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第239話 思わぬ因縁

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「うーん……。あー……。違う。そうだ! ああ。でも、なあ……。やっぱりダメだ」


 1枚の紙をクシャクシャにしてしまった。紙は貴重で作るのに時間がかかる。投資の対象にすらなっているぐらい価値あるものだ。当然丸めるなんて論外だった。


 僕はやってしまった後に気付き、急ぎ広げる。魔法で直すことは可能なのだけど、紙に書いたメモを見て、また絶望してしまう。ついに炊事場にある机に突っ伏してしまった。


 朝と昼の慌ただしい時間を終えて、クラヴィス家の別荘にある炊事場は、しばしの休憩を迎えていた。ソンホーさんは日課の散歩に出かけ、ヤンソンさんはお昼寝をしている。


 ジーマ初等学校に行き始めてから、炊事場の手伝いは朝だけに留めていたけど、数日前から冬休みになり、今は朝昼晩と炊事場に立って、ソンホーさんやヤンソンさんの手伝いをしていた。


 どうやらクラヴィス父上は、今年の冬を別荘で過ごすつもりらしい。レティヴィア公爵領と違って、王都の周りは比較的温暖だ。寒さに弱いユランに勉強してもらうためにも、ここに残ることにしたらしい。


 何より父上が王都に残ることに決めたのは、僕のためでもある。


 国王様に謁見するにあたり、魔獣料理を出すことになったからだ。しかも、近く行われる新年祭にて振る舞われる料理の一品として加えられることとなった。国王様に自分の料理をお出しするだけでも名誉なことなのに、新年祭に振る舞われるとあっては、生半可な魔獣料理は出せない。

 それにきっとその料理は、色んな人の目に入ることになる。魔獣料理がみんなに親しみやすく、かつおいしいという印象を持ってもらうチャンスにもなるだろう。


 僕は気合いを入れて、レシピを考えているのだけど、今の所空回りしている状態だ。色んな食材が頭に浮かんでは消えて行く。いや、まだそこまでは良かったんだ。今は肝心の料理のアイディアすら出なくなってしまった。


「どうしよう……わっ!」


 背もたれのない丸椅子の上で胡座をかきながら考えていたら、誤って滑り落ちてしまう。ドスン、と重たい音が炊事場に響くと、外でハンモックに揺られ寝ていたヤンソンさんが、慌てて炊事場に入ってきた。


「おい。大丈夫か? すごい音がしたぞ?」


「だ、大丈夫です」


「珍しいな、ルーシェルが椅子から落ちるなんて」


 ヤンソンさんは炊事場にあった丸めた紙を見つける。広げるとそこに書いていたレシピを読んだ。


「ははん。原因はこれか。まだ王様に出す料理を悩んでいたのかよ」


「はい……。なかなかこれってのが決まらなくて」


「親方には相談したのか?」


「ソンホーさんですか? しました。でも『お前が自分で言い出したことだ。お前が思う通りにやれ』って」


「親方の真似をしてる場合かよ」


 ソンホーさんの声真似をするのだけど、ヤンソンさんにはややウケだったらしい。


「ヤンソンさんなら何を出しますか?」


「知るか。ご当主様に自分の料理を出すだけでも恐れ多いのに、国王様なんて想像もつかねぇよ」


「ですよね」


 僕が頭を抱えていると、兄弟子はやれやれと首を振って、助け船を出してくれた。


「じゃあ、これヒントっていうか、昔親方から言われた言葉なんだけど、大事な料理ほど早く決めろ――なんだとさ」


「早く決めろ?」


「料理ってのは手間と準備がかかる。肉はとってすぐ食べるよりも、熟成をさせてから食べる方がおいしいだろ。それは魚や野菜、果実もそうだ。……さらに調理法や、当日どんな皿に載せられるか、調理場から宴会場までどれぐらいの時間がかかるか、そういう下見の時間も必要になる」


「なるほど」


 いい料理を作ろうと思ってばかりで、プロセスに至るまでの時間のことを僕は全く考えていなかった。新年会までは3週間弱ぐらいはあるけど、むしろ1から食材を用意するとなると、時間が短いぐらいだ。


「これも親方の受け売りだけど、レシピを作るのは1から考えるよりも、与えられた時間を逆算して考える方が閃きやすいんだとよ」


「なるほど。その時間内にしか作られないと考えれば、メニューや使う食材が狭まりますからね」


「そう。その中から最適な一皿を探す。それが俺たち料理人の役目だ」


「ヤンソンさん、ありがとうございます。もう1度そこから考えてみます」


 倒れた椅子を直し、僕は再び机に向かってレシピを考え始める。


 う~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん……。


 瞬間、僕の頭は「ボンッ」と何か破裂した。

 ダメだ。やっぱり思い浮かばない。


「こりゃ重傷だな。……ん?」


「失礼します、ルーシェル様」


 炊事場に入ってきたのはリチルさんだった。少し神妙な顔を僕に向けた後、お客さんを紹介した。入ってきたのは、男物の執事服を着た女性の黒狼族だった。


 ロラン王子の側付きのクライスさんだ。

 珍しい……。いつもはロラン王子が側にいるはずなのに。もしかして王子に何かあったのだろうか。


「ルーシェル様、何も言わず急ぎ王宮にお越しいただけないでしょうか?」


「え?」



 王宮に?



 ◆◇◆◇◆



 ともかく僕はクライスさんとともに馬車に乗る。理由を尋ねても、クライスさんは「王宮に到着してからお話します」の一点張りだ。

 普段からあまり表情を見せず、常に硬い顔をしているクライスさんだけど、今日は何か焦っているようにも思う。やはり傍らにいないロラン王子に何かあったと考えるべきだろう。


 馬車は勢いよく王宮に入る。そのまま正門を素通りして、裏門に横付けされた。クライスさんに案内されるまま廊下を進む。王宮は広く、迷路のように入り組んでいる。その中でクライスさんは1度も立ち止まらずに、ある扉の前までやってきた。


「ルーシェル様」


「はい」


「この中で起こってること、見聞きしたことは絶対に口外なさらないでください」


「それは僕の家族にもってことですか?」


 クライスさんは神妙な表情のまま頷く。僕の家族にすら言えないということは、よほどのことなのだろう。


 クライスさんがノックをすると、「入れ」と声が聞こえた。くぐもっていたけど、ロラン王子の声だったような気がする。


 いよいよ中に入る。そこは広い部屋だった。小さな書斎に、家族が十分くつろげるほどのソファ。貴重な紙の本が並んだ書棚まで置かれている。どの調度品も凝った細工がされていて、かつ煌びやかだ。


 そして一際目立つのは、天蓋付きのベッドだ。レースのついたしっかりした作りのベッドは、象だって寝そべれそうなほど広かった。


 その周りに典医とおぼしき白衣の人がいて、さらにロラン王子も混じっていた。


 そこで僕はピンとくる。明らかに他と一線を画す格式張った部屋。さらに豪奢で広い天蓋付きの椅子。そして白衣の典医。そして王子が僕をここに呼んだということは、僕も関係者の一人ということだ。


 王宮の中で、僕が知っている関係者は2人。ロラン王子と、国王陛下だった。


「むっ? ルーシェル君ではないか」


 その元気な声に、僕は一瞬呆然とした。

 すると、ベッドの上で養生する人間と目が合う。思いの外、その青い瞳は少しひょうきんに思えるほど大きく見開かれていた。


「国王陛下」


 僕は膝を突く。


「陛下の私室とは知らず、申し訳ありません」


「よい。どうせロランがそなたを呼んだのであろう。まったく大げさだな。余はこの通り元気だというのに」


「父上、油断は禁物です。いつまた発作が起こるか」


「発作も何も余はこのように元気なのにな。ところでルーシェル君。余に料理を振る舞ってくれるそうだな。どんな料理を作るか決まったかな?」


 いきなり料理の話題を振られ、僕は慌てふためく。


「いや、その……」


「どうやらまだのようだな。あまり悩まずとも、そなたの好きなものを作ると良い」


「はい……」


「ルーシェル、来た早々で悪いが陛下をお前の魔法で診察してくれないか?」


「え? でも……」


 僕は典医の方を見る。陛下の御殿医を差し置いて、僕が陛下のご病気を見るのは、大丈夫なのだろうか。もしかして典医の方が気を悪くするかもしれない。たぶん、それはロラン王子もわかってることだろう。


 それでもロラン王子がクライスさんを使いに寄越してまで、僕を呼び寄せたのには何か訳があるのだろう。王子しか気づいていない何か……。


「わかりました。陛下、よろしいでしょうか?」


「私からもお願いします、陛下」


 僕とロラン――2人の子どもから迫られると、陛下は少し困ったような表情を浮かべた。そして助けを求めるように典医の方を向き、躱そうとする。だが、最後には熱意に負けて、寝間着を捲った。


「わかった。よろしく頼む」


「ちなみに発作とは、どういった症状なのですか?」


「急に胸に激痛が走って、苦しくて息ができなくなってしまったのだ」


「急に激痛……」


 ひやりと背筋が寒くなる。

 嫌な予感がしたが、僕は問診を続ける。


「その症状はいつから?」


「最近じゃな。いきなり痛くなったと思ったら、しばらくして痛みがなくなるのだ。なんとも不思議でのう。典医も困ってる」


 まさか……。


 僕は【竜眼】を使った。

 見えてきた国王陛下の状態を見て、顔から血の気が引いていく。真っ青な僕の顔を見て、ロラン王子は何かに気付いたのだろう。


「ルーシェル、はっきり言ってくれ」


 ロラン王子に言われたけど、僕は言うのを躊躇ってしまった。どうしよう。本当に言っていいものだろうか。


 すると、国王陛下と目が合う。大病を患いながらも、その目は実に穏やかだった。


 たまに王都を散策するけど、アウロ国王陛下を悪くいう人はいない。賢君と知られ、民からも慕われている。他の国々との君主とも仲良くできているそうだ。


 そんな国王陛下を、ただこのまま黙ってみているわけにはいかない。それに少なくともこの病気については、僕も無関係ではなかった。


「申し上げます。陛下は呪いを受けておられます」


「なんと! 呪いか?」


「はい。おそらく――――」



 竜牙の呪いと思われます。

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