は向こうの思う壺だと思うけど」
「見るからに強そうだもんね」
かといって、魔力の枯渇を待つも悪手だろ。【竜眼】で確認したけど、フェニックスには【熱吸収】と【熱吸収(魔力)】のスキルが存在する。名前の通り、熱を吸収し、自分の体力と魔力を回復させるスキルだ。
熱というものは、火山地帯一帯にいくらでもある。今、こうやって分析している時すらフェニックスは回復を続けているのだ。
自信がなかったわけじゃない。
でも、ここまで手強いとは完全に予想外だった。
「どうする、ルーシェル? こっちも本気を出せば、勝てない相手じゃないと思うけど」
「いや、それはまだだよ。忘れたのかい、僕たちは肝臓を取りに来たんだぞ」
「言われなくてもわかっているよ。でも、あいつは大人しく診察台に寝転がってくれるワンちゃん見えるかい?」
「アルマだって、注射は嫌いだろ」
「知らないよ、そんなの。打ったことがないんだもの」
「ともかくこういう時は【知恵者】さんにご相談だ」
【知恵者】
「ここからどうすればいいの?」
『引き続きブルーシードを食べさせてください』
「そんなのでいいの?」
『ブルーシードを食べさせれば、現状〝幻体〟といわれるフェニックスの身体が――――』
「難しい話はいいよ。とにかく食べさせればいいんだね」
そういうことなら話は早い。フェニックスの狙いはブルーシードだ。
僕とアルマは二手に分かれる。それぞれブルーシードを手に持って、フェニックスを困惑させた。
「そ~れ。フェニックス、こっちだぞ」
「こっちのブルーシードは~♩ あ~まいぞ♪」
フェニックスは僕たちが1本ずつ投げたり、置いたりしていくブルーシードを食べて行く。いや、食べて行くというよりは、炎で飲み込んでいくといった方がいい。
「ねぇ。フェニックスなんだか大きくなってない、ルーシェル」
「うん。確実にね。それに……」
それまでフェニックスの炎をそのものだった。まるでフェニックス自体が、炎に巻かれているような……。
「本当にブルーシードを餌にするだけで、肝臓が取れるの?」
「餌……。肝臓……。なんだかフォアグラを作ってるみたいだね。…………あっ!」
「ルーシェル?」
そうか。なんとなくわかった。
フェニックスの正体……。
そして何故ブルーシードが必要なのか。