第245話 相棒参戦
☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★
本日ヤンマガWEBにて最新話が更新されました。
有料版ではついにルーシェルの秘密が? 緊迫回です!
3月18日にはコミックス第6巻も発売されます。
魅惑のお菓子の家もございますので、是非ご堪能ください。
「これがルーシェルの相棒?」
ドラゴンに変身した僕の背に乗って、以前僕が住んでいた山にやってきたロラン王子は元相棒を見て、固まった。
「ふふん。人間よ。ボクの愛らしさに驚いたかい。見よ、このモフモフの毛、可愛い肉球、そしてこのチャーミングな髭……!」
「アルマ、言ってて悲しくないの。君、仮にも魔獣だよね」
人間を恐れさせてなんぼみたいな存在なのに……。
そもそもアルマはこの山の主だ。
可愛い要素はむしろマイナスだと思うのだけど。
「いいじゃないか。ボクが可愛いことは事実なんだし」
昔はどっちかというと可愛いって言われると、怒ってた気がするけど。
最近、山の主から神様に変わったから、心境の変化があったのかもしれない。
あるいは人間に何か言われたのかもね。
やれやれ……と首を振っていると、ロラン王子は囁いた。
「おい。大丈夫か、ルーシェル。クアールの幼体ではないか。我らが……いや、お前が相手するのはフェニックスだぞ」
「聞こえてるよ、君」
アルマは耳をぴくぴく動かしながら、ピシャリと言い放つ。
「舐めないでほしいね。こう見えて、君の100倍とは言わないけど、50倍は長く生きているんだから」
「え?」
ホントか? というふうに、ロラン王子は僕の方を向く。
勿論、頷いておいた。
「信じられないなら、王国の騎士団とやらを連れてきなよ。全員一網打尽にしてやるから」
「いや、すまん。ルーシェルが相棒というのだ。その力は本物だろ。しかしだ」
ロラン王子はアルマを繁々と診察でもするかのように見つめる。
「な、なんだよ」
「お前に、頼みたいことがある」
ロラン王子は割と真剣な顔で言った。
◆◇◆◇◆
「ふおおおおおおお! なんという抱き心地だ。自分でいうだけあって、すごくモフモフしてるし、この肉球もたまらぬ。スーハー! スーハー!」
再び僕はドラゴンに変身し、ロラン王子とアルマを乗せて山から飛び立つ。
目指すはフェニックスがいるという言い伝えがあるヒロブモブル火山へと向かう。
「ちょ! もういいだろう! くっつくな」
「良いではないか。良いではないか。もう少し! もう少しこのまま抱かせてくれ、アルマ」
「君……えっと、ロラン王子だっけ? なんかさっきと態度が違くない? もうルーシェル、なんとかしてよ」
「なんとかしろって……。僕は今、ドラゴンの姿だからどうしようもないよ」
「じゃあ、ボクがドラゴンになるよ。頼む、代わって――――」
「どこへ逃げるのだ、アルマ。こんな狭い背の上ではな逃げ場はないぞ」
「いやあああああああ! 助けて、トーイ!」
冬の空にアルマの叫び声が響く。ちなみにトーイというのは、アルマの奥さんの名前だ。それにしてもあんなに困っている姿を見るアルマは初めてかもしれない。僕はいつも相棒に皮肉られている方だから、ちょっと胸がスッキリする。いや、かなりスッキリしているかもしれない。
道中は終始アルマの鳴き叫ぶ声が響いていたけど、長くは続かなかった。
ドォン!
突然、何千という大砲が一斉に放たれたような音が響いた。
空に火の粉……いや、溶けた溶岩の塊が打ち出され、噴煙が広がっていく。
僕は急回避して、難を逃れる。けれど、ムッとした熱気は逃れようがなかった。
「あつっ!」
僕やアルマは魔獣食に熱耐性があるけど、ロラン王子はそうもいかない。
「一旦地上に降ります」
僕は一旦地上に逃れる。
【竜変化】を解くと、すぐに【収納】から【火蜥蜴の衣】を取り出すした。
熱や炎から身を守ってくれる優れた防具だ。
「ロラン王子、これを着てください」
「すまぬ、ルーシェル。それにしても――――」
ロラン王子は目の前に広がる光景を望む。
そこには、鼠色の煙を上げる3つの火山が聳えていた。
火口からは地獄の釜の蓋を開けたような溶岩が噴き出し、空を夜に変え、周囲を赤い昼に変えている。以前、僕は溶岩魔神を倒したことがあって、その時にも火山に赴いたけど、その時とはまた別の空気を感じていた。立っているだけで額から汗が吹き出るのに、瞳に映る3つの火山の姿は身が凍えるほど恐ろしいものだった。
僕は300年以上生きてきた。それでも自然の姿や、その長い年月に比べればちっぽけなものにすぎない。
「ロラン王子、大丈夫ですか?」
「ああ。それにしてもすごいな、この魔導具は。全然暑くない」
「それは良かった」
「いや、ちっとも良くないぞ、ルーシェル」
硬い声でアルマが僕に忠告する。
その瞳は、僕を見ていなかった。
振り返ると、そこにはフルプレートの鎧の上から真っ黒なローブを身に纏った騎士たちが立っていた。フルフェイスの兜のおかげで、人相まではわからない。いや、そもそも人なのかどうかすら定かではなかった。
「何あれ? 王子様の知り合いかい?」
「いい質問だ、アルマ。関係者であることには違いないようだが、余を慕ってくれている者ならば、あのような殺気は振り撒くことはなかろう」
騎士たちは王子を護衛するためにやってきたようには見えなかった。
ロラン王子の言うとおり、まるで匂い立つような濃厚な殺気を放っている。
人間というよりは、どちらかといえば魔獣に近い。
「ロラン王子、この騎士たちはやっぱり」
「ヴィクター……いや、こういう手の早いところはセレナ姉様だろうな。大方、ここで余を殺害するつもりだろう。危険な火山地帯で行方不明と聞けば、暗殺されたとは誰も考えまいよ」
あまり考えたくないことだったけど、僕の予感は当たってしまった。
次期国王になりたいからって、弟を殺そうとするなんて。
ロラン王子は心の底からお父さんを助けたいと思っているだけなのに。
「落ち着けよ、ルーシェル。ここはボクに任せておきな」
「アルマ……」
「君は【竜変化】で魔力を消耗した。フェニックスと戦うまでは、その残した貴重な魔力を有効活用しないと。それに王子様の前で見せてあげないとね。ボクがただ可愛いだけの魔獣ではないことを」
アルマは可愛く短い手足を目一杯伸ばしながら、火山の地面を駆けていく。
騎士たちの攻撃を軽くいなしてみせた。
のけぞったところに、アルマは魔法を叩き込む。
【風爆撃】!!
騎士たちの中心で、風の爆弾がはぜる。
そのまま騎士たちは悲鳴も上げるまもなく、吹き飛んでいった。
一瞬の攻防に、ロラン王子は声も上げられず、固まる。
件のアルマは僕たちの方に振り返った。
「まっ! ざっとこんなもんさ」
得意げに自慢の髭を撫でるのだった。