第242話 お姉様からの勧誘
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コミカライズ最新話がヤンマガWEBで公開されました。
有料版では久しぶりにルーシェルとリーリスのほのぼのしたお話。
無料版では納涼祭が終了です(こっちもしみじみ)
どっちも面白いので是非よろしくお願いします。
「どのような御用ですか、ヴィクターお兄様、お姉様」
言葉尻こそ丁寧だけど、ロラン王子は明らかに警戒していた。むしろ怒っていると言っていいかもしれない。いつも穏やかな青い目が釣り上がり、僕に兄姉と紹介した王子と王女を睨み付けている。
子どもとは思えない気迫だけど、そこは同じ王子と王女だ。ロラン王子の鋭い視線をあっさり跳ね返すと、ヴィクター王子は鼻息を荒くして睨み返し、セレナ王女は薄く笑みを浮かべた。
「自分の父親が、ましてこの国にとってもっとも大事なお方が病床に就いたのだ。子どもとして、政に関わる者として当然だろ」
「その割には随分と遅くはありませんか?」
「王宮でのほほんと暮らしているお前とは違って、我らには職務がある。それも国王陛下直々に賜った、な。お前はそれすら侮辱するのか?」
「いいえ。私が言いたいのは、別の職務のことですよ、兄上」
「ふん。何を言っているのかわからぬな」
ロラン王子の眼光を見ても、年上の王子は鼻で笑うだけだ。
2人のやりとりを眺めていると、僕の顔に影が差した。横を見ると、セレナ王女が僕を見下ろしていた。
「坊やどなたかしら? こんな子、いた?」
「その者はルーシェル・グラン・レティヴィア。レティヴィア公爵家の次男で、私の友人です」
「レティヴィア公爵家の次男? あそこはカリムという長男がいたわよね」
ロラン王子が固まる僕の代わりに答えると、セレナ王女は僕を見ながら首を傾げた。
「それに、あそこはエルフの家系でしょ?」
「ルーシェル・グラン・レティヴィアと申します。その……僕は養子でして」
「養子……。なるほど。つまり元は平民だったというわけね」
「いえ。実は……」
「汚らわしい。近づかないでくれる」
口から鞭でも出てきたのではないかと思う程鋭い王女の声に、僕は思わず黙ってしまう。
それにしても家族が揃ったというのに、随分と物々しい空気だ。
一家団欒からはほど遠く、戦場にいるようだった。
王族の空気感は、以前ロラン王子が毒を盛られた時から何となく察している。でも、僕が思っている以上に殺伐としていた。
「やめないか、お前たち」
見かねた国王陛下が口を挟む。小さく吐いたため息は、なるべく自分の子どもたちに悟られぬようにするためだろう。陛下の気苦労が少しわかるような気がした。
「セレナ、ヴィクター、何用だ」
「お父様まで、それをお尋ねになるのですか?」
「父上が倒れたと聞いて、病床に見舞いにきたのですぞ、姉上と私は」
「ならば、もう良かろう。余はもうこの通り元気だ。見舞いが済んだのなら、それぞれの職務に戻るがいい」
「お父様。私はお父様のことが心配で」
「私も国王陛下のことを心配しておりました」
「何よ、ヴィクター。私の方こそ……」
「いや、これだけは譲れないね、姉上。私が1番国王陛下を……」
ついには口喧嘩が始まる。
醜い兄姉喧嘩に、ロラン王子は見てられないとばかりに、視線を切った。
「喧嘩なら余所でやれ。そもそもここはお前たち政治屋が来るところではない。お前たちがやっている忌まわしい権力闘争の場所ではないのだぞ」
アウロ国王陛下は一喝する。
さすがの貫禄といったところだろうか。
セレナ王女も、ヴィクター王子も黙ってしまった。ロラン王子も驚いている。きっとこうして国王陛下が声を荒らげるのは、珍しいことなのかもしれない。
借りてきた猫のように大人しくなった王子王女を見て、僕はちょっとだけ胸がスッとした。
「失礼しました、父上。ただ私もヴィクターも、父上が病に伏せったと聞き、気が動転しているのです」
「そうです。気が昂ぶっていて、ついロランにきつい態度を……」
怒髪天を衝かんばかりに猛るアウロ国王陛下を諫める。
このままじゃ本当に陛下の身体に悪そうだ。
「場所を変えませんか?」
「ルーシェルの言うとおりだ。父上の顔を見られたなら、もう十分だろ」
シッシッとロラン王子は手を払う。
「私はいいわよ。あとはルーシェル君に聞きたいだけだし」
「僕に……?」
セレナ王女、何の用だろう。
ちょっと怖いかも。
◆◇◆◇◆
一旦陛下の自室を辞すると、セレナ王女は開口一番こう言った。
「聞いたわよ、あなたたち。国王陛下はご病気じゃなくて、呪い――。そしてその呪い解くには『フェニックスの肝臓』が必要だって」
「姉様、話を聞いていたのですか?」
「ロラン、知ってるでしょ? 私の耳の良さを……。こういうことも知ってるわ。この子――ルーシェル君の秘密とか」
僕とロラン王子は同時に息を呑む。
ルーシェル・グラン・レティヴィアの秘密って、まさか……。
僕とロラン王子の反応がさぞかし面白かったのだろう。セレナ王女は口端を緩め、さらにぺろりと唇を舐めた。
「私、見ちゃったのよね。この子が父上を助けたところ」
ああ。そういうことか。
あの場にいたというなら、仕方ない。
「ロランが手元に置きたがるのもわかるわ」
「違う! ルーシェルはそんなんじゃない!」
「そういうことにしておきましょ。――――で、面白いこと言ってたわね。『フェニックスの肝臓』だとかなんとか」
もう聞き耳を立てていたとか、そういうレベルじゃないな。セレナ王女殿下は知っている。国王陛下の私室で、僕たちが喋っていたことを。
「察するに、それを手に入れるためにはフェニックスと戦わなければならない。しかし、そのフェニックスと戦うには、少々戦力を足りない。違う?」
違わない。
僕1人ではフェニックスからその肝臓を抜き取ることは難しいだろう。
「何を考えているんだよ、姉貴」
横でずっとセレナ王女の話を聞いていたヴィクター王子も、その気の回しように何か不気味に思ったらしい。まるでお化けでも見たように顔を青白くさせていた。
「シンプルなことよ。私と組まない?」
ルーシェルくん❤
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